第249話 釣り餌でした

「すぅ…すぅ…」「…グスッ」「…お母さん」「…クスックスックスス」


 犬神を埋葬した後は犬神の小屋で夜明けを待ち、朝早くに下山。


 預けていた馬車を回収ついでに村長に敵討ちは終わった事を報告してから、王都への帰路に着いた。


 敵討ちが終わって、気が抜けたのかルー達はすぐに眠った。


 また空間転移で王都に帰ってもいいんだが…ルー達の捜索に出てるアム達やカミラ達が近くまで来てるだろうからな。


 このまま進んでいればいずれは合流出来るだろう。


 …ところでニィナは寝ながら笑っているが、ちょっと不気味じゃね?どんな夢を見てるんだか。


「…で、どう思う」


「間違い無く、例の神様やろなぁ」


 馬車の操車はメーティスに任せ、俺は隣に座り、あの時に聞こえた声について相談していた。


 どうやらあの『見ぃつけた』と言う声は俺にしか聞こえなかったらしい。


 あの声の主がエロース様に恨みを持つ神様だとしたら…何を見つけたかと言えば…


「マスターやろな、間違い無く。犬神はマスターを見つける為の駒として利用されたわけやな」


 だよなぁ…犬神を倒せる存在は限られている。何せ亜神だし。


 その犬神を倒せるとなればエロース様の使徒しかいないだろう、と。


 つまりは犬神を餌に釣りをして、見事に釣られたわけだ、俺は。


「犬神を常時監視してたんか、死んだ時に何らかの報せが行くようにしてたんかはわからんけどな。それとな、教皇に神託を降したんも例の神様やろ」


「…うん?何故そう思う」


「エロース様が降した神託なら使徒が何処の誰かはっきりと伝えるやろ。探すように伝えるんは不自然やな」


 …確かに。エロース様、悪態ついて御免なさい。


 しかし、そうだとするなら、だ。


「他にも居るかもしれへんな。犬神みたいな存在が」


 そうなるよなぁ…あんなのが他にも居るなら傍迷惑過ぎるだろ。この世界の住人にとっては。


「問題はそれだけやないな。犬神はあくまで探索役。次は本命をぶつけて来る可能性が高いやろ」


 本命…勇者か。ベルナデッタ殿下の予言が実現する日も近い、というわけか。


 ……そう言えば聖女の件、進んでないな。


「ああ…せやったな。でもなぁ…ベルナデッタを聖女にする必要ってあるん?」


「どういう事だ?」


「ベルナデッタは今年十歳やろ。勇者がいつ来るかわからんけど…子供を勇者との戦いに巻き込むんか?」


 …そりゃ巻き込みたくはないが…ベルナデッタ殿下の予言によれば一緒に戦う事になるらしいからなぁ。


 未来を変えるにしてもベルナデッタ殿下の安全の為に聖女になって貰うのが良いだろう。


「勇者に対抗するのに聖女が居たら助かるかもしれんな。でも、あまり当てには出来へんで」


 …勇者が本命なら少なくとも犬神より勇者の方が強いんだろうしな。


 俺をどうにかする術を与えられてるだろうし。


 でも…勇者が一人とは限らないんだよなぁ。


「…ん?勇者が複数人で襲って来る可能性を考えてるん?」


「あり得ない話じゃないだろ。勇者は一人だと決まってるわけじゃなし。勇者は一人だとしてもパーティーを組んで来るかもしれないし。もっと言えば…」


 勇者にもメーティスのような存在が付いているかもしれない。


 過去の勇者はどうか知らないが、今回の勇者は俺と同じように神様によって送り込まれた存在なんだから。


「わいと同じような存在、か。確かにあり得る話やなぁ。でも、それやったら直ぐに気が付けるわ」


「ん?何に」


「勇者の接近に。わいはわいと同種の存在を感知出来るんや。勇者にわいと同種の存在が傍に居るなら勇者の接近はわかるっちゅうわけやな」


 …それってつまりは勇者にも俺の接近がバレるって事だよな。


 でも、それは問題無い、か?


「こっちから攻撃を仕掛けるって時には問題やろけど、対策はあるわ。そんでや、マスター。勇者をどうするつもりなん?」


「どうするって…」


「ベルナデッタの予言通りならマスターと勇者は戦う事になる可能性が高い。神様に何て言われて送り込まれたんかは知らんけど、マスターを狙ってるわけやし。ならマスターは勇者をどうするって話や」


 …撃退して追い返すに留めるのか、それとも…


「命を奪うかやな。勇者がどんな奴かわからんけど、最悪殺さなあかん場合も考えられるやろ。その時、覚悟無しに出来るか?」


 …殺すのに躊躇う必要の無い悪党だったら気は楽だが、善人だったら…殺せないだろうな。


 神様に俺は悪だと言われ信じ込んでいたら…説得も難しいだろう。


 そういった場合、俺は勇者をどうするのか。


 それを考えておけ、と。


「そういう事やな。ま、アイがフレイヤ様に何かの策を授かってるかもしらんし。一度相談したらええんちゃうか」


 ……だな。そうするか。


 はぁ…問題、減らないなぁ。むしろ増えて行く…そう言えば院長先生と神子のレイさんはどうなっただろう。


 おっさんと教皇一行はどうでも良い。むしろ帰っててくれないかなぁ。


 ノール子爵家は…何とも言えんな。


「まぁまぁ。今回なんだかんだで俺Tueeeee出来たし、ええやん。ルー達も無事やし敵討ちも出来た。結果は上々やん。明るく笑って行こうや」


 ……だな。


 今はこれ以上考えても仕方ない―――


「あ。あかんわ。笑うんは無しや。マスター、覚悟し」


「ナンデヤネン」


 ほんの数秒で発言を翻す…あ。


「アム達とカミラ達やな。白薔薇騎士団も見えるわ。マスターも何だかんだで姿消した事になってるやろし。怒られるんちゃう?」


 ……そうなるのね。

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