第7話 マーティン兄弟 〜始まりの街ダンク編〜
街はまだ賑わっていた。
子供達は流石にもう家に帰ったようだ。
さっきから姿が見えない。
レッシュとルーランは、お酒に酔った大人達をかき分けながらマシュを探し回った。
レッシュはルーランの手をぎゅっと握った。
この手を離してしまったら、こうして人混みの中を歩き回っているうちに、いつの間にかルーランが消えてしまうような気がしたのだ。
ルーランはレッシュに連れていかれるまま歩いている。
だが、明らかに段々と歩みが遅くなってきた。
ルーランの方を振り返ると、なんだか少し眠そうだ。
…そうか、今日は僕らの為に戦ってくれたし、疲れたよね。
レッシュは一旦歩みを止め、眠そうにしているルーランに話しかけた。
「ルーラン、大丈夫?今日はここまでにして、明日また探す?」
ルーランは首を横に振った。
「いや…、まだ大丈夫だ…。気を使わせてごめんな…。俺、夜が苦手なんだ…。いつもすぐ眠くなってしまう…」
ルーランは目を覚ます為に、空いている方の手で自分の頬を軽く2回叩いた。
レッシュは遠くにペティナの姿を見つけた。
「ルーラン、あの人はペティナさんといって、マシュさんの奥さんなんだ。
ペティナさんに聞いてみよう」
レッシュは、まだ少し眠そうなルーランの手を引いてペティナの方へ向かった。
「ペティナさん!」
ペティナはレッシュの声を聞き振り返った。
「ペティナさん、マシュさん見てない?」
ペティナは、ふふっと笑った。
「あの人なら、あなたを探しにさっき海へ行ったわよ?」
すれ違いだ!
レッシュはペティナにお礼を言うと、きょとんとしているルーランを連れて海へ戻った。
…………
海へ戻ると、先程までレッシュ達がいた場所でマシュが海を見つめたまま立ち尽くしていた。
「マシュさん?」
レッシュが恐る恐る声をかけると、マシュは少し怒った顔で振り返った。
「レッシュ!どこにいたんだ?心配してたんだぞ!いつまで経っても戻ってこないから…」
「ごめんなさい…」
マシュは、ふぅ、とため息をつくと優しく微笑んだ。
「まあ…、無事なら良かったよ」
「……マシュ•マーティンさん?」
後ろにいたルーランが口を開いた。
マシュはルーランの方を向き、うなづいた。
「いかにも、俺がマシュ•マーティンだ。どうした?ルーラン?」
するとルーランはズボンのポケットから綺麗に折り畳まれた手紙のようなものを取り出し、マシュに渡した。
マシュは不思議そうにそれを受け取ると、じっくりと読み始めた。
最初こそ静かに読んでいたマシュだったが、手紙を読み進めていくにつれ、段々様子がおかしくなっていった。
手紙を持つ手がガタガタと震え始めたのだ。
マシュの表情は、怒りに満ち溢れていた。
レッシュは思わずルーランと顔を見合わせた。
「ルーラン…?この手紙、誰からのだ?」
マシュはゆっくりと視線をルーランに向けた。
「きゃ…キャプテン•ビオリスです。…俺、普段はキャプテンと船で旅をしているんです…」
ルーランはマシュの鋭い視線にたじろいでいる。
マシュは視線を手紙に戻したが、怒りで震えるあまりに、なんと手紙が真っ二つに破れてしまった。
「ま…マシュさん?」
レッシュは恐る恐る話しかけた。
「なんて書いてあったんですか?」
マシュは目を閉じ、ふぅ、とため息をつくと、少し落ち着いた様子で話し始めた。
「…読むぞ。…『風の噂で聞いた話だ。〝ダンクに見たことのないような文字が書かれた日記があり、その日記にはこの世で1番価値があるだろう宝物のことが書かれているそうだ〟…気をつけろ』…と、ここには書いてある。
恐らく、この噂を聞いたその〝キャプテン〟とやらが、日記の事を狙う奴らがダンクに来るかもしれない事を教えてくれようとしたんだろう…。ペクトリー一味がダンクに来たのも、この噂が原因だろう。しかし…」
マシュは再び怒りに満ちた表情になった。
「ビオリス!!!あの、クソ兄貴め!!!今更連絡してきやがって!俺がどれだけ心配してたと思うんだよ??しかも手紙だなんて!何故直接会いに来ない?」
「兄貴!?」
ルーランは驚いていた。
レッシュも、マシュに兄がいるのは聞いたことがあったが、まさかルーランと旅をしている〝キャプテン•ビオリス〟が兄だったとは。
「親父に兄弟がいることは聞いたことがあるが…。マシュさんは親父の弟なのか!」
「親父?」
マシュも驚いた顔になった。
ルーランは、自分がキャプテン•ビオリスに救ってもらったこと、過去の記憶が無いこと、そして本当の親のように自分のことを育ててくれたことなどをマシュに話した。
それを聞いたマシュは、うーんと唸った。
「…ところで、ルーラン、君はどうやってダンクに上陸したんだ?船着場にそれらしい船はないようだが…」
マシュは自分のすぐ後ろにある船着場をチラッと見ながら言った。
「親父が船をこの船着場につけてくれたんです…」
ルーランはマシュが手に持っている、引き裂かれた手紙を見ながら言った。
「… 一応明日の朝、ここへ迎えに来てくれる予定です…」
それを聞いたマシュは、うんうんとうなづいた。
「ルーラン、教えてくれてありがとう。俺は、明日兄貴に会うことにするよ」
「…喧嘩したんですか?」
レッシュは聞いた。
マシュは優しく微笑みながら首を横に振る。
「いんや、喧嘩はしてないよ。…兄貴は家出したのさ。…レッシュ、君が生まれるよりもずっとずっと昔、俺達が子供の頃の話さ。実は、君の両親、マルクやテナが伝説を信じて研究を始めるよりも前に、俺の兄貴、ビオリス•マーティンは〝伝説は過去に本当に起こった事実だ〟と言っていたんだ。そうさ、彼は誰よりも先に伝説を信じていたんだ。その結果、どんな事になったか…。
…レッシュ、君には想像出来るね?
______そうだ。街の人々と上手くいかなくなったビオリスは、この街から姿を消した。ちょうど今の君たちと同じくらいの歳だったと思う。あの日から、どこにいて何をしているのか、生きているのか死んでいるのか一切分からない。連絡をくれた事が一度もないんだ」
マシュは長いため息をつき、やれやれと肩をすくめた。
「〝皆んなと違う〟というのは、どうしても批判の的にされやすい。…悲しいな。
どちらも悪くないのにな…。
…まあ、君達2人のおかげで、この街は変わる事が出来たんだ。
兄貴もきっと、この街が変わったことにすぐ気がつくだろう。
なに、明日になれば分かることさ…。ところで、ルーラン。君は今日宿はあるのか?」
ルーランは首を横に振った。
「それなら、うちにおいでよ!僕1人しかいないからさ」
レッシュは少し食い気味に言った。
それを聞いたマシュは、一瞬目を見開いてから大笑いした。
「レッシュ、ルーランと出会ってからなんだか変わったな!!
良かった良かった!
本当にいいことだ!
…ルーラン、お言葉に甘えれば良いさ。
2人とも、何か困ったことがあればすぐ俺に言うんだぞ?
____それが例え俺が寝ている時だったとしても、気にせず叩き起こすんだ。…いいな?」
レッシュ、ルーランはうなづいた。
2人はマシュと別れ、レッシュの家へと続く丘を登り始めた。
満天の星達が丘を登っていく2人を優しく見守っていた。
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