第247話 互角?でした

〜〜ジュン〜〜



「ルー達は任せたメーティス!」


「はいな!」


 別世界の亜神、犬神。いつもなら俺Tueeeeeのチャンスだと張り切って―――


「ところでマスター!そろそろボケへんの?」


「―――はっ?何言ってんだ」


「いや、ここんとこシリアスな展開ばかりで息がつまりそうやから。ここらで笑いという潤いをやな…マスター!前や!」


「うわおう!」


「余所見してると危ないですよ!」


 本当にな、こんにゃろう!亜神を自称するだけあって速いじゃねぇか!


「余所見してたらあかんがなマスター!」


「原因のお前に言われたくない!」


 メーティスは後でお仕置き決定!


 その為にも先に犬神をなんとかする!


「よく躱すじゃないですか!流石女神の使徒!流石亜神!」


 犬神の攻撃は両手を使っての打撃…いや長い爪を使っての連撃。


 高い身体能力を活かしての絶え間ない連続攻撃。


 並の人間なら瞬殺されるだろう。だが…


「ぐっ!」


「対応出来ない動きじゃないな!」


 犬神の脇腹に蹴りを一撃。そこでお互いに距離を取る。


 仕切り直しだ。


「フッー…やりますね。様子見だったとはいえ私が先制されるなんて」


「力の差を感じたなら逃げたらどうだ。元居た世界にな。自力で世界を越えられるんだろう?」


「いやいや。可能ですが目的を果たさずに帰るつもりはありませんよ。…それでは少し本気を出しましょう」


 そう言うと犬神は爪を短くして…どうやら自在に爪の長さを変えられるらしい。


 半身を俺に向け、足を広げ腰を落とし。拳を作り身体の前に出した。


 その構えはまるで武闘家のよう。


「…拳法か」


「極光拳、というらしいですよ。私の世界ではね」


 別世界で喰らった人間の技術、という事か。


 なるほど、構えは様になっている。ハッタリではなさそうだ。


 次は俺から仕掛けるか。


 犬神は素手だが、それに付き合うつもりはない。二刀流で行かせてもらう!


「ハァァ!――なっ?!」


「ふぅん!」


「ぐっ!」


 前に出した腕目掛けて振るったミスリルの宝剣が…あっさりと折れた。


 その予想外の結果に驚き、固まった瞬間を狙われ、咄嗟に身体を捻って躱そうとしたものの、一撃もらってしまった。


 その一撃で直撃こそしなかったものの、鎧が壊れてしまった。


 宝剣と鎧が素手で…頑丈にも程があるだろ。


 だが…

 

「驚きました。まさか私の…強化した毛皮が斬られるなんて」


「…普通なら腕が落ちてるがな」


 ノーダメージでは無い事に安心すればいいのか。剣を受けた犬神の右腕は出血していた。


 浅い傷だったが、どんな攻撃も効かないなんて存在ではなさそうだ。


 しかし、そうそうに武器を一つ失ったのは痛い。


 デウス・エクス・マキナを使えば武器の心配は無いが…デウス・エクス・マキナを使えば使徒だって断定されてしまいそうだしな。


 出来れば使わずに勝ちたい。…なら魔法で!


