第251話 なんかやってました

「我々はぁー!教皇一行にー!国外退去をー!要求するー!」


「「「「要求するー!」」」」


「ジュンは…じゃなくて。ノワール侯爵様はー!アインハルト王国の宝でありー!エロース教には決してー!渡さないー!」


「「「「渡さないー!」」」」


 …………なにこれぇ。


 見ればわかると馬車に乗せられ大急ぎで王城まで来てみれば…何事なの、これ。


 いやまぁ、確かに見ればわかるけれども。


「拙い事態になっているだろう?」


「このまま放っておけばアインハルト王国とエロース教の対立、最悪エロース教を支持する国々と戦争になりかねないわ」


 教皇一行に対する抗議活動をする数百人の女性達…それを率いているのがジーク殿下とピオラ。


 ジーク殿下が主に貴族達を率いてピオラが平民の代表になって先頭に立ってる感じか。


 ジーク殿下の傍にはグリージィ侯爵にイエローレイダー伯爵、マルグリット嬢までいる。


 てか、あんたらまで何しとん。あんたらはジーク殿下の暴走を諌めなあかん立場とちゃうん。


「ジーク殿下はまだいい。良くはないが…ジーク殿下の身が危険に曝される事は無いだろう。しかし…」


「ピオラ先生は拙いわ。事態の終息を図る為に彼女に全ての責任を押し付けて…なんて事になりかねないわよ」


 ピオラがジーク殿下を唆して民を扇動したとして処刑…或いは暗殺か。


 その筋書きを書くのは教皇一行とは限らないわけで。


 女王陛下がジーク殿下を護る為にピオラを犠牲にする道を選ぶかもしれない。


 女王陛下はエロース教との対立なんて望んでない筈だからな。


 いくら可愛い息子の望みであっても。


「女王陛下がそうお考えにならなくとも、周りがそう動くかもしれん」


「平民一人…いえ、例え貴族だろうと一人の犠牲で戦争を回避出来るなら。そう考える人間は多いわ。私だって同じ。でも…」


 でも犠牲を出さずに止められるならそうしたいし、そうすべき。


 そして、それは俺にしか出来ない、と。


「状況の理解は出来ましたけど…何がどうなってこんな事に?ジーク殿下とピオラは明らかに協力関係にあるみたいですけど…あの二人に接点なんてさして無かったでしょう」


 ピオラが城に行く事なんて無いし。ピオラがジーク殿下と会った事があるとすれば俺の屋敷になるが…ジーク殿下が屋敷に来てる時はほぼ俺の近くに居るし、ピオラと話してた事なんて…あったっけか?


『無いなぁ。少なくともわいには記憶に無いで』


 だよなぁ。そりゃ二人の行動を全て把握してるわけじゃないが……それにしても、だ。


 なんて恐ろしいタッグ…混ぜちゃ駄目だろ、あの二人は。どんな化学反応が起きるか。


 ピオラは重度のブラコン。更にヤンデレが加速しつつあるし…ジーク殿下は開いてはイケない扉を開きつつあるし…駄目だ、違う意味でも碌な結果が浮かばない。


 早くなんとかしなくては…主に俺の身体の為に!


『えー…ちょっとくらいならジークとは絡んでもええんちゃう?ちょっと、ほんのちょっとだけ』


 何もええことあるかーい!


「急いだ方が良いぞ、ジュン」


「殿下先生が抑えてくれてる筈だけど…こんな事になって教皇猊下も心中穏やかではない筈よ。穏便に治めるなら早い方が良いわ」


 ですよね、わかります。


 しかし、なんと言って説得するか…


『連中はマスターが教皇に、エロース教に連れて行かれる事を懸念してるんやろ。ならそれを否定したらええんちゃう』


 それだけで納得するか?ジーク殿下もピオラも、俺が教皇に対して使徒ではないと返答した事は知ってるだろう。


 その上で今回の行動に出てる筈だし。それで何故こんな行動に出たのかもわからんが…


『ふむ…誰かが唆したんかもな。そんな事してどんな得があるんかはわからんけど。兎に角、説得するしかないんちゃうか。出たとこ勝負や』


 行き当たりばったりってわけね。今はそれしかなさそうだけどさ。


「あー…皆さ―ん!ちゅうもーく!」


「繰り返…おお!我が友よ!」


「あっ!ジュン!お姉ちゃん、頑張ってるよ!」


「「「「「「ノワール侯爵様ぁ!!」」」」」」


 うっ…何人居るか知らんが、これだけの人数が集まると眼力が凄いな。


「ええと…あのですね!俺がエロース教に連れて行かれる事を心配してくれているみたいですけど!俺には付いて行くつもりはありませんからー!何も心配は――」


「甘い!甘いわ、ノワール侯爵!エロース教の教皇がそう簡単に諦めるわけないじゃない!」


「そうですわ!追い返すのが一番確実でしてよ!」


 あんたらまさかジーク殿下を止めるどころか焚き付けた側かいグリージィ侯爵にマルグリット嬢!


