『湖』の崩壊・2

 スタッフは研究作業用の白衣を着て医務室から持ち出したゴム手袋をつけ、畜舎の跡に死体を運んだ。

 辺りには動物たちが焦げた匂いが強烈に漂っている。

 彼らはアクリル板の残骸や倒れた樹木を踏みしだいて黒ずんだアルミ枠をくぐり、その内側に死体を並べていった。畜舎の内側に倒れた黒焦げの動物たちも、一ヶ所に集める必要があった。

 死体のうず高い山ができ上ったのは、作業を始めてから三〇分後だった。

 仁科は未知のウイルスに感染することを恐れて、スタッフに細かい指示を与えていた。しかしそれは、彼らの恐怖を高めるだけの効果しかなかった。

 シマダだけが皮肉っぽい笑いを浮かべる余裕を見せていた。

 準備が終わるとスタッフは休憩所に退いた。

 仁科は山積みになった死体に一瓶だけ残っていた消毒用アルコールをかけると、室井が大西から取り上げたライターで火をつけた。小さな炎が広がる。仁科は地面に置いた酸素ボンベから伸びたチューブを炎に向け、バルブを開いた。炎はたちまち大きく燃え上がった。仁科はタンクが空になるまで死体に酸素を送り続けた。

 大西は燃え上がる炎を見つめながらぽつりとつぶやいた

「ちくしょう……煙草が吸いたいな……」

 不本意な死を遂げた三人の科学者は、こうして荼毘に付されたのだった。

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