第250話 拙い事になったみたいでした

「やっと王都に着いた…」


「長かったの…」


 王都への帰り道。予想通りにアム達や白薔薇騎士団、カミラ達元暗殺者メイド隊と途中で合流して三日。


 アム達を中心にこんこんと説教され続けたルー達は疲れ切っていた。憔悴…までいってないのは一応は敵討ちを果たした事で心に余裕を持てたからだろうか。


 それともアム達も九歳で孤児院を脱走した経験がある為にあまり強く言えなかった為だろうか。


 どちらにせよ、これでルー達の問題は終わり。これから先は復讐など考えずに自分達の幸せの為に生きて行けるだろう…と、思う。


「何これで終わりってツラしてんだ」


「このまま冒険者ギルドに行くよ~」


「ギルドマスターに謝罪」


「わふっ」


「「「「うえ~…」」」」


「あーしは先に帰るわよ」


「…」


 というわけで此処で解散。


 俺は俺で例の神様に見つかった事で考えるべき事はあるが、それよりも…


「俺は院長先生に会いに行って来る」


「あ、ああ…そうだったな」


「まぁ、ジュンはもういいんじゃない?」


「ジュンのお説教は終わり」


 今回、俺も護衛無で外に出ていた事でなんやかんやと言われたが事情が事情だけに軽めで済んでいた。


 メーティスはアム達と合流する前に俺の中へ逃げた。主を見捨てるとは不届きなやつである。


『えー…わい程忠義に厚いのん、そうはおらんで。逃げた言うてもマスタ―と一緒に聞いてたんやし。わいがおったら説教時間が短くなるわけでもないし』


 それでも残ってフォローに周るのが…もういい。今は少しでも早く院長先生に会いに行こう。


 ルー達の無事は既に伝わっている筈だが俺から直接伝えた方がいいだろうし。


 何より神子のレイさんは本当に息子だったのか、確認せねば。


「というわけで、ただいま」


「あ、うん。おかえり?」


「おかえり、お兄ちゃん」


 アム達と別れて真っ直ぐに孤児院に来たのだが。出迎えてくれたのはジェーン先生とユウだけ。


 妙に静かだし、子供達も居ないみたいだ。


「院長先生はお隣よ。他の子供達もお隣でお勉強中」


「ピオラ先生はお出掛け。最近不機嫌なの。なんでか知らないけれど」


 院長先生はエロース教会か。レイさんに会いに行ってるんだろう。ピオラが不機嫌なのは…どうせ俺が何も言わずに王都から出た事で怒ってるとかだろう。うん、放置で。


「院長先生も最近元気ないのよ。此処の所毎日お隣に行くし。ジュンは何か知ってる?」


 …ジェーン先生には話してないのか。いや、きっと司祭様以外には話してないんだろうな。


「…そう。じゃ、俺もお隣に行って来る。あ、ルー達も無事王都に帰って来たから。今頃はギルドマスターにお説教されてるよ」


「そっか。無事だって連絡は来てたけど、これで一安心ね。ありがとう、ジュン。良い子良い子してあげる」


「…そういうのはいいから。それじゃ」


「照れる事ないのに」


 何か言ってるジェーン先生は放ってエロース教会へ。


 因みにカミラ達メイド隊はカミラを除いて屋敷に帰したし、白薔薇騎士団の護衛も三人だけだ。


 …本当は全員帰したかったけど、どうしてもと言って聞かなかったし、白薔薇騎士団はエロース教教皇一行の急な来訪で大忙しだそうで。


 それでもルー達の捜索と保護に人数を割いてもらっている手前、あまり強くは言えなかった。


 俺としてはそう言う事なら尚更と思ったのだが。


「それで?どうして付いて来るんだ、ユウ」


「お兄ちゃんに伝えたい事があって。お兄ちゃん、お城に行った方がいいよ。それも今すぐに」


「…ん?城に?なんで」


「本当はね、ピオラ先生はお城に行ってるみたいなの。多分、お兄ちゃんにとって凄く拙い事に――」


「あ、ジュン君。帰ってたのね」


 話ながら歩いているとお隣だし直ぐに教会に着く。ユウの言う事は気になるが…今は院長先生だ。


