第242話 助かりました

〜〜ルー〜〜



「…お前達、落ち着いて聞くんだ。リムとラムの遺体が発見された。魔獣にやられたんだろう…」


 ある日の朝、家に来た村長が言った事を理解するのに…少し時間がかかった。


 クーも…ティナとニィナも同じで。


 理解して最初に浮かんだ言葉は否定だった。


「…嘘だ!お母さん達は強い!お母さん達が死ぬもんか!」


「そ、そうだよ…お母さん達も、この辺りには強い魔獣は居ないって…」


「…だが事実だ。遺体は見ない方がいい…酷い有り様だからな」


「…嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だー!」


 ルーが何度否定しても、お母さん達が帰って来る事はなかった。


 皆泣き出して…何時間か経った後、村長は言った。


 これからどうする、と。


「…どうするって?」


「…リムとラムは稼いでいたんだろう?金を渡してもらう事になるが…私の家に来るといい」


 お金目当てかよ…!


「…嫌だ。あんたの家になんか行かねぇ」


「…しかし、お前達だけで暮らしていく事は難しいだろう。リムとラムには村の者皆が世話になった。だからお前達をーー」


「お、お母さんはもしもの時の話をしてたの!」


「だから…心配いりません!放っておいてください!」


「……」


 そうだ…お母さん達は王都の冒険者ギルドマスターのステラって人に連絡しろって言ってた。


 村長を追い返した後、四人で話し合った。これからどうするかを。


「ステラって人次第だけど…王都に行く事に…なるのかな」


「…だろうな。此処に居たらお母さん達が遺してくれた物、村の奴らに全部盗られちゃいそうだしな」


「そ、それは嫌だよ…ダメだよ…」


 お母さん達の知り合いが王都で孤児院の院長やってるらしいし…そこに行く事になるんだろうな。


 それはいいんだ。四人一緒なら、それは。


「ルーも…王都に行くのは良いと思ってる。此処じゃ強くなれないし」


「…強く?」


「ああ。だって強くならないと敵討ち、出来ないだろ」


「お母さん達の…」


「敵討ち…」


 お母さん…リム母さんとラム母さんは…ルー達の本当のお母さんじゃない。


 本当のお母さんはルー達が三歳くらいの時に死んじゃった。


 魔獣に殺されて…リム母さんとラム母さんが敵を討ってくれたって聞いてる。


 それから二人はルー達四人を育ててくれた。


 だから…!


