第243話 二度目でした

「ノワール…侯爵様…」「た、助かった…?」「助かったの!」


 …怪我をしたのはクーだけで済んだか。


 本当は誰一人として怪我もさせないつもりだったんだが…


「マスター、全員捕縛完了や」


「御苦労さん。一箇所にまとめといてくれ」


「はいはい」


 実はルー達を捕捉したのは何時間も前で。しかし見つけた時には既にこいつら盗賊に尾行されてて。


 直ぐ様連れ帰ろうと思ったが、そこでメーティスが待ったをかけた。


 此処で強引に連れ帰ってもルー達は納得せず、より無謀な計画を実行するだろう。


 それより、多少痛い目にあってからの方が素直に従うし反省もするだろうと。


 盗賊達もルー達を殺すつもりはなく、捕えて奴隷にするつもりらしいから問題無く救けられるからと。


 結果はその通りなんだが…二度とやらんぞ。クーが返り討ちにあった瞬間は心臓が止まるかと思ったわ。


「さてと…俺が何を言いたいか、わかるよな」


「そ、それは…あ!クー!クーはどうなった!?」


「…無事だよ。気絶してるだけだ。傷も治したから直に目を覚ますよ」


「そ、そっか…」「良かった…」「良かったの…」


 …十分に効果はあったな。これなら大人しく帰るだろ。


「…じゃ、帰るぞ。皆心配してるからな。帰ったらお説教は覚悟しとけよ」


「……」「はい…」「はいなの…」


 ま、お説教は俺の役目じゃない。


 院長先生の……院長先生は院長先生で問題に直面してるからジェーン先生…よりはピオラの出番かな、うん。


 何故か俺も説教されそうな気がするが…


「じゃ、あとは任せて寝な。起きる頃には王都に―――」


「ま、待ってくれよ!お願いだ、ルー達を行かせてくれよ!」


「……まだそんな事を。これ以上の痛い目にあいたいのか?次は誰か死ぬかもしれないぞ」


「うっ…」


 はっきり言って。今回は運が良かっただけだ。


 俺が見つけるよりも早く、盗賊や魔獣に襲われていたらどうなってたか。


 九歳の子供でもわかるはずだ。ましてや此処まで来れるだけの計画を立てて実行出来る賢さもあるのだから。


 いや、実行前に容易に想像出来たろうに。


「それに…ルー達のお母さん、リムさんとラムさんは強かったんだろ?その二人の敵討ちをしようって言うのに盗賊なんかに捕まりそうになって。そんなんで敵討ちなんて出来るはずがない。違うか?」


「う、うぅ……で、でも……だって!」


「…だって、何だ?」


「だって…二度目なんだもん!」


 ……二度目?


