第5話 宴 〜始まりの街ダンク編〜

ペクトリー達が居なくなった後、行方不明になっていた船着場の見張りの男が帰ってきた。


彼は、ずっと海賊船で囚われていたが、ペクトリー達がダンクを離れる時に解放されたそうだ。


見張りの男が帰ってくると、街のお祝いムードはさらに高まった。

人々は、街のちょうど中央に位置するところにある、噴水広場へテーブルなどを出し、それぞれ家庭料理や酒などを持ち込み、勝利を祝った。


空はだいぶ暗くなってきていた。


「…捕まる時ゃ、後ろから殴られたからそりゃあ痛かったけんど、その後は船の中で縛られたまんま放置だったんだ。

変わった奴らでな、怖いこと言って脅してはくるが、俺のことを一切殺そうなんてしなかった」


見張りの男が周りにいる人々に話している。



「中でも、あの〝ペクトリー様〟って言うやつは変わり者だったな…。

〝日記が見つかるまでどうせ暇だから、一緒に『しりとり』しよう〟なんて言い出すんだ。

俺が勝ったら、怒って殺されるかもしんねぇから、どうにか負けようとするんだが、あれは…弱いな」


人々が大笑いしている。

見張りの男も大笑いして酒を一気に飲み干した。



レッシュは遠くにルーランを見つけたが、沢山の人々に囲まれて今は近づけそうにない。

歩き回っていると、人混みの中からマシュをやっと見つけた。


マシュは怪我をした漁師達2人と話をしていたようだ。


マシュは、少し離れたところでモジモジしているレッシュに気がつくと笑顔で手招きした。


「レッシュ!良かった!ちょうど良いところに来てくれた!」


マシュはレッシュの手をひき、漁師達の前へ連れて行った。


レッシュはたまらずうつむいた。


…ぼくは皆んなに嫌われている…



冷たい視線を向けられるに決まっている、とずっと構えていたが、漁師達の反応は思っていたのと違かった。


漁師の2人はレッシュに向かって深々と頭を下げたのだ。


レッシュは驚いて顔を上げた。


漁師の1人が話し出す。



「レッシュ、君の勇気のおかげで俺達は今も生きている。

ありがとう…。

今まで君たち家族のことを変わり者扱いしてきたこと、本当に申し訳なかった。

マシュからあの日記の事、君の両親が何故伝説を信じようとしたのか理由を聞いたよ。…最初は信じられなかったが…。今日、我々を助けてくれた黒髪の青年を見て、伝説は事実なのかもしれない、そう思ったんだ。

伝説の〝太陽王〟が本当にいるとしたら、きっと彼みたいな人だろうね」


「この事は、俺たちから街の人たちに話しておくよ。街の人々も今日の出来事を通して感じた事はきっと同じはず。分かってくれるさ」


もう1人の漁師も微笑みながら言った。


「俺たちも、〝太陽王と光の勇者〟の伝説、信じるよ」



漁師達の言葉を聞き、レッシュは思わずマシュを見上げた。

マシュは黙って微笑んでいる。


マシュの顔を見たら急に涙が込み上げて来た。


その日レッシュは、初めて人前で声を出して泣いた。


寂しさ、悲しさ、恐怖、様々な感情がぐるぐるとせめぎあってくる。


レッシュの泣き声を聞いた人々が、どうしたどうしたと周りに集まってきた。

そして皆でレッシュを優しく抱きしめた。



街の人々はこの時やっと、16歳の少年に対して今まで自分達がやってきたことの重大さを知ったのだ。



………



その後、レッシュは街の人々と沢山話した。


それは、他愛のない話だったが、レッシュはそれでもとても嬉しかった。



街の皆、僕に優しく微笑みかけてくれる!

この時間がずっと続けば良いのにな…


そう思った。


レッシュの思いに気がついたのか、隣にいたマシュがレッシュの頭をくしゃくしゃ撫でながら

「続くさ。明日も明後日もずっと。…本来あるべき姿に戻ったんだ」

と呟いた。



レッシュとマシュの元に、ペティナとアイラが走ってきた。



「もう!また勝手にどっか行かないでよ!!心配するでしょう!」


ペティナが怒った。


「もう、私たちの側から離れないって約束して!まったく、心臓がいくつあっても足りゃしない!」


「すまんすまん!もうどこにも行かないよ!約束する!」


マシュは笑いながら誤った。


その様子を見ていたレッシュに、アイラが近づいてきた。


「レッシュ、勇気があるんだね…」


アイラが話しかけてきた。

レッシュは首を横に振る。


「ううん、僕は決して勇気がある訳ではないよ。…でも、あの時思ったんだ。

〝大切な人を失いたくない〟って。

そしたら、体が勝手に動いていたんだ…」


アイラはレッシュに抱きついた。

レッシュは突然のことに固まってしまった。


アイラは震えていた。

泣いているようだ。



「…レッシュ、パパを助けてくれてありがとう…。…でもね、覚えておいてほしい。私はもう少しで、大切な人を2人とも失うところだった」


アイラはレッシュの頬に軽くキスすると、振り返ることなく友達の元へ走り去っていった。



呆然としていたレッシュは、ふと強い視線を感じ、横をみると、ニヤニヤしているマシュと目を輝かせているペティナと目が合った。


「…色男め。うちの娘はそう簡単にはやれんぞ?」


マシュはずっとニヤニヤしている。


「アイラ、いつのまにかこんなに大人になっていたのね…」


ペティナは涙ぐんだ。



レッシュは急に顔が熱くなるのを感じた。


「あわわわ…ぼ、ぼく、ちょっとその辺歩いてくる!」


レッシュはその場から早く立ち去りたくてたまらなかった。


「あまり遠くに行くなよ?」


マシュはまだニヤついていた。

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