第29話 ある咎人の最期

アズマ国惑星ロッコウ、フクハマ市の某所のことである。大きな佇まいの暴力団事務所のことであった。事務所内は死屍累々の様相となっていた。

窓が割れ、椅子や棚が破壊され、無数の弾痕が壁という壁に生々しく残っていた。あたりには事務所にいたであろうヤクザどもが顔面や腕の骨を折られた状態で全員倒れ伏していた。

その惨状の真ん中には二人の人物が存在してた。

一人はシン・アラカワ。もう一人はジャック・P・ロネン、歴戦の傭兵集団フルハウス隊の元隊長で彼もまた猛者だ。

色黒で長身のジャックは彼自身の背丈よりも大きな武器を持っていた。斧にも機関銃うにも似ていたその武装の銃口から煙が吐き出されていた。

「俺はタバコは控えているがな。前だったら悠々と吸っていたぜ」

ジャックは喫煙者だったが、ある事件を期にタバコを完全に断っていた。

「ライターは持っているんだろう」

ジャックはライターを器用に片手で弄りながらこう答えた。

「まあな、ある種これはルーチンだからな」

ジャックが金属製のライターを着火する。火を見つめている間にシンはユキと連絡をとった。

「ユキ」

「限界ね。そろそろ警察がくる」

「進捗は」

しばらくしてユキが答える。

「予定通りね。三〇秒前に完了したわ」

「わかった。標的は回収する」

シンは通信を切る。

ジャックは金属製オイルライターの火を見つめていた。ライターは特注品なのか凝った紋様と金属の質感が妖しくも美しい品である。

彼の手のひらでゆらゆらと火が揺らいでいた。







彼らがこの事務所を襲撃したのは五日前のある出来事がきっかけであった。

その日の依頼は貴重な物品の運搬警護とそれに関わる人員の安全を確保することにあった。

シンは全体の指揮、ユキは監視装置を用いた後方からの情報支援、そしてその日現場に出ていたのはジャック、アディ、カオリの三名であった。

「シンさん、ちょっと」

「どうしました?」

指揮所でパソコンを見つめていたユキとシンの二人に話しかけたのが今回の依頼人の『ギルダン・A・レイズス』である。彼はバレットナイン・セキュリティのお得意様の一人でAGU出身のインセク人紳士であった。星間往来船の設計技師であり、高名な収集家であった。アレキサンダー・スタドニクの会社の人間ではないが、縁があって彼の会社のいくつかの業務に関わっていた経験のある人物である。コンピューター関連の業務や船の設計などの業務に携わり、現場で深く信頼された人物であり、温厚で人当たりがよいことから、カズことカズマ・L・リンクスやアレックに『おやっさん』と慕われていた。バレットナインへの依頼はアレックの人脈を縁にしたものである。

「いつもいつも丁寧な仕事をありがとうございます」

「礼はいりませんよ。仕事ですから」

シンが微笑んでそう返すとギルダンは虫の顔をカラカラと鳴らしながらあるものを持ってきた。それは和菓子であり、見た目からして美麗で美味しそうな逸品であった。

「最近アズマ国に仕事以外にも旅行に行くものでね。あそこの菓子は美味しいものですよね。ああ、よければ食べてください」

「悪いですよ。そこまで気を使わなくても」

「長い業務は糖分が欲しくなると思いまして……普段からの感謝を込めて部下に頼んでおいたのです」

「すみません。ギルダンさん」

「ありがとうございます」

二人は照れくさそうに微笑むとギルダンさんがカチカチと下顎を鳴らすように笑った。

「礼はいりません。業務パートナーですから」

「なるほど」

そう言ってユキとシンは焼いた和菓子の一つを頬張る。口いっぱいに餡と生地の優しい味が広がり、二人は大層幸せな気分になった。

「フクハマもいいですがワキョウは菓子が美味しくてね。あそこは昔から好きなところなんですよね」

「ワキョウですか、自分は一度行ったきりです」

「そうか。色々素敵な場所があるから、アラカワさんと旅行したいものですよ」

「……もしアズマ国を立ち寄るなら。ですがそれがいつになるかは未定ですね」

「そうか……その時が来たら教えてほしい。いくつか紹介するよ」

「ぜひ」

そんなやりとりを交わした後、その日の業務をシンたちは淡々とこなした。仕事はいくつか気になることがあったが完璧なプランのもと安全に遂行することができた。業務遂行後はとても和やかな別れとなった。シンたちバレットナインは笑顔でギルダンを見送った。それがギルダンを見た最後の姿であった。