「お母さん達の敵討ちは…」


「…わたし達でしなきゃなの!」


「…うん!」


「お母さんの敵討ち…絶対にやる!」


 それからはやる事が沢山あった。


 ステラって人に連絡して、荷造りして…そうこうしてる間に王都に行く日になった。


「では…よろしくお願いします」


「ああ。任せな。安全に王都まで送り届けるよ」


 王都までは馬車で五日かかる。子供だけじゃ危険だからってステラさんが冒険者と馬車を手配してくれたらしい。


「ルー、クー、ティナ、ニィナ…元気でな」


「大きくなったら、帰っておいでよ」


 …帰らねぇよ。お母さん達のお金が目当てのくせに。


「それじゃ行くぞ」


「そんな不安そうにしなさんな」


「王都には美味しい物も沢山あるからさ。楽しみにしてな」


 王都から来た三人組の冒険者…お母さん達よりずっと若いけど…お母さん達よりずっと弱そうだ。


「でな、王都にはエチゴヤ商会って店があってだな」


「珍しい物がお手頃な値段で沢山売ってるのよ。貴女達も行ってみると良いわよ」


「「「「……」」」」


 王都に行くまでの間は冒険者達がやたらと話しかけて来た。


 きっとステラさんからルー達の事情を聞いて気を使ってくれたんだと思う。


 でも、ルーはそんな事には興味が無かった。


「あとはなんと言っても!」


「ノワール侯爵様よね!王都に行ったら会えるかもしれないわよ!」


「超良い男だから!お前達も見たら拝んでおくといいぞ!」


 ……誰?男とか…どうだっていいし。


「…そんな事よりさ。聞きたい事あるんだけど」


「お、おう?」


「何かしら」


「あんた達の冒険者ランクは?」


「ランク?Dだけど」


「それがどうかしたの?」


「…なんでもない」


 D…やっぱりお母さん達よりずっと弱そう。


 お母さん達は前に昔よりは弱くなったけど、今でもBランク冒険者と同じくらい強いんだって言ってた。


 だから鍛えてもらうならBランク以上じゃないとな。


「じゃあ…王都で一番強い冒険者って誰?」


「お?冒険者に興味があんのか?」


「そうねぇ…Aランク冒険者パーティーの『ファミリー』かしらね」


「『ファミリー』は騎士になるって話だろ。『天使の守り手』じゃね」


「アムさん達はBランクじゃない」


「でもSランク冒険者『無口な鉄サイレント』のドミニーさんも居るだろ」


「あの人は同じパーティーじゃないんでしょ?」


 …ドミニーってお母さん達から聞いた事あるような気がすんな。


 『天使の守り手』か…覚えとこ。




「おっし、着いたぞ」


「此処が王都の冒険者ギルドよ」


 村を出て五日後…やっと王都に着いた…尻痛い…


「来たか。お前達、こっちだ」


「お、ギルドマスター」


 冒険者ギルドに入ったらすぐに声をかけられた。


 あの人がステラさん…元Sランク冒険者。エルフだから見た目若い…それに強そう。


「(ねぇねぇ。ステラさんに鍛えてもらえないかな)」


「(つ、強そうだもんね…)」


「(でもギルドマスターだから忙しそうなの)」


 ニィナとクーはルーと同じ考えっぽいけど…ティナの言うように忙しいかもな。


「なんだ?」


「なんでもないのー」


「そうか?なら早くこっちに来い。お前達、御苦労だったな。依頼達成だ。受付で報酬をもらったら休むといい」


「う〜い」


「そうしよっか」


「あ、ギルドマスター。馬車はどうしたら?その子達の荷物が乗ったままだけど」


「荷物は馬車に乗せたままでいい。ギルド前に停めてるんだろう?職員に言ってあるからそのまま置いとけ」


「あいよ」


「じゃ、此処でお別れね」


「元気でな」


 三人組の冒険者とは此処でお別れか…そういや名前も聞いてなかったなぁ。


「さて…お前達の今後だが…マチルダの事は聞いているか?」


「…聞いてる。とてもお世話になった人だって」


「孤児院の院長先生だって聞いてるの」


「うむ。お前達はその孤児院に入ってもらう。隣にあるエロース教の教会にはジーニも居る。ジーニの事も聞いてるよな?」


「聞いてます…」


 そんな話をしてたら、人がいっぱいきた。その中には三人組冒険者から聞いた名前の人も居て…ルー達は鍛えてもらう事になった。


 今日から鍛えてくれって頼んだけど、今日は疲れてるだろうからって、簡単な訓練で終わった。


 チンタラしてられないってのに…


「じゃ、おやすみなさいね」


