第10話 目覚め 〜始まりの街ダンク編〜


………。


……鳥のさえずりが聞こえる。



レッシュはゆっくりと目を開けた。

顔がぐっしょりと濡れている。


____泣いていたようだ。


周りを見渡すと、部屋は既に太陽の光が差し込んで明るくなっていた。


夢と現実との間で、暫く寝ぼけてぼーっとしていたが、昨日の記憶が蘇ってきた瞬間、一気に目が覚めた。



「ルーラン?」


すぐ隣を見ると、ルーランが居たはずの場所はもぬけの殻だった。


恐れていた事が現実になってしまったのだ。



「ルーラン!!!」



レッシュはベッドから飛び起き、慌てて寝巻きで涙を拭うと、寝室を飛び出した。



_____嫌だ、昨日の出来事が夢だなんて!

もう今までの生活には戻りたくない!



寝室を出ると、なんだかベーコンの焼けるいい香りがした。


ダイニングテーブルの上を見ると、こんがり焼けたパンと、カリカリベーコン、そして熱々の目玉焼きがお皿に乗せられ、きれいに並べられているではないか。



「…おはよう、レッシュ。よく寝れたか?」


驚いて立ち尽くしていると、サラダの入った皿を持ったルーランがキッチンからやってきた。



ルーランは既に着替えていた。

髪を赤い紐で一つに束ね、袖を高い位置までまくっている。


「驚かせたよな…。俺、めちゃくちゃ早起きなんだ」


ルーランは、レッシュの驚いた様子を見てへへっと笑った。


「これか?さっき朝市へひとっ走りして買ってきた材料で作ったんだ。

…スープも作ったんだぜ?」


ルーランはサラダをテーブルへ置き、再びキッチンに戻ると、今度は湯気が上るスープを盛った皿を2つ手に持って現れた。


「…言い忘れたが、キッチンと皿、借りたよ」


ルーランはテーブルにスープを置くと席についた。


「食べようぜ!…まあ、とにかく顔洗ってこいよ」


レッシュはルーランの顔をじっと見つめた。


………


夢ではなかったようだ。


…良かった。



立ち尽くしているレッシュを見たルーランは不思議そうにしている。



「どうした?…早く食べようぜ?」



レッシュはルーランの言葉で我に帰り頷くと、急いで洗面所へ顔を洗いに行った。



……………。


ルーランの作った朝食は絶品だった。

いつも料理するのかと聞くと、彼は「船の上では料理は当番制で、毎日、朝昼晩のうちどこか一食を担当するんだ」と答えた。


「船員は、俺と親父、あとシナーレの3人なんだ。今は3人で、料理、掃除、洗濯、夜の見張りを交代しながらやってるんだ」


「そうなんだね。…シナーレさんって?」


「シナーレは、俺と親父が旅の途中で出会ったんだ。まだ俺が子供だった頃だな…。以来、俺にとって姉さんみたいな存在なんだ」



その後も食事をしながら、ルーランの仲間達の話を聞いた。


キャプテン•ビオリスは、弟のマシュのように大柄で雰囲気こそ同じだが、マシュのように身だしなみを気にするタイプではないらしい。

無精髭を生やし、髪も櫛は使わず手でサッととかすそうだ。

いつも真っ赤な長いジャケットを羽織っているから、どんなに遠くに居てもすぐ見つけられるし、声がとても大きいので、例えはぐれてしまっても、どこにいるのかすぐに分かるんだ、とルーランは笑った。


「最近、日々のトレーニングをサボっているからなのか、シナーレの目を盗んで酒を飲んでいるからなのか、下っ腹が段々だらしなくなってきたんだ」


ルーランは少し困ったようにベーコンを頬張った。




シナーレは、ルーランよりも少し背が高く、スラっとしていてとても綺麗な人だそうだ。

ショートヘアで、いつもおでこあたりに色とりどりの植物の刺繍が施された布を巻いており、本人曰く〝気合いを入れている〟らしい。

なんでも船の上ではシナーレが1番権力を持っていて、船長であるビオリスでさえ頭が上がらないらしく、口喧嘩するといつもビオリスが負けてしまい、ビオリスはそのまま拗ねて自分の部屋である船長室に帰っていくんだ、と少しニヤニヤしながらルーランが言った。


「シナーレはとっても頭がいいんだ。暇さえあれば本を読んでるし。

勉強はシナーレ、海の知識や剣術は親父から教えてもらったんだ」



ルーランはトーストの最後の一口を頬張ると、にっと笑った。



「早く2人にレッシュを紹介したいな」



「僕も早く会いたい!」



レッシュは胸が高鳴るのを感じていた。








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ルーブ王国の伝説  藤浪智子 @lesh

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