12:伴田と牧野
2月15日 昼
コミュニティー
重厚な扉の横にある緑青が浮いた大きなプレート、良く見ると“柊第二中学校”と掘られてある。廃校になり随分と経ち市の管理であったが、レビスのパンデミックにより感染症患者の隔離施設となった。しかし、隔離政策に問題があり、感染者達も差別的な扱いへの不満が爆発、この施設は感染者達が占拠し、現在は感染者達が独自ルールを作り市との交渉の上、衛生管理上の問題から生活インフラと最低限の食料は市によって負担され、感染者達のコミュニティーと成っている。現在此処には100名近い感染者が生活している。1Dと書かれた教室、中は古びたカーテンで仕切られ数名が共有している。その一つ、窓際の区画で伴田は窓からの陽を受けながら本を見ている。ガラガラと引き戸の音がして、「伴田さんおるか?。」と年老いた感染者が声をかけた。
「その声は、牧野さんですね。」と柔かに伴田が答えた。床を擦る足音がし、「開けるよ。」と(伴田)と書かれた紙が貼ってあるカーテンを開け牧野が満面の笑顔で入ってくる。「それ、ここに来た時に持ってきた本か?。」牧野は荒れた肌では分からないが立ち姿や少し足を引きずる様子からかなりの高齢に見える。「あ、牧野さん、、、ええ、そうです。」と伴田が少し心配そうに言う。伴田の様子を察し牧野が返す「最近、疲れがね。いや、まだまだ働けるし、役に立てるよ。ははは。」と笑った。少し安心したように伴田は笑を浮かべ、「これ卒業アルバムなんです。」「ほぉ、あんたの子供の頃か?写真見せてくれよ。」と牧野はちょっとワクワクしている。「あ、私のというか。私が教師をしていた時にやつです。」「なんだ、そうか。じゃ、青年伴田が見れるな。」「でも、私は事情があって卒業前に学校を辞めたので、催事の写真に風景みたいに居るだけですよ。」と苦笑いしながら、ページを捲り牧野に見せた。「はは、これエキストラだね〜。」と牧野は大笑いする。「そうですね、ははは、、、途中で辞めたので諦めてたら、校長が後で送ってくださいまして。」「そっか、あんた、ここに来た時、服が少しと何冊か本しか持ってなかったね、その中の一冊がこれか。」とニコニコしながら牧野は言う。伴田は何かを思い出し懐かしむような表情で卒業アルバムを眺めている。
「伴田さん。」と牧野が少し改まって言う。「はい、どうしました?。」と様子を察し伴田が言う。「伴田さん、わしゃそろそろ近いと思うんです。」という牧野の言葉を受け止め少し寂しげな目元になる伴田。「伴田さん、カトリックだよね?。」「はい、よくご存知で。」「下げとるからな。」と伴田の首にある小さな十字架を指さす、伴田は笑顔で頷いた。「わしもカトリックでね、ま、親がそうだっただけで、わしゃ大して信心深くないんだけどね。」少しふざけた様子で牧野は言う、そして続けた。「ま、そんな人間でも最後はこんな姿じゃなく、ね、元の体になってあの世に逝きたいんですよ。ま、神頼みちゅう訳で。」と伴田に穏やかで深い目を向けながら言う。伴田も少し寂しさが混ざった笑顔で答える。「、、、好きな一節はありますか?。」牧野は準備していたかのように答える「シラの光り輝く太陽は、、、ってやつ。」「わかりました。」「ありがとう、じゃ、頼んだよ。ははは、、、。良かった。ありがとう。」と悲しい会話を明るくしようと小気味よく交わし、牧野はガラガラと引き戸を鳴らし出て行った。
佐久間の部屋
ネットでレビス関連ニュースを調べて居るとSNSのポストに、レビスサバイバーの自宅に複数名が侵入しサバイバーに液体を掛け逃亡という事件を見つけた。一瞬で体が固まり呼吸が浅くなる、落ち着こうと目を閉じるが喉が詰まったようになり、口の中を動かし溜めた唾液を飲み下す。「はぁぁぁぁ、、、。」と目を閉じながら息を吐くと‘’ドア‘‘’鍵‘‘’後付け‘’と検索をした。検索結果をいくつかクリックしている内にバカバカしくなる、(何やってんだ、、、。書かないと、、、。)と自分に言い聞かせブラウザーを閉じ、書きかけのファイルを開く。取材レポを書き進めるが文字数は増えない、書けても何度も何度も直す、、、その内に集中力が続かなくなって来たので、諦め眠る事にしベッドに潜り込む、室内や外の些細な音が大きく聞こえる。「幻聴幻聴、、、何も無い大丈夫、、、。」と呟きながら布団を頭まで被る、布団の中で耳を塞いでも罵るような言葉が聞こえる気がする。
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