彼女がNTRれたが、それは全部僕の為だった。
優斗
僕と彼女
僕、
僕がそれを知ったのは、学校終わりにニュースを見た時だ。見慣れた顔が映っているなとテレビを眺めていれば、そこには自分の父が映っていた。
昨日まで僕に明るく接していた父は、会社の同僚を殺してしまったらしい。原因を調査すれば、全部父の勘違いから起こった事らしいが、殺したという事実に変わりはなかった。
そこからは毎日が地獄だった。父子家庭の僕には父しか家族がいない。そんな父は捕まって、収容所に送られた。祖父母や親戚からも引き取ってもらえるはずがなく、金銭面や書類面だけの援助となった。
それからというもの、僕は家にいつも1人だ。帰りを待つ家族もいなければ、温かな目を向けてくれる人もいない。人殺しの息子というレッテルを貼られては、学校でも友達はいない。
当然だ。誰であっても、人殺しの息子と仲良くなろうとは思わない。それに、もし自分が同じ立場ならそうしていたし、そうなっていただろう。
誰からも話しかけられない。それが当たり前だった。
そんな中、ただ1人だけ僕に優しく接してくれる人がいた。
「君は悪くない。君は何もしていないんだから」
放課後の教室で彼女にそう言われた時、僕は涙を流した。
話しかけられないのが当たり前。そう思っていても、やっぱり心のどこかでは「自分は何もしていないのに」そう思っていたのかもしれない。
胸の中に溜まった鬱憤が解けた気がした。僕はそこで、彼女に色々と話した。同じクラスというだけで、ほとんど初対面な彼女は、僕の話を嫌がる素振りも見せずに聞いてくれた。
「大丈夫。君は救われるよ」
その言葉に、僕はまた涙を流した。誰からも掛けてもらえなかった言葉を、彼女は淡々と僕に告げた。
当時中学生だった僕は、そこから高校進学をきっかけに地元を離れた。地元を離れる時、住んでいた家の周りにはたくさんの落書きが書かれており、それは悲惨な状態だった。
僕は地元からかなり離れた、地方の学校に進学した。地方の中でも一応進学校を名乗っている学校で、僕の成績にはピッタリ合っていた。
その高校には白森花音も付いてきた。特に夢もないらしい彼女は、行く当てもなかったので、心配になって付いてきたという。
そんな判断で自分の人生を棒に振らないか心配になったが、まぁ進学校なので困りはしないだろう。僕も彼女も一人暮らしを始める事になったが、借りたマンションは違う所だった。
特に近所というわけでもないし、なんとかギリギリ歩いていけるぐらいの場所だった。
誰も自分を知らない土地、そこでの生活は快適だった。周りから無視される事もないし、ハブかれる事もない。
家に落書きが書かれるなんてあるわけもなく、数年ぶりの温厚な平和な毎日だった。そこで、閉ざしていた僕の心は徐々に開き始めた。
一番は彼女が側で支えてくれた事が大きいが、それと同じくらいに周囲からの反応が心地良かった。友人も出来たし、久しぶりに普通の学生に戻れたのだ。
「好きです。付き合ってください」
高校に入学してからしばらく経ったある日、僕は彼女に告白した。僕が彼女の事を好きにならないはずがなかった。
自分の一番辛い時から一番快適な時まで、ずっと近くにいてくれた彼女に、好意を抱くなという方が無理な話だ。
「はい。喜んで」
幸せだった。去年までが嘘だったかのように、充実していた。周りには親しい友人、隣には彼女。辛い思いをした分、報われたんだな。そう思った。
だが、そんな幸せは長くは続かなかった。
「花音、何やってんだよ……」
「見ないで和明くん…」
彼女と付き合ってから数ヶ月後の事、友人の家にアポ無し訪問した事があった。その友人とは最も親しく、同時に信頼していた。
だからアポ無し訪問しても平気だと思っていた。平凡な毎日に浮かれていた僕は、それを実行してしまった。
その友人の家まで行けば、驚かしてやろうとインターホンは鳴らさなかった。彼も僕や彼女と同じく一人暮らしをしているらしいので、家には彼しかいないはず。そのはずだった。
音を響かせないように、ゆっくりと侵入する。過去に同じ事をやられた事があるので、彼も怒りはしないだろう。
忍足で部屋に入り込めば、何やら変な音が聞こえてきた。やけに生々しかった。いかがわしい動画でも見てるのかと、音の鳴る部屋を開ければ、そこにはあるはずのない光景が広がっていた。
「花音、何やってんだよ……」
「見ないで和明くん…」
そこで、先程のやり取りに至る。動画だと思っていたが、全く違った。そこには親友だと思っていた彼と、付き合っているはずの彼女が、混じり合っていた。
彼女は顔を赤く染め、甲高い肉声を上げる。彼は腰を振り、僕の方を見て笑った。
「ごめん、先に食べちゃった」
僕と彼女ですら、まだ及んでいない領域に、彼は悪びれた顔を一切見せなかった。僕はその場に居られなかった。
「和明、くぅん……。私、貴方の、、事……ずっと好きだからっ!」
彼女のその言葉を、僕は信じれなかった。信じられるわけがなかった。ずっと近くで支えてくれたと思った彼女が、僕が一番充実している時に裏切ったのだ。
どこに行っても、幸せなんてものはないんだな。この時はまだ、そんな風に思っていた。
次の日、彼女は学校に来なかった。その次の日も、その次の日も、彼女は学校を休んでいた。
【あとがき】
・次話完結。良ければレビュー等もお願いします!
彼女がNTRれたが、それは全部僕の為だった。 優斗 @yutoo_1231
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