「ルー達のお母さん…本当のお母さんの敵討ち!」


「それはリム母さんとラム母さんがやってくれた…でも!」


「だったら今度こそ…わたし達で敵討ちしなきゃダメなの!」


 …母親を失ったのが二度目。


 だから敵討ちを他人任せになるのも二度目になるのは絶対に避けたい、か…


「…その為に危険な目に、怖い目にあうとしてもか?」


「うっ……でも…だって…だって!」


「うぅ…」


「ぐすっ…」


 ………はぁぁぁ。


 子供とはいえ女の涙は破壊力抜群で困るな、ほんと。


 しゃあないな…


「…わかった。悪いようにしないから、取り敢えず眠れ」


「…え?それって…ふぁ……」「あ…」「…zzz」


 疲れてるだろうし、魔法で眠らせれば朝までぐっすりだろ。クーも馬車で寝かせて…と。


「マスター?もしかして、もしかするん?」


「…仕方ないだろ。気持ちはわからなくもないしな」


「ええんか?マスターも怒られるで、きっと」


「…いいよ。また同じ事が起きないようにするためにって前向きな考えで行こう」


「…了解や。ほな取り敢えずはこの盗賊共をどないかしよか」


 …だな。このまま放置もアレだしな。




 と、いうわけで盗賊共を近くの街の兵士に引き渡し(つうか門前に置いて来た)翌朝。


 目的地の山に到着した。


「え…あれ…」「……え?」「つ、着いてる?」「間違いないの…村があるの」


 バレたら拙いから普段ならやらないが。ルー達が目を覚ます前にパワードスーツの高速飛行で目的地の山に到着。


 空間転移でルー達を迎えに戻って再び空間転移で目的地に戻る。


 僅か数分の早業である。


 勿論、ルー達の護衛にゴーレムを出して結界も張って。


 普通に馬車で進んでたら時間がかかるし、院長先生とレイさんの事も気になるしな。


 ちゃっちゃっと済ませよう。


「というわけで、このままGO…と行きたいけど。馬車を村に預けてからだな」


「せやな。流石に馬車で山には入れへんな」


「え…村に行くのか…って、そーじゃなくて!」


「ど、どうやって此処まで…」


「王都を出て一日しかたってませんよね?」


「どう考えても一日で来れる距離じゃないの」


「そこはそれ。ノワール侯爵様の不思議パワーで解決!」


「「「「……」」」」


 …納得せぇや。異世界の子供は意外とリアリストなのか?


 もっと夢を見なさい。ロマンチストになろうぜ。


「今ので納得するやつはそうはおらんやろなぁ…ま、お前さんらに損はないんやし、ラッキーって思っとき。ただし、この件は秘密やで」


「あ、ああ…わかったよ」「は、はい…」「…はい」「はいなの…」


 …まあいい。先ずは村に行って情報収集だ。


 ルー達のお母さん達を殺した存在…メーティスに探らせたけど、それらしき存在は見つからなかったんだよな。


 メーティスが数ヶ月かけても見つからないとなると、場所を変えたか既に討伐されたか。


 もしくは…最初からそんな存在は居ないか、だ。


「…村だ」「み、皆、元気かな」「何も変わってないね」「変わってないの…」


 …折角故郷に帰って来たんだから、ゆっくりさせてやりたいが…それはまたの機会にしてもらう。


 村で情報をもらうとなるとやはり村長――


「ね、ねぇ!あの人、男の人よね!」「やだ、素敵!」「うちの中年豚親父とは大違い!」「あの恰好…お貴族様かしら!?」


 …うむ。御茶会に参加したままの服装だった。余計に目立ってしまった。


 だが貴族だと思われたなら、迂闊に近づいて来ないよな。


 てか近づいて来ないでください、お願いします。


「…ルー、村長の家は何処かな」


「え、えっと…あ、アレだ。緑色の扉の家」


 …アレか。村長の家だけあって村で一番大きい…ってわけでもなさそうだ。


 直ぐ側に一回り以上大きな家がある。


 つうか村長の家は誰も住んでなさそうな?カーテンは閉め切ってるし、庭は雑草だらけ。


 家畜小屋は空だし…本当に村長の家か?


「…誰も居なさそうだけど一応……やっぱ居ないか」


 ノックして暫く待ったが反応無し。引っ越しでもしたか?