その日の三日後、ギルダン・A・レイズスは悲惨な姿で確認された。

緑のおびただしい血痕に千切れた手足、ギルダンの遺体は悲惨な状態で警察に発見された。

その遺体には家族、そして妻が縋り付くようにして泣いていた。

彼の葬儀の後、シンは総出で彼の事情を知る人物を捜索する。そして、ある人物にコンタクトをとった。ジョージ・H・ウェルズ、共和国でも有数の大作家だ。

「ウェルズ、ギルダンのことを知っているか」

「知っている。その件は……本当に残念だった」

「ギルダンのことで何か聞いてるか?」

「船がらみはな……あの辺りは利権の争いがあるからな。どうもギルダンを妬んていた人物がいたらしい。船の設計技師だ」

「……誰だ?」

「最後に会ったのは……『アダム・サカキバラ』だと聞いている」

「……」

「奴はアズマ国のヤクザと繋がりがあると噂だ……彼自身もヤクザだと聞く」

「どこだ?」

「アズマ国の暴力団組織、『南方羅刹連合』傘下の武闘派『藤竜会』だな。金と暴力のために手段を選ばない連中で警察すら恐れず、あの『金剛会』相手にも引かない狂人の……」

「それだけ聞けば十分だ」

シンはそう言ってその場を去った。その日のうちにバレットナイン・セキュリティは総出でアダムを捜索する。アダムは数人のアズマ人の手下を連れていた。だが、一秒の間に全てカオリの手で両断された。そしてアダムは捕まった。

彼は捕獲された後、自らの命惜しさのために全ての悪行ひいてはギルダンを殺害した事件に間接的にだけ関わったことを白状した。実行犯は藤竜会であり自分は金欲しさと一時の魔が差したことで組織に協力したから命を助けてくれと発言した。

だが、シンは彼を許すことはなかった。

「カズ」

「はい」

「すまないが席を外せ。やってもらうことがある」

「わかった」

カズはそう言ってカズだけはその場を去った。ジャックはアダムの横で何か装置の調整と硬式のボールの補充を行なっていた。

「な、な、なあ、俺はアダムを嵌めるだけのつも、つもりだったんだよ!」

「…………」

「た、頼む!金でも船の利権でもなんでもやるんで命は!命だけは!頼む!頼む!」

「……おい」

「え?」

シンは無表情でこう言った。

「野球やろうか」

「……へ?」

シンの発言を合図にジャックたちはアダムを無理やり椅子に括りつけた。

そして、シンは機械のスイッチをゆっくりと押した。装置の駆動音が暗闇に響く。その意味を理解したアダムは末期の叫びをあげた。

「や、や、や、やめろ!う、うぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

倉庫にアダムの叫びが響いた。

だが、それを聞くものはバレットナインの者しか存在せず、アダム・サカキバラの遺体は人知れず消失した。







そして、さらに二日後の惑星ロッコウ、フクハマ市の寂れた旧宇宙港に大勢の黒いスーツの男たちが並んでいた。藤竜会である。彼らはある人物を待っていた。

「兄貴、サカキバラの叔父貴の話って何ですかね?」

「さあな。トラブルがあったと聞いているがな」

異様な雰囲気のヤクザどもが個人用旧式スターシップの前でサカキバラの姿を待った。

ヤクザの一人、子分である男がそのスターシップの扉を開放するために扉のボタンを押した。扉がゆっくりと開かれる。

次の瞬間、男の片腕が両断される。

「ぎゃあああ!?」

腕を切断されたヤクザはそのまま首を切断された。それを皮切りにジャック、シン、ユキ、アディが一斉射撃を行った。弾雨と熱線の瞬きがヤクザたちの肉体をズタズタに裁断する。

