4:陰性
2月2日 朝
病室
深く長い欠伸をしながら体を捻る、目覚めがスッキリしている、普段の生活が不規則だったと反省する佐久間。手首の体温と心拍センサーはグリーンが灯る、こんな小さな機械に安心している自分がちょっと可笑しい。「佐久間さん、どうですか?。」ノックも無しにドアを開け顔を覗かせ佐久間に話かける、主治医の村上である。「入りまーす。」昨日は口調の軽さが気になり服装はあまり気にしていなかったが、よく見るとドクターコートは何日も変えていないのかシワが入り、足元はサンダル、無精髭、清潔感無く無駄に大柄な村上、彼が主治医である事を佐久間は少々不快に思う。
「お宅の方も問題無かったようですよ。」と暑苦しい笑顔の村上が言う。「いろいろありがとうございました。」佐久間はベッドに腰掛けながら言う、「いえいえ、当然の事なんでぇ、なんだか随分春っぽくなりましたね。」と雑に頭を軽く下げ、手を振りながら村上が言う。村上から視線を外し窓を眺めると、空の色は冬の空気感はあまり無くなっている、透明感を感じる空の青。佐久間の視線を追って窓を見る村上「そろそろ、桜ですね。」と適当に言うと、「ま、その前に梅ですね。」軽く嫌味のつもりで佐久間は被せる。「桜の頃には釈放です。」鈍いのか、佐久間の嫌味に気づかない村上が言うが「釈放?。(犯罪者扱いか?)」と佐久間は口調を僅かに厳しくした。流石に、これには村上も察したか、誤魔化すように「あー、この病気、イメージがね、なんで、悪ふざけですね、すみません。退院です。」と目が笑っていない笑顔で言う。佐久間は昔から嫌味や差別的な言葉に過敏で、無配慮にこの手の言葉を発する人間は好きでは無かった。(早く行ってくれ。)と横目で見る佐久間に全く気付かない村上は機器の数値などをチェックすると「じゃ、また!。」と病室を出た。
病院廊下
廊下をダラダラと歩く村上、後ろから小走りに駆け寄る田崎「村上先生、佐久間さんどうでした?。」「おめーは、いつも爽やかだね〜。」と揶揄う村上。「はい!。」と僕はいつも爽やかですから!と言わんばかりの自己肯定感が強い田崎。「ま、問題無いんじゃね?。あ、明日午前中に血液検査ね。」と村上が指示する、「了解しました。」と田崎はタブレットのスケジューラを操作する。その様子を見ながら思い出したように「田崎ぃ。」村上は声を掛ける。「あー、はい。」視線はタブレットに残したまま、気の無い返事の田崎。「吉村先生の患者さんで、大島さんだっけ、どうなった?。」「あー、先週救急で運ばれた人ですよね。」ゆっくり顔を上げながら、呟くように答えた。「そうそう。」と頷く村上、「あーっと、確か2回目の検査もダメでセンターに転院じゃなかったかな?。」それが何か?という面持ちで田崎は村上に言う。「あ、調べますか?。」何とも言えない村上の顔を見て、ちょっと面倒だなを思いつつ田崎は言った。村上は「そっか、、、」と目を逸らしつつ頷き「いや、いいよー。」と作り笑いで言う。「はい、じゃ、失礼しまーっす!。」そう言うと田崎は小走りにエレベーターに向かった。「あいつセンターの事、知らねえのか?、、、。」田崎の背中を少し見つめながら村上は呟き「友達がレビスになったとか言ってたのに、あんま人に興味無いのかね、、、。」微妙な表情の村上、だらし無くサンダルを擦りながら診察室に戻る。
2月3日 朝
病室
「おはようございまーす。」村上が採血に来た。相変わらず人との距離感がかなり近く、声すら不快になってくる。「佐久間さん、採血しますね。腕捲ってください。」佐久間の腕に駆血帯を巻く、ヒヤっとするアルコール消毒をしながら「チクっとしますね。」っと子供を相手にするように言う。翼状針を静脈に刺すと採血管を何度か替え採血が終わった。「終わりましたよー。これから検査に回すんで、1~2時間で結果でるんで、後でまた来まぁ~す!。」とチャラく言う村上がいつも以上に不快に感じる。
2時間くらい経つと村上と田崎がやって来た、「そろそろなんで。少々お待ちくださいね。」と言うと村上は続け様に無意味な雑談を始める、どの看護師が可愛いだの、昔自分はこうでしたのと、何か言った締めに、『佐久間さんもそう思うでしょ?。』と同意を求めて来るところがイライラする。雑談が少し苦痛になっていると、ヴーヴーと村上のスマホが振動している。「あ、結果出ましたね。」とスマホを覗き「佐久間さん、ネガティブっす。退院です!。」と陽気な村上、「そうですか、良かった、、、結果でるまではやっぱり緊張しますね。」思った以上に安堵する自分に少し驚く佐久間。「良かったですね。でも、まだ経過観察ありますから、退院しても薬は忘れないようにしてください。」と田崎がクリアケースを差し出す。村上はケースから薬と書類を出し佐久間に見せ説明を始めた。「説明義務があるんで。えっと、1ヵ月分薬が出ますこれはウィルスを抑制する薬です、これは必ず飲んでください。就寝前に1回1錠です。あと睡眠導入剤と安定剤が結構入ってます、これは適宜で。あと超面倒くさいんですが報告義務があって、毎日の検温と位置情報の提供になります。まずは、IMASというアプリをスマホに入れて、GPSを通知にして体温計の番号を登録します。」ケースの中から説明書を取り出し「面倒ですよね?。」と苦笑いする村上。「仕事柄スマホは苦手じゃないから大丈夫です。」と言いいながらアプリのダウンロードなど書かれた説明書を受け取る、(相変わらず、行政の資料が理屈っぽいか子供向けの変なイラストが無駄に有って見辛いな。)と思いながら流し読みする。そんな佐久間を気にもせずに村上はさらにケースから体温計を取り出し「体温計はコレです、コレは体温と心拍も計測できるのでスマホと連動させてください、そうすると自動で体温と心拍データがこちらに送信されます。位置情報は、ま、強制的に取られますね。はは、、、。えっと、それで、2週間後と1ヵ月後に診察に来てください。この時は採血をします。あくまで念には念をという感じですね。あとは。。。」と首を傾げ村上が考えていると「あと、この期間は濃厚接触禁止です。」と田崎が言う「のーこー?。」と佐久間が少し冗談っぽく言う、「そうです‘’のーこー‘’です。」佐久間の様子に笑いを堪えて半分冗談で田崎が返す、「相手いませんよぉ!。」佐久間が笑いなが自虐っぽく返す。楽し気な2人を見て、なんとなく仲間外れ?と2人を見る村上。
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