第248話 見つかりました

 強い。


 自らを亜神と称するだけはあると認めてもいい。それぐらいには眼の前の敵…犬神は強敵と言って良い。


 少なくとも俺が戦って来た敵…ドラゴンゾンビやタイラントバジリスクよりもずっと強い。


 アインハルト王国最強の白薔薇騎士団でも犠牲者無しに勝つ事は出来ないだろう。


「くっくっ…クハハハ!」


 何がおかしいのか。犬の顔でニタァと厭らしい感じを隠さずに犬神が笑いだした。


 わざわざ距離を取り、戦いを中断してまで。


「――愉しい!実に愉快です!」


「…愉しい?」


「はぁい!これまで全力を出して戦う事が出來なかったんですよ、私は!国を一つ滅ぼしても私に敵う人間は居なかった!この世界に来てようやく!全力で戦う事が出来る!」


 …本気で来る、か。


 出し惜しみしてる場合じゃないみたいだな…お?


「ふぅぅ…はぁっ!」


 犬神が身体に…黒い炎を纏った。ただ色が黒いだけの炎…なんて単純な物じゃなさそうだ。


「ふぅぅ…貴方はよいのですか」


「…何がだ」


「貴方も隠している力があるのでしょう。実力を出し切れずに死ぬのは本意ではないでしょう。時間が必要なら待ちますよ」


 …戦闘狂か。いや本能なのか。それとも戦いこそが犬神の存在理由なのか。


「…いいだろう。俺も全力でやってやる。そうなると一瞬で決着が着くと思うが、短くても文句言うなよ」


「ほほう。言いますね。私としては長く戦いたいものですが――」


「その前に一つ聞きたい。お前は生贄に捧げられた犬の魂で形作られ、人々の願いにより生まれた守り神とか言ったな」


「…ええ。それが何か」


「そしてさっき、国を一つ滅ぼしたと言った。それはつまり――」


「お察しの通りですよ。私を生み出したのは滅亡間近の国。愛犬を…家族同然の可愛がられた飼い犬を数匹を生贄に捧げ、敵国の人間を皆殺しにして欲しいと願い、生まれたのが私。私は願い通りに敵国を滅ぼした。その後は国の守り神になる予定だったのですが…結局は滅びました。敵国が最後に放った大規模術式によって」


「……」


「私には何も残りませんでした。ただなんとなく生きていました。そんなある日、ある神様が私に話かけて貴方の事を教えてくれたんですよ」


「…その神様の名前は?」


「名前ですか?さぁ…そう言えば名乗ってくれませんでしたね。次の機会に聞いてみますよ」


 …俺も聞いてみるとするよ。お前に次は無いがな。


「それで、ですね。貴方を喰えば私は本物の神に成れると教えてくれた。神に成れば、次こそは守り神になれるだろう、と思いましてね」


 それがこいつ…犬神の目的か。何処かの国の守り神になるのが目的。


 だが、それは無理だな。此処で俺に殺されるから…じゃなく。


「無理だよ、お前には。神に成ろうと守り神には成れない」


「…何故です」


「言った筈だ。お前は善神には成れないと。何故ならお前は、お前が生まれた理由とは無関係な人間を殺した。お前の世界とは全く無関係の人間を殺した。そんな奴が善神として守り神をやっていい筈がない」


「…守り神に成れるなら悪神でも構いませんがね、私は」


「そして、お前は此処で死ぬ。この世界で死んだらお前を生んだ人達と同じ場所に行けるかわからないが…死んで会いに行け」


 そう言って俺はデウス・エクス・マキナを起動、武器を取り出す。


 取り出したのはファン◯ル…ではなく、複数のドローン。そしてビームサーベルだ。


「…なんです、それは」


「今更武器を使うのは卑怯なんて言うなよ。浮かんでる円形状の物はビーム…熱線を放つ事が出来る。この光の剣は恐らく斬れない物は無い。せいぜい気をつけるんだな。じゃあ…行くぞ!」


「なっ!速い!」


 武器の性能だけに頼ったゴリ押し…は本意じゃない。俺自身も全力を出して戦う。


 決して、俺Tueeeeeの為にじゃない。俺の為でもない。


 犬神に殺されたリムさんとラムさんの為だ。


 俺は使徒じゃないと否定はしている。認めるつもりは無い。


 だが教皇が探しているのも犬神が探しているのも俺で間違いないだろう。


 ならリムさんとラムさんは…巻き込まれただけの犠牲者だ。


 俺が巻き込んだわけじゃない。


 女神エロース様とエロース様と敵対する神様との諍いに巻き込まれた犠牲者だ。


 俺が巻き込んだわけじゃない…だがしかし、だ。


 知らん顔して何もせずに居られるほど無神経でも冷血漢でもない。


 だから…俺がやる!


