第5話

 どっかの偉い学者だかの予測は、嫌になるくらい正確で。でっかい隕石はほぼ時間通りに地球にやってきた。

 でかすぎて、地球は壊滅するらしい。よくわからんけど。


 テレビも、ラジオも。点けたところで、ざぁーざぁーと音がするだけだ。

 スマホの表示もとっくにおかしくなってる。


 蕎麦屋さん、今何時なんどきだい? へえ、ここのつで。

 現代の時間で、九つ。午前九時。

 まるで夜のように暗いけど、九つだ。

 ケンジの手巻き式の懐中時計がなかったら、きっとなんとなくの時間すらわからなかった。


 あたしも、ケンジも。

 ハリウッド映画の主人公みたいに、生き残るために必死に行動するようなタイプじゃない。

 もう電話も繋がらないけど、ケンジの父ちゃんと母ちゃんも同じだろう。

 なにせ、ケンジと父ちゃんはそっくりな性格で。それのツレやってるあたしと母ちゃんもそっくりな性格なんだから。


 ケンジがあたしの腰に腕をまわした。

 あたしが目をつむる。ケンジの指があたしのあごにふれる。顔をあげる。唇がふれる。


 最初のキスのとき。

 どうすればいいのかと真顔で尋ねるケンジに、半笑いで言ったこと、そのまま。応用もへったくれもない。

 正直、淡白だし、中学生かよっていうくらいに下手くそだ。歴代の男の中でダントツ。

 でも、これが人生最後のキスなら悪くない。どうせ死ななきゃならないなら、最高の死に方だ。

 ふっ……と、頬がゆるんで。思った。



 なんだ。

 笑って死ねるじゃん。

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あと5分。 夕藤さわな @sawana

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