第2話

「江戸の夜の商売というといろいろとありますが、やはり屋台の蕎麦屋さん。二八にはちそばなんていって、その時分じぶんはそばのお代が二八の十六文で……」


「知ってる、知ってる。……いつむうななやあ。蕎麦屋さん、今何時なんどきだい? へえ、ここのつで。とお、十一、十二……って、時そばだろ? 勘定ごまかすやつ」


 ケンジが真顔のまま、唇を引き結んだ。

 子ども向けの落語CDかなんかを買ってきて。毎週末、リビングの隣にある和室で聞いてるんだから。いいかげん、こっちだって覚える。


「時そばって十分超える話だろ。あと五分じゃあ、オチまでいかねえぞ?」


 あと、あたしは「まんじゅうこわい」派だ。


 ケンジの眉がぴょんと跳ねた。

 かと、思うとソファに正座したまま。深々と頭を下げた。


「これは……大変な失態を」


「苦しゅうない。顔をあげよ」


 ケンジは顔をあげると、真顔のまま言った。


「続きまして」


 続くのかよ。

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