「くう!?先程までより圧倒的に速い!それになんなんです、アレは!自動で動く武器…式神のような物ですか!」


「お前もよく躱すじゃないか!」


 浮かんでるドローンは六機。俺には当たらないように、犬神を囲むように飛び、攻撃している。


 ドローンが六方向からの攻撃、更に俺がビームサーベルで攻撃。


 犬神は躱すのが精一杯。いや、何度かドローンの攻撃は被弾している。


 が、身体に纏っているあの黒い炎。アレは攻防一体の技らしい。


 ドローンの攻撃を黒い炎で防いでいる。ただし、完璧に防げるわけではなく、ダメージはあるようだ。


 ビームサーベルの攻撃を最も警戒しつつもドローンの攻撃を可能な限り躱している。


 犬神は防戦一方…そろそろ決着をつけようか。


「思ったより粘るじゃないか。だが…終わらせようか」


「何をバカな。確かに私が不利ですが…これは!?分身の術ですか!」


 勿論、本当に分身したわけじゃない。


 高速で動き、ほんの一瞬だけ止まる事で残像を残す。


 バトル漫画でありがちの技術を実践しただけだ。


「ぬ、くおおあぁぁぁ!」


「終わり、だ」


 残像に惑わされ、ドローン攻撃の被弾率が上がり、動きが鈍った隙を突き、斬った。


「ぐっ、ふ…」


「…頑丈な身体だな。二つに別れると思ったんだが」


 腰の辺りを横薙ぎに斬ったのだが。犬神の胴体はまだ繋がっている。


 踏み込みが甘かったか、それとも黒い炎が邪魔をして紙一重で繋がっているのか。


「どちらにせよ、終わりだな」


「ふ、ふふふ…まだ、まだですとも」


「…見た所、再生能力は無いんだろう。治癒魔法も使えない。なら、その傷は致命傷だ。即死じゃないだけで、お前はいずれ死ぬ」


「まだだと…言っているでしょう!」


「なっ!まだ動けるのか!」


 迂闊だった!相手は人間じゃなく化け物なのに!


「って、狙いは…メーティス!」


「大丈夫やマスター!」


 この期に及んで狙いを変えるとか!なんのつもりだ!…無駄だがな!


「見た事もない結界ですが!破壊し、がはぁ?!」


 アレはデウス・エクス・マキナのエネルギースクリーン。


 高速で循環するエネルギーの幕…ミサイルが直撃しようと壊れる事はない無敵のバリア。


 それを己の手でこじ開けようとした犬神の両手は跡形もなく吹き飛んだ。


 そして後ろ向きに倒れ。動きを止めた。


 だが…


「まだ生きてる、な」


「…フ、フフフ…辛うじて、ですがね…」


 胴を斬られ、両腕を肩から失い。それでも犬神はまだ生きていた。


 このまま放っておいても…普通なら死ぬが犬神は生き残りそうな気がしてきたな。


「っふー…此処まで、ですか。あっけなかったですね」


「…何故、メーティス達を狙った?」


「喰うつもりでした。喰えば傷が癒えるので」


「…やっぱりお前は悪神だよ。少なくとも本質はな」


 メーティスの身体は作り物だから喰ったところで望む効果があったかは疑問だがな。


「…何故逃げなかった。別世界に逃げれば流石に追えなかったぞ」


「あぁ…嘘ですよ、それ」


「…は?嘘?」


「やっばな。そうやと思うたわ」


 見抜いてたんかいメーティス。何故言わんのだ。


「いや、その場で否定してもあんま意味無いし。てか否定したらバレるやん」


 …使徒だって認めるような物だって事か。まぁ、それはもういい。


 死んでいく奴にバレたって問題無いって考え直したからデウス・エクス・マキナを使ったんだし。


「で?何故嘘だとわかった」


「世界間を移動するなんて亜神には出来へん。本物の神様にならんとな」


「…貴方を喰って神に成れば、自力で帰る予定だったんですけど、ね」


 …なるほど。もし亜神でも世界…異世界に自力で行く事が出来るなら。


 日本に帰る事も出来るのか。それはエロース様的にはマズいから不可能にされてそうだな。


「さて…トドメは必要か?」


「…そう、ですね。何か喰えば、この状態からでも復活出来ますし。殺すなら今ですよ」


 …復活出来るんかい。生命力は並外れてんな。


「…首を落とせばいいのか?」


「…さあ。なにぶん、試した事はないので」


「…だろうな。じゃあ…」


「ま、待って!待ってくれよ、侯爵様!」


「と、トドメはクー達に!」


「わたし達にやらせて欲しいの!」


「お願いします!」


 ……どうするか。


 四人の目的は敵討ち。そして犬神がその敵。


 後はトドメを差すだけなのだし、犬神に抵抗する力もないだろう。


 …気持ちはわかるし、やりたいようにやらせてもいいんだが…


「ええんちゃうか。ただし、や。やらせるなら普通の武器じゃ無理なんはわかってるやんな」


 …デウス・エクス・マキナを貸すしかないって事か。


 短剣…は近過ぎて怖いな。槍だな。


「これを使え。油断はするな」


「「「「はい!」」」」


「フッ…復讐を願って生まれた私が復讐で殺される…因果ですね」


「…受け入れてるようで何よりだ。大人しく死んでしくれ」


 本当にいいのか、子供にこんな事をやらせて。と、考えなくはない。


 相手は化け物だが知性体だ。ルー達の心に傷を残しはしないか。考えさせられる。

 

 だが…


「「「「……」」」」


「…やりなさい。貴方達にはその資格がある」


「「「「う、うわぁぁぁ!」」」」



「うっ…グスッ…」「お母さん…」「…うっうぅっ」「グスッ…」


 後味は…良くないよな、やはり。


 でも、これで終わりだ。後はせめてもの情けで埋葬して―――


『見ぃつけた』

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