第246話 同じでした
謎の男の正体は狼男…いや人狼か?
狼人族という種族はいる。狼耳の人間に尻尾がある…だが二足歩行の狼のような姿に変わる種族なんて、この世界にはいないはず。
「メーティス!アレはなんだ!」
「わからへん!人間ではないのは確かやけど、魔獣でもないで!」
人間以外にも人語を解し操る存在は居る。
ハティは魔獣だが人語を理解は出来てるようだし、ミスリルドラゴンやアダマンタイトドラゴン、ファフニールのような力のある存在は神獣と呼ばれたりもする。
そういった存在に関してはメーティスからひととおり習ったが…人狼なんて居なかった筈だ。
現にメーティスもわからないと言う。
なら、アイツは一体何だ?
女神エロースの使徒を探していて殺すつもりだと言うなら…やはり勇者なのか?
いや、でも…とても勇者って感じじゃない。
「逃げないでくださいよ。追い駆けるのは面倒ですし」
「…追い駆ける?俺達に執着する必要は無いだろ。女神エロース様の使徒じゃないんだからな」
「それは嘘かもしれないじゃないですか」
「…かもしれないが確認する術は無いだろう。捕まえて拷問でもするか?」
「いえいえ。拷問なんて非効率な真似はしません。趣味でもありませんし。食べれば全てわかりますし」
「……なに?」
「私、食べた者の記憶を奪う事が出来るんです。技術や経験もね。あの小屋や家具は私が作ったんですよ。奪った記憶や技術を使ってね」
…喰らった人物の記憶・技術・経験を奪う、だと…ならルー達の事を知っていたのは、つまり…
「お前がリムさんとラムさんを殺したのか」
「ええ、まあ。私、この世界の知識が乏しいもので。冒険者の彼女達の記憶は非常に魅力的で。美味しくいただきましたよ。身体の方はイマイチでお残ししてしまいましたが」
こいつ…!知識目当てで二人を殺したのか!…ハッ!いかん!
「ルー!お前達には勝てない!俺に任せ…ろ?」
「「「「……」」」」
ルー達の様子がおかしい。すぐに飛びかかるかと思ったが…自失してる?
「あまりに強大な存在を前にして恐怖に支配されてもうたんやろ。蛇に睨まれた蛙状態やな」
力の差を本能で感じ取り、動けなくなったか。
言い方は悪いが、好都合だ。ジッとしてくれる方が護りやすい。
「その子達はどうかしましたか?ああ、怖がらせてしまいましたか。そんなつもりはなかったのですが」
「…話の続きをしよう。女神エロース様の使徒を殺す理由は?」
「私が神になる為です」
「……はあ?」
「なんでも使徒は殆ど神と呼んでいい存在、亜神なんだとか。実は私もそうなんですよ。亜神なんです、私」
……こいつも亜神、だと?
確かにメーティスが俺は限り無く神に近い存在、亜神だと言っていた。
だが、こいつもそうだと?それにしては…なんだ、この拭いきれない違和感は。
「…お前は誰に使徒の事を聞いた」
「神様ですよ。なんでも女神エロースに恨みがあるとか」
「なら、お前が勇者なのか」
「勇者?なんです、それは」
勇者を知らない…勇者じゃない?どういう事だ…勇者以外にも送り込まれた刺客が居て、こいつがそうだとでも言うのか。
「教えてくださいよ。勇者とはなんです」
「…使徒を殺す為の存在として勇者が送り込まれたらしい。お前がそうじゃないのか」
「ん〜…違いますね。送り込まれたという事は神様に遣わされたという事でしょう。私は自分の意思で、この世界に来ました。神になる為に」
…さっきも言っていたな。神になる為に使徒を殺す、と。
亜神を殺せば、神になれるのか?
「ただ殺せばいいわけじゃありません。殺して、その力を取り込む必要があります。取り込み方は…お察しです」
…食い殺せば取り込めるってか。
嫌な殺され方上位にランクインしてそうだな。
「…お前以外にも居るのか。使徒を狙ってる奴は」
「さぁ?少なくとも私は知りませんね」
「…お前は別世界から来たようだが、何故この山に留まっている。使徒を探しに行こうとは思わなかったのか」
「この世界に来てまだ数ヶ月の私が闇雲に探し回してもね。もっと知識を蓄えてから向かうつもりです」
…山に入った人間を喰らって、か。神になったとしても邪神の類だろうな。間違いなく。
「ただ私も焦れてましてね。貴方達を戴いた後は村に行こうかと。流石に村一つ分の記憶を喰らえば十分な知識が集まるでしょうから」
こいつ…!最初から見逃すつもりは無かったが、此処で確実に仕留める!
「と、思ってたんですけど。どうやらその必要はなさそうですね」
「…何故だ?」
「貴方なんでしょう?女神エロースの使徒は」
「…何故そう思った?」
「私の話を理解しているじゃないですか。亜神だとか別世界から来たとか。この世界の人間には理解されない話なのは前回でわかってますから」
前回…リムさんとラムさんに同じ話をしたのか。
厄介な事に知恵が回りそうだな、こいつ。
「それに、この世界の男は働かないのが普通だそうじゃないですか。貴方みたいに戦う技術を持った男なんて皆無。そうなんでしょう?」
「…いいや、違うね。俺は使徒じゃない」
「そうですか。ま、それが嘘か真かは喰えば解る事です」
「…最後の質問だ。お前は人狼でいいのか。それとも狼男か」
「どちらも違います。私は亜神だと言ったでしょう。恐らく種族を聞きたかったのでしょうが。敢えて言うなら犬神ですよ、私は」
犬神…それって日本では妖怪や霊の類、あるいは呪いの一種だった筈。
「…例え神に成ったとしても、善い神様にはなれなさそうだな、お前は」
「おやおや。それはどうして」
「犬神なんだろう、お前は。だったら――」
「私が居た世界では犬神は人々の願いにより生まれた守り神ですよ。生贄に捧げられた犬の魂によって形作られた、ね」
それって、やはり呪いの類なんじゃ…
「…そうか。だが、それでもお前は善い神様には成れない。成れても邪神とか悪神だよ、お前は」
「…それは何故です?」
「自分の欲望の為に人間を喰い殺す奴が善い神様…善神なわけないだろう。少なくとも人間にとってはな」
「なるほど、道理です。本当に善神に成れないか試してみましょう」
…来るか!
「ルー達は任せたメーティス!」
「はいな!」
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