「それは…魔法というやつですか」


 雷魔法サンダーバレット。雷の弾丸を20ほど浮かべ、放つ。


 並の魔法使いなら人間を気絶させる程度の威力しかないが、俺なら一発でAランクの魔獣を仕留める事も可能。


 それを一気に20も放てば――


「妖術、火蝶」


 犬神が放った火で作られた蝶とサンダーバレットがぶつかり、相殺される。


 パワーファイターな見た目に反して魔法もいけるのか。


「魔法じゃなくて妖術ですがね、私の世界では。しかし

流石は女神エロースの使徒です。私と互角に戦えるとは。称賛に値しますよ」


「…傲慢だな。俺より強いとでも思ってたのか。後、俺は使徒じゃないって言ってんだろ」


 これは長引きそうだな…ルー達が近くに居る以上、あまり高威力な攻撃は出来ないし、山を吹き飛ばすような真似もしたくない。


 さて、どうするか…



〜〜ルー〜〜


 死ぬ事なんて、怖くない。そう思ってた。


「さて…がきんちょ共。死にたくなかったらジッとしてるんやで」


「「「「……」」」」


 でもアイツを…母さんを殺したアイツを見て…勝てないと思った。


 勝てないと理解してしまった。


 同時に怖くなった。今になって怖くなった。


 何も出来ずに死ぬ事が。


 クーが、ティナが、ニィナが死ぬ事が。


 ルーは何で、敵討ちなんて言い出してしまったんだろう。


 母さん達が勝てない相手に、ちょっと訓練した程度で勝てるわけないのに。


 そのせいでノワール侯爵様まで巻き込んで…


「取り敢えず結界……は、簡単に破られそうやな。なら、これや」


 気がつけばルー達の周りを何か黒い物が四つ、囲むようにして浮かんでる。


 その黒いのから光の幕が出てルー達を包んだ。


 これは…結界?


「結界やないで。触ったら生身の手なんて簡単に弾け飛ぶから触りなや」


 …何それ。そんな物騒な結界知らない。


「それは超高速で流れる電気の幕や。それを突破するんは人間には無理やな。亜神だろうと早々出来ん筈や。此処に隕石が落ちて来るとかしたら危ないけど」


 …電気って何?よくわかんないけど…この中に居たら安全って事か。


「…ルー。このままジッとしてていいのかな」


 安全だとわかって落ち着いたのかクーがおかしな事を言い出した。


 いいのかなって…もうルー達に出来る事なんて…いや、始めからルー達に出来る事なんて無かったんだ。


「クー…私達にはどうしようもないよ…」


「何にも出来る気がしないの…」


「で、でも…お母さんの敵討ち…敵なのに!」


「わかってるよ、そんな事!でもどうしろってんだよ!」


 あんな…あんな化け物相手に!ルー達が出来る事なんて、何も!


「あるよ!魔法道具に…毒だってある!これを使えば…」


 …魔法道具は本来、罪人を捕縛する為に使う魔法の縄。相手を一瞬で縛り上げて身動き出来ないようにする物。


 毒は大型の魔獣を生け捕りにする為の麻痺毒。


 確かに、これなら…


「やめとき。間違いなく犬神には通じへん。マスターの邪魔になるだけや」


「「「「うっ…」」」」


 やっぱり、そうだよな…ティナとニィナも諦めたみたいだ。


 でもクーは違った。


「で、でも!クーは、クー達は!敵討ちがしたくて此処まで来たのに!」


「…気持ちはわかるで。でも現実を見るんや。アイツは無理や。お前らじゃ話にならん。マスターが代わりに敵討ちしてくれるから、黙って応援しとき」


 そうだ、ノワール侯爵様!アイツと…イヌガミって化け物と互角に戦ってる!


 何で男があんな化け物と互角に戦えるんだよ!


「すごい…」


「すごいの…」


 離れた場所から見てても、よくわからない…ルー達にはあんな動き、絶対に出来ない。


 剣と拳で戦ってたと思えば一瞬で魔法を撃ち合い、避けてぶつけ合って、また近接戦して…一つ一つの攻防が速い。


 速すぎて、割って入る事も出来そうにない…めちゃくちゃだ、あんなの。


「そう落ち込みなや。あの戦いに参加出来るのんは…世界中探してもそうは居らんわ。わいとアイくらいやで、この国やと」


 …え?メーティスさん、アレと戦えんの?


「だ、だったらメーティスさんも戦ってくれよ!侯爵様になんかあったら…」


「わいはお前ら護らなあかんし。それに心配せんでええ。マスターが負ける事なんてあらへんから」


 い、いや、でも…どう見ても互角だし、相手は化け物。


 体力はアッチの方が上なんじゃ…長引けば侯爵が不利だと思う。


「大丈夫やて。マスターには切り札がぎょうさんある――あ、ほら見てみ」


 ……なんだよ、あれ。

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