「な、……え?」

兄貴と呼ばれた男はそれが最後の言葉だった。

アディの胴体から生えた蠍の尾が彼を永遠の沈黙をもたらした。首を尾で刺された男はもがき苦しみながら息絶えた。

「ブロック・アルファとブラボーはアディとカオリが、ブロック・チャーリーとデルタはロバートと『ロメオ2』、ギーツがやれ」

「了解」

「承知」

「了解」

「はい」

「オッケーだぜ」

「ユキとカズは各員に情報支援を」

「わかった」

「……シンは?」

「ジャックと共に『本丸』を潰す。以降、俺たちは……ロメオ1、3と呼称する」

本丸。『南方羅刹連合』傘下の『藤竜会』の本部のことであった。

通常、敵の拠点を潰すのに綿密な下調べをするのがバレットナインの流儀であったが、今回は必要なかった。なぜならば、アズマの暴力団事務所は代紋を掲げてその居場所を露呈させている。それがこの国の暴力団組織の特徴であったからだった。

シンとジャック、すなわちロメオ1、3は覆面と重装備を整えた後、『本丸』へと突入する。シンは減光装置付きの粒子拳銃とサブマシンガン、ジャックはある大掛かりな装備を調達してた。

ガンアックス。本来なら大型生物に使う狩猟用の銃器であったが、調達が容易であることと特定が難しいことからハンターだけでなく軍人上がりの自警団や熟練の暗殺者が正面から外敵と対峙するのに好んで用いるとされていた。各々の武器を手にシンとジャックは慣れた動きでヤクザたちを始末する。ヤクザたちは無闇に銃を乱射していたが二人に命中することはなかった。

シンの動きは流麗で精密な動きでヤクザたちを確実に仕留めていた。

胴体と頭。足と頭。足と心臓。肝臓と首。あるいは、ミシンの音のような銃撃が敵の急所を的確に貫通する。シンの正確な銃撃は敵の命を次々と刈り取っていった。

一方のジャックは敵を粉砕すると表現のにふさわしい戦いをしていた。近寄ってくる敵には豪快に両断するか。首をへし折るかという選択をする。そうして強敵たちをあっさりと無残な死体へと変貌させ続け、二人はある一団を発見する。

それは組織の幹部とその護衛であった。

ジャックが護衛を肉の粉末へと変えた時、生き延びた老人が醜い命乞いを始めた。シンが部屋の額縁を見ると老人の顔写真が飾られていることから彼の素性を理解した。

「待て、金、金ならいくら__」

「いらねえよ」

シンはそう言って藤竜会会長の歯を素手で引き抜いた後、右目にその歯を突っ込んだ。

「ああああああああああああ!!」

シンが藤竜会会長の指の一つを逆向きにへし折った。彼は強烈な痛みのために気絶した。

かくして、事務所内は死屍累々の様相となっていた。

窓が割れ、椅子や棚が破壊され、無数の弾痕が壁という壁に生々しく残っていた。あたりには事務所にいたであろうヤクザどもが顔面や腕の骨を折られた状態で全員倒れ伏していた。

その惨状の真ん中には二人の人物が存在してた。

一人はシン・アラカワ。もう一人はジャック・P・ロネン。歴戦の傭兵集団フルハウス隊の元隊長が持つ武装の銃口からもうもうと煙が吐き出されていた。

「俺はタバコは控えているがな。前だったら悠々と吸っていたぜ」

「ライターは持っているんだろう」

ジャックはライターを器用に片手で弄りながらこう答えた。

「まあな、ある種これはルーチンだからな」

ジャックが金属製のライターを着火する。

火を見つめている間にシンはユキと連絡をとった。

「ユキ」

「限界ね。そろそろ警察がくる」

「進捗は」

しばらくしてユキが答える。

「予定通りね。三〇秒前に完了したわ」

「わかった。標的は回収する」

シンは通信を切る。

彼は標的を運びやすい状況に整え、ジャックに運搬の指示を出した。






藤竜会会長はいつの間にかどこかの小屋の中で縛られていた。

「むぐぐ……ンンンン!!」

老人は猿轡を咬まされた上に両手を縛られていた。

「ごきげんよう」

「むぐ!?」

闇の中からシンが現れる。

「心配するな。お前には墓も残さねえ。海の底で後悔するがいいさ」

汚れても良い服装に腰には工具。ドリル、ハンマー、釘、バーナー、ナイフなどが腰にぶら下がっていた。シンは手袋をゆっくりと着けて彼のそばへと近寄る。

闇の中に老ヤクザの悲痛な悲鳴が響いた。

そして、彼の最期を知るものはシン・アラカワ以外には存在しない。

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