第4話 ルーラン 〜始まりの街ダンク編〜

〝ルーラン〟によく似た青年は、とても驚いたような顔をしていた。

大きい目をさらに見開いている。


「君…、俺のこと知っているのか?」


レッシュはさらに驚いた。

この青年は、母の書いた絵本の主人公〝ルーラン〟に似ているだけではなく、なんと名前まで同じだったのだ。


格好は流石に絵本に出てくる異国のデザインの服ではなかった。

黒色の長袖シャツを肘まで捲り上げ、デニムのズボンは少し彼には大きいのか、茶色の皮のベルトをしている。


ルーランの登場により、この街に流れる時が止まってしまったように感じた。


海賊達も街の人々も皆、この美しい青年に見惚れているようだった。

身動きひとつせず、この場にいた全員が青年を見ていた。


……


「俺のこと…知っているのか?」


ルーランは透き通った声で再び聞いてきたが、ルーランの問いに、レッシュはとっさに返すことが出来なかった。

驚きすぎて声にならない声が口からこぼれでる。



彼はは不思議そうに首を傾げた。


「…ところで、君、何で襲われていたんだ?」



ルーランの言葉に皆我にかえった。

止まっていた時が再び動き出す。



「お、おい、お前!俺たちの邪魔をして、ただで済むと思うなよ?」


海賊達が動揺しながらルーランを指差し、口々に叫んでいる。


ルーランは海賊達に向き直った。

そして、手にしていた剣を海賊達の方に向け叫んだ。


「ええい!よくわかんねぇけど…どっからでもかかってこい!」



…………。



あっという間だった。

海賊達は皆地面の上に伸びている。


ルーランは、誰も切ることなく勝った。

剣を使うというより、剣を持っていない方の手で海賊達を殴っているように見えた。


ルーランは、背中に背負っていた鞘に剣をしまうと、呆気に取られている街の人々に向かって叫んだ。


「誰か、ロープを持ってきてくれ!」


すると怪我をしていない漁師達がすぐにロープを持ってきた。

街の人々は皆、歓喜に沸いた。

そして突然現れたこの救世主を称える為近くに集まってきた。


「あんた、強いんだな!」

「たいしたもんだよ!」

「助けてくれてありがとう!」


ルーランはそれらの声かけに、ただニコッと微笑んだだけで、それ以上何も言わなかった。


ロープでグルグル巻きにされた海賊の男たちは皆なすすべなく俯いている。


ペティナとアイラに支えられたマシュが海賊達に聞いた。


「何でこの街を襲ったんだ?レッシュが持っているあの日記が何故ここにあるって知ってた?日記を奪ってどうするつもりだったんだ?」




「…決まってんだろ?お宝だよ!お•た•か•ら!

その日記にはお宝のありかが書かれてるっていうじゃねぇか!」


海賊達ではなく、何故か上空から返事が聞こえてきた。

その場にいた全員が上を見る。


見上げた先に、家の屋根の上に、1人の男が立っていた。


海賊達は屋根の上に立つ男をみるなり顔をパッと輝かせた。


「ペクトリー様!」



レッシュは思い出した。

今朝方、海賊達の会話を盗み聞いた時に〝ペクトリー〟という名前を聞いていた。

恐らく、彼らのボスだ。


ペクトリーというその男は再び屋根の上から叫んだ。


「ぬぁーにやってんだよ、お前達?

人を傷つけんなってあれほど言ったじゃねぇか!

