危機の増殖・2
スタッフたちはいったんコア・キューブの医務室に退避した。何事かを企んでいる須賀たちを為す術もなく見守っていることには耐えられなかったのだ。
しかし彼らは、コア・キューブに身を隠しても落ち着くことができなかった。
部屋の隅にうずくまった二階堂は、熱に冒されたかのようにつぶやき続けていた。
「殺されるのよ……みんな殺されるのよ……」
負けん気が強い峰でさえ、すでに二階堂を叱る気力を失っていた。全員、床に目を落としたまま言葉もない。
一足遅れて医務室に戻った中森が、大西に言った。
「湖の水質の分析結果が出ました。全く異常はありません」
大西は念を押した。
「化学的な毒物は入れられていないですね?」
「確実です」
仁科が言った。
「魚が死んだ原因は、やはりウイルスだろう」
大西はシマダに尋ねた。
「ウイルスだったら分析できないんですか?」
シマダはうなずいた。
「タンパク質が微量すぎてガスクロでは反応を得られん」
しばらく考え込んだ大西は、不意に室井の腕を取った。
「室井さん、内密のお話があるんですが」
室井はあからさまに迷惑そうな表情を見せた。
「こんな時に何だ。何か思いついたのかね?」
「ええ。狙い通りなら、外の奴らを出し抜けるかも……」
スタッフたちが顔を上げた。
室井は言った。
「ここでは話せないのか?」
大西はうなずいた。
「僕らの中に殺人者がいることをお忘れなく」
大西に見回されたスタッフたちの視線は、再び床に落ちてしまった。
室井は億劫そうに腰を上げた。
「簡単にすませてほしいな。疲れていてね…」
大西も席を立つと、スタッフに命じた。
「僕らが戻るまで、全員ここを出ないでください」
芦沢がからかうように応えた。
「いつからあなたがリーダーになったんですか?」
大西は肩をすくめた。
「リーダーじゃありません。しがない探偵ですよ。外の連中を説得するには、中にいる殺人者の企みを暴く必要がある……どうしてもそう思えるんでね。協力してください」
大西は返事を待たずに廊下に出ていた。
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