「おかしいの。村長の家は確かに此処なの」


「村長さん、何処行ったんだろ…」


「ね、ねぇルー…アレ」


「アレ?…なんでルー達の家に誰か住んでるんだ?」


 …あの大きな家はルー達が住んでた家なのか。つまりはリムさんとラムさんの家なわけで。


 今は無人じゃないとおかしいわけか。


 無人な筈の家に誰か住んでるっぽくて、村長の家は無人で。


 そうなると、だ。


「…行ってみようぜ」


「村長さん、もしかして…」


 ほぼ確信しながらノックする。出て来たのは四十代後半の女性だ。


「はい……えっと、どちら様で?」


「失礼、此処は村長の――」


「アンタは!何でアンタが此処に住んでんだよ!」


「…え?ルーじゃない!クーに…ティナとニィナも!」


「ルー、この人が村長さんなんか?」


「こいつは村長の娘だ!こいつが居るって事は村長も…おい!居るんだろ村長!」


「ちょっ、こいつって!相変わらず生意気なガキだねアンタは!」


 やっぱり村長一家が住んでるのか。借家…じゃないよな。


 住んでる人間が居なくなったからって無断で住み着いたのか。


 …中々にDQNな予感。


「…騒がしいな。何事……これはこれは。なんとも美しい殿方が来たものだ」


「え?あらやだ、ほんと」


「…それにルー達か。王都に行ったお前達が…一体どうした?」


 この人が村長か。一見すると穏やかそうな老婦人だが…


「どうしたじゃねぇ!なんであんたらが此処に住んでんだよ!」


「…取り敢えず、中に入りなさい。お前達は兎も角、お連れの殿方は酷く目立つ」


「…お邪魔します」


 振り返ると人集りが出来てた。ルー達の馬車も高級感があって目立つが…貴族っぽい俺がかなり目立って目を引いているらしい。


「いや服装とか関係なくやな。マスターの見た目とフェロモンにやられたんやって」


「…何故、考えてる事がわかる」


 今はマテリアルボディに移ってるんだから心の声は聞こえない筈なのに。


「で?!説明しろよ!なんでアンタらが此処に住んでんだ!」


「…そんな事を聞きに帰って来たのか?」


「うっせぇ!いいから答えろって!」


「…この家は正式に私が買い取った」


「はぁ?!ふざけんなよ!此処は母さん達の家だぞ!」


「…だがリムとラムはもういない。遺産はお前達の物だが王都に行ったお前達にこの家は不要だろう。ミゲールが欲しがったしな」


「…あの豚野郎!」


「…役人と相談して正当な額で買い取った。冒険者ギルドを通してお前達にお金が行く手筈になっている」


 ミゲールってのはこの村に住む男か。で、そいつがこの家を欲しがったから役人も多少の無茶を通した、と。


 男が優遇される世界の、小さな村では…男が支配者みたいになってるんだろうな……やだやだ。


「…それで、貴方は?」


「…私はジュン・レイ・ノワール。一応は侯爵です」


「…なんと、侯爵様でしたか。しかし侯爵様にしてはお供の方の人数が少ないようですが…」


「少し事情がありまして。それよりリムさんとラムさんを殺した存在について。何か新しい情報はありませんか」


「……なるほど、そういう事ですか」


 村長をやっているだけあって察しが良いらしい。俺達の…いやルー達の目的を察したようだ。


「…新しい情報は何も。あれから犠牲者も出ていませんし。ですが冒険者ギルドにも伝えた情報でよければ」


「…お願いします」


「……二人の遺体の傍に魔獣の体毛らしき物が落ちていました。犬か狼のような…」


 犬か狼…ね。メーティスによるとあの山に犬系の強い魔獣は居なかったはずだが…


「…そんな話、聞いてねぇぞ」


「私も…」


「わたしも聞いてないの」


「クーも…」


「…言う筈が無いだろう。現にこうして無謀な真似をしようとしてるではないか」


「「「「……」」」」


 ルー達の事を考えてルー達には言わなかった、ね。


 それが本当ならDQNでは無さそう――


「さっきからうるせぇな…誰が…おぉ!妙な恰好してるが良い女が来てるじゃねぇか!」


 あぁ…そっか。こいつがミゲール…DQNなのはこいつか。


 一目でわかったわ。


「おい!早速ヤるぞ!こっち来い!」


「…は?わいか?気持ち悪!向こう行けや!シッシッ!」


「ああ?!女にくせに男の俺に逆らうんじゃねぇ!」


 ほらやっぱり。いやまぁ、こういうのが多いってのは知ってたけども。


 最近はまともな男にしか会ってなかったから余計に…いや、そんな事ねぇわ。


「…ミゲール。この方は侯爵様のお連れ。お前が好きにしていいような存在ではない。下がっていなさい」


「ああん?侯爵だぁ~?そんなん何処にいんだよ」


「私です。ジュン・レイ・ノワールと申します」


「…男じゃねぇか。なに騙されてんだババア。男が侯爵になんてなれるわけねぇだろ」


 …自分で言うのもなんだが…俺ってソコソコの有名人だと主ってたんだがなぁ。


 田舎の村までは俺の噂は広まってないらしい。


「…仮に、仮に嘘で侯爵様でないとしてもだ。この方の女である事に違いはない。他人の女を無理矢理奪う事は許されない。諦めろ」


「せやせや。わいはマスターの女や!お前なんかお呼びやないねん!」


 …この際、俺の女扱いになってるのは良いとして。


 そんな嬉しそうな顔して腕にしがみつくな。煽ってるようにしか見えないから。


 ああ、もう…


「ぐっ、この…いいからヤらせろこら――ぶべら?!」


「…はぁ。どいつもこいつも…」


 この世界の男って何故デコピンで気絶する?思いっきり手加減してるんだが?


「…迷惑をおかけしました村長」


「……い、いえ、こちらこそ…」


「迷惑かけついでと言ってはなんですが馬車を預かっていただけますか。これから山に入るので」


「…承知しました。ルー達の事、どうかお願い致します…」


「「「「……」」」」


 やっぱり村長さんはまともみたいだな。ルー達の複雑そうな顔は気になるが。


「マスター、山に入る前に着替えとき。そのままやとすぐに破れてまうで」


「ああ、お前もな」


「わいはパワードスーツ着るし」


 …巫女服の上にパワードスーツ…邪道だと感じるのは俺だけだろうか。


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