「司祭様。ええ、ついさっき。それで、その…院長先生は?」


「…ずっと神子様と御話ししてるわ。でも…中々、ね」


「…本当にレイさんは院長先生の?」


「…そうみたい。詳しく話すわ。マチルダには無断になるけれど、ジュン君には協力してもらったほうがいいでしょうから」


 というわけで司祭様の私室へ。カミラと護衛の白薔薇騎士団は外で待機。ユウには一緒に聞いてもらう事になった。


「何から話しましょうか……マチルダは十五歳で妊娠して十六歳で子供…男の子を産んだの。あ、御相手は幼馴染ね。だけど…」


 幼馴染の男は直ぐに他にも女を作り、どこぞの男爵家の娘と結婚したそうだ。男の子を産んだ院長先生は国からの保障で親子ともども何不自由ない生活が送れるはずだった。


 しかし…


「男の子…レイと名付けられたその子は…誘拐されてしまったの」


 勿論、院長先生は探した。冒険者を雇い、騎士団にも捜索願いを出した。しかし、見つからなかった。


「だからマチルダは冒険者になった。誘拐犯を倒せる力を手に入れる為に。人を雇う御金を稼ぐ為に。がむしゃらに、Sランクになれる程に」


 それでも見つからなかった。そしてある日、冒険中に大怪我をした事を切っ掛けに冒険者を引退。


 自分の資産で孤児院を開いた。


「子供を失った悲しみを、孤児を引き取る事で埋めようとしたのかもしれないわね。それでもステラに探してもらったり、偶に人を雇っていたみたいだけど」


 そうこうして約三十六年。息子は一向に見つからなかった。だが、突然現れたのだ。息子と思しき男性が。


「…本人は何と言っているんです?」


「母親の事は何も覚えていない、と。二歳の頃の記憶だから当然なのだけど。でもね…」


 レイさんがエロース教に入信する前、盗賊団に育てられていたそうだ。


 その盗賊団はドライデンである商人を襲った際にレイさんを見つけ、確保し北へ逃走。ツヴァイドルフ帝国を抜け最終的にフィーアレーン大公国にて壊滅されレイさんはエロース教に保護された。


 その時、レイさんは五歳で自分の名前以外なにもわからなかったそうだ。


「…レイさんが本当に院長先生の息子だったとしても矛盾は無い。しかし確証も無い、という事ですか」


「そうなるわ。でも、この男性が少ない世界で、此処まで条件が合ってる事を考慮すれば…ほぼ間違いないんじゃないかと思うの。母親の勘なのか、マチルダは確信しているようだし…」


 確かに。現三十八歳で誘拐された経験のあって名前がレイ。こんなの世界中探してもそうはいない筈。


「でも神子様は戸惑っていて…どう接していいのかわからない様子なの」


 それもわかる。三十年以上も離れて暮らしていたのに急に母親ですと言われてもな。困惑するのも当然だ。


「…何か俺に出来る事はありますか」


「無いわ」


「そうですか…え、無いの?」


「今、ジュン君が間に入ってもややこしくなるだけよ。神子様が本当にマチルダの息子だとして、よ?母親の顔も知らず生きて来た本当の息子と本当の息子のように育てられた孤児。しかも二人は同じ名前を持ってる。神子様がどう思うかわからないけれど…」


 あー…うん。確かに、複雑だわな。あんまりいい気分にはならなさそ。


「私ももう少し時間を置いた方がいいと思うな。それに、お兄ちゃんは早く城に行った方がいいと思うし」


「あ。そうよ、此処に来てていいの?今、お城は大変な事になってるんでしょ?」


「はい?なんの事です?――ん?」


 誰か走って…お?


「ジュン君!」「ジュン!」


「ソフィアさん?アニエスさん?」


 偉く慌ててらっしゃる…何かあったのか?


「今すぐに城に行くわよ!」


「早くしろ!」


 ええ…本当に何があったのん?

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