双子の密室・2

 膨らんでいくばかりの謎に幻惑されながらも、彼らはウイルスの気密保管室とマウスの飼育室を調べた。しかしそこからはシマダが言った以上のものは発見できなかった。

 次に彼らはいったん一階に上がり、再び石垣が殺された地下倉庫に移動した。殺人犯を暴き出すには、もう一つの手続きが欠かせなかったのだ。

 スタッフは多くの疑問を残しながらも、依然としてシマダが連続殺人犯ではないかと疑っていた。その疑いは、簡単な実験で確証に変えることが可能だった。

 地下倉庫のドアに着くまで憮然と白衣のポケットに手を突っ込んでいたシマダが、皆に囲まれて掌紋センサーの前に立った。

「馬鹿馬鹿しいが、やむをえませんな」

 室井が言った。

「あなたが無実であれば、これで疑惑は完全に晴れるでしょう」

 シマダはうなずくと、ポケットから出した右手を廊下にひしめく全員に見せてからセンサーのガラス面に当てた。それは、舞台に上がったマジシャンを思わせる身振りだった。

 だが、〝奇跡〟は起こらなかった。

 センサーは赤く光ったが、ドアは一向に動こうとしない。

 手を下ろしたシマダは溜め息混じりに肩をすくめた。

「この通りです。私の掌紋はこの扉のセンサーには登録されていないのです。つまり私には、倉庫の中で石垣君を殺すことはできなかったわけです」

 室井はうなずいてから振り返り、他の全員に命じた。

「では、念のためだ。順にセンサーに右手を当てるように」

 彼らはセンサーに近い者から前に進み出て、壁の掌紋センサーに手のひらを押し当てていった。狭い廊下で場所を譲りながらぐるぐると回る。

 が、やはりドアは開かなかった。

 最後に室井がセンサーに手を当てた。

 センサーが光って室井の掌紋を走査すると、ドアは滑らかに開いた。

 室井は倉庫の中を覗こうともせずに再び手をセンサーに押しつけた。ドアが閉じると、室井は投げやりにうめいた。

「何だか、自分が殺人犯になったような気がしてきたよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る