「いいかい、我が友よ。過去、エロース教教皇が直々に赴いてまで手に入れようとした男性はいないんだ。ドラゴンに乗って移動した例も無い。つまりは君をそれだけ重要視してるという事だ」


「それはアインハルト王国だけの話ではなく世界的に見て、の話です。ちゃんと調べたので間違いありません」


 あんたもかイエローレイダー伯爵。


 それでも止めなきゃ駄目でしょうよ、あんたは。


「それに、だよ。教皇は新たな神託を得たらしい。なんでも『見ぃつけた』と神様が仰ったとかなんとか」


 oh…あの時の声を教皇も聞いた、と。


 で、それは俺の事を指してると考えたってか。


 …ナンデヤネン。俺はその時、城にはおらんかったやろがい。


 何をもって俺の事やと判断したんや。


「安心してジュン!お姉ちゃんが絶対に護ってあげるから!いくらエロース教教皇だってこれだけの信者と王国の重鎮から反発されたら耳を傾けないわけに行かないから!どんどん増える予定だし!」


 …まさかとは思うが発起人はピオラか。いやユウの入れ知恵もありそうだな。


 だから城で何が起きてるのか知ってる風だったんだろう。いや、いつもの超直感か。


「…兎に角ですね。仮に俺が使徒だと断定されようがエロース教に連れて行かれたりしませんから。これに関しては女王陛下からも言質をいただいていますから。何せ俺はアイ…アイシャ殿下の婚約者ですから」


「む…ならば僕とも婚約しようじゃないか!そうすれば増々盤石――」


「勘弁してくださーい」


 やっぱりまだ矯正出来てないのか…教師役の三つ子三姉妹に矯正をお願いしたんだが。


 だからイチイチ会うたびにスキンシップしてくんな。やってる事がステラさんと同じなのにあーただとゾワゾワ来るんだってばさ。


「兎に角ですね、こんな事してたら拙いですよ。女王陛下の耳に…入るのは避けられないとして。怒られる前に解散しましょうよ。ほら、かいさ~ん!」


「大丈夫だよ、我が友よ。そろそろ時間だからな」


「ええ、丁度時間です、殿下」


 時間?え、何?…ピーって音が聞こえたと思ったら解散…はせずに俺の周りに集まって来た。


「ちょっとちょっと!ちゃんと解散しなさい!そう陛下と約束してるんだから!帰らないと御金払わないわよ!」


「「「「えー」」」」


 おー…渋々とだが大半の人が帰って行った。


 御金ッて…この人らは御金で雇ってんのかい!つまりはエキストラか。それに約束?


「これは昨日からやってて約束は今日からの話なんだがね。抗議活動は一日に一時間だけと決まっているんだ。それとこれ以上の直接的行動は禁止。教皇一行に危害を加える事は言語道断とね」


「つまり陛下の御許可を頂いての事なのですわ」


 Oh…そうなの?アニエスさん、ソフィアさん…あ、御二人も初耳なんですね。


 許可された抗議活動…そう言えば前世でもそういうのあったな。まさか異世界に来てリアルに目にするとは思わなんだが。


 でも、それなら効果あんのかね、遠くから…城門前の広場から大声あげたって城にいる教皇に聞こえ…って、宰相?


「ノワール侯爵。陛下が御呼びだ。付いて来るように」


「母上が?ならば僕も同行しよう」


「ジーク殿下がそうおっしゃる事は予想通りなので構いませんが、他の同行はローエングリーン伯爵とレーンベルク団長のみ。後は解散したまえ」


「「「うっ…」」」


 自分も付いて行くと言いたそうにしてたグリージィ侯爵らとその他大勢と黙らせる為に宰相が直々に来たのか。流石に宰相に面と向かって言われたら従わない訳には行かないよな。


「だからそんな眼は止めなさい、ピオラお姉ちゃん」


「……」


 宰相相手にそんな眼向けちゃダメ…


「…コーホー」


 その、どっかのファイティングコンピューターみたいな呼吸と笑顔止めなさい…怖いから。

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