それに、ほんとなっさけねぇーな!たかが小僧っこ1人に負けてんじゃねーよ!」


それを聞いた海賊達も口々に言い返す。


「ペクトリー様!こいつただもんじゃねぇんですよ!」



「お前達、弱すぎんだよ!日々の訓練をサボってたんじゃねぇのか?」



「そんなにいうんならご自身で戦ってみたらどうですか?」



どうやら仲間割れしているようだ。

言い合いをしている。



ペクトリーは、フッと笑うと屋根から飛び降りてきた。



縛られた海賊達とルーランとの間に見事着地すると、腰にささっている2本の剣を抜いてルーランの方を見た。


…強靭な足だ。

三階の高さから飛び降りたのにも関わらず、何事もなかったかのように普通に立っている。



それをみたルーランもすかさず剣を抜いた。



ペクトリーは他の海賊達よりだいぶ若いようだ。

20代後半くらいだろうか。


白いタンクトップを着て、金の鎖のようなネックレスをしている。

黒色のズボンには沢山ベルトが付いていて、何に使うのか分からないようなありとあらゆる武器がぶら下がっている。


そして何より目を引いたのは、変わった髪型だ。

髪は額の上から頭の後ろまで頭の中心部分だけツンツンと立っており、まるで鶏の鶏冠のようだ。

その鶏冠のような部分以外は全部狩られている。

今は吊り上がった細い目で、目の前のルーランをじーっと見ている。


「小僧、覚悟しておけよ?俺様は強いんだ」


ペクトリーはルーランにジリジリと近づいてきた。


「この〝ペクトリー様〟と出会ってしまったこと、きっと心の底から後悔すると思うぜ?」


ルーランの剣を握る手に力が入ったのが見えた。


ペクトリーもそれに気がついたようだ。


「どうした?俺様の事が怖いのか?試しに〝ペクトリー様許してください〟って言ってみなよ?もしかしたら許してもらえるかもよ?」


ペクトリーはルーランの目の前でピタッと動きを止めると、ルーランを見下ろした。

…背がとても高い。

そして、急にルーランの事を上から下まで舐め回すように見ると何故かニヤリと笑った。


ルーランはペクトリーの視線を気持ち悪く思ったのか、少し後ろに下がりながら静かに言った。


「…お宝かなんだか知らないが、ここから出て行け!これ以上この街の人たちに手出しするような事があれば、俺はお前を倒す」


ペクトリーはスッと真顔になると叫んだ。


「一つ!訂正しておくが、俺様のモットーは〝宝は盗むが武器を持たない相手を傷つけるな〟だ!

今回、武器を持ってない漁師達を傷つけたのは悪かった。後であいつらにはよく言っておく。

ま、それはさておき…。

…俺様、もうよくわかんねぇ〝日記〟のことなんかどうでもよくなっちまった…」


ペクトリーは再びニヤッと笑ってルーランを見た。


「俺様、お前に興味津々だ。

今は強気なお前が、その綺麗な目に涙浮かべながら俺様に許しを乞うてる姿、見てみたいなぁ…。…想像するだけでゾクゾクするぜ…。

…お前、武器持ってるよなぁ?切ってもいいよな?」



そして持っていた2本の剣を交互に舐めるとルーランに切りかかった。

ルーランはすかさず攻撃を避けると、目にも止まらぬ速さでペクトリーの剣を2本とも吹っ飛ばした。


「おわっ!?!?」


ペクトリーはたまらず尻もちついた。


それを見た、縛られたままの海賊達が、だから言ったのに、とため息をついている。



街の人々は再び歓声を上げた。



ペクトリーはすぐ起き上がり、吹っ飛ばされた剣を素早く拾うと、頭を掻きながら大笑いした。


「あっはっは!尻もちついたのなんていつぶりだろうか!…コイツはいい!気に入った!

俺様は決めたぜ?今度会った時は〝許してください〟というまでお前で遊んでやる!いいか?覚悟しとけよ?

次は本気出してやる!!

覚えとけよ?俺様は本当に強いんだ!…本気を出させたら怖いぞ?」


そうルーランに言い放つと、ペクトリーはズボンのポケットから変な色の玉を取り出して地面に叩きつけた。

すると一瞬で辺りはなんだか少し臭う煙に包まれ、煙が消えると、そこにはペクトリーをはじめ海賊達の姿は無かった。


逃げたのだ。


煙が完全に消えるまで皆むせかえっていたが、完全にペクトリー達が居なくなったのを確認すると、街は再び歓喜に沸いた。







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