「…おやすみ」「お、おやすみなさい…」「おやすみなの」「おやすみなさい」


 訓練の後は孤児院に行って荷物を運び終わって自己紹介して飯食って。


 風呂に入ったら後は寝るだけ…なんだけど。


「今日から此処で暮らすのか…」


「…村の暮らしより、良いかも」


「そだね…都会だし、何でも売ってるだろうし…」


「でも…お母さん達と一緒が良かったの…」


「「「グスッ…」」」


 泣くなよ…ルーだって…ルーだって…


「グスッ…な、泣いてる暇なんてねーぞ!ルー達は急いで強くならなきゃなんねーし、色々準備しなきゃだし!」


「じゅ、準備って?」


「強くなるだけじゃダメなの?」


「当たり前だろ!」


 だってお母さん達の敵は王都じゃなく村の近くの山に居る筈だからな。


 なら村に帰る為の用意とか色々しなきゃ。


「それにルー達だけで村に帰るってバレたら絶対に止められるし、途中で見つかったら連れ戻されると思うし。見つからないように村に帰るには工夫がいると思う」


「た、例えば?」


「…そ、それを皆で考えようぜ」


「「「……」」」


 と、取り敢えずは装備だな、うん。魔獣と戦うのに素手じゃな。


 後は馬…いや馬車だな。食べ物も運ばなきゃだし。


 それと作戦だな。村に帰るまでの…敵討ちが出来るまで見つからないようにする作戦。


「で、出来るかな…」


「やるしかないの!」


「それに早くしないと…他の誰かに倒されちゃうかもだし」


「だな。やるしかねぇ」


 それから三ヶ月。四人で考えられるだけの準備をして作戦を考え、決行した。


 馬車は高かったけど、良いのが買えた。なんか知らないけどノワール侯爵に宜しくってやたら言われた。


 装備はドミニーさんが作ってくれた。よくわかんねぇけどミスリルやアダマンタイトが使われた高級品だけど

タダでくれた。悪いと思ったからお金渡そうとしたら返された。


 御蔭で魔法道具を買う余裕が出来た。匂いを消す魔法道具に結界を貼る魔法道具。


 これであのハティって狼もまける…と、思う…多分。


 後は食べ物とか細かい作戦を考えて…実行した。


「後ろ、誰も来てないか?」


「う、うん。誰も来てないよ」


「出来るだけ距離を稼ぐの」


「えっと…暫くこのまま真っ直ぐだね」


 此処までは順調…だよな。村までは街道を進めば魔獣にも襲われない…と、思う。


 来た時は襲われなかったし。


「と、途中にある村や街には本当に寄らないの?」


「寄らねぇ。何度も考えたじゃんか」


「冒険者ギルドマスターに侯爵様が居るんだよ?」


「王女様もなの。絶対連絡が行ってるの」


 だよな、絶対に探してるよな。そして…捕まったら二度とチャンスは来ねぇ。


「だから絶対に成功させなきゃならね。絶対に…絶対にだ」


「で、でも…ずっと外で寝るの?寒いよ…」


「寝袋があるから平気なの」


「馬車の中なら大丈夫だよ。狭いけど…」


 魔法道具とか食べ物とかあるから確かに狭いけど…なんとかなる!


「もう少し進んだら休憩しよう。馬も休ませなきゃだし」


「…み、見つかったりしないかな」


「まだアムさん達との待ち合わせ時間じゃないし、大丈夫だよ」


「無理させたら馬が倒れちゃうの」


 まだ若い馬で丈夫らしいけど…無理させすぎて倒れたら進めなくなるもんな。


 頑張ってくれよ…


 結局、昼を過ぎて真夜中になるまで何事もなく進めた。予定以上に進めたし、今日はそろそろ……


「…ルー、き、今日はもう寝ようよ…」


「そうしよう?ランプの灯りだけで進むのも危ないし…」


「馬も疲れてるの」


「…そうすっか。じゃ、あの樹の下で休もう」


 魔法道具で結界張って、馬は樹に繋いで。餌やって…御飯食べて。


 よし。


「寝るか。朝日が登ったら出発すんぞ」


「う、うん…」


「おやすみなの」


「おやすみぃ」


 …思ったよりキツい一日だったな。こんなのを後四日も…zzz…



「…きて、ルー!起きて!」


「……まだねむい………!誰か来たのか!」


「おおっと大人しくしてなよ」


「でないとブスリといっちまうぞぉ」


 な、なんだよ、こいつら…ルー達を連れ戻しに来た冒険者…じゃない。騎士でも兵士でもない。


 こいつらは…


「…盗賊?」


「正解だよ。御褒美にあたしらのアジトに連れてってやろう」


「その後は奴隷にしてやろう。四人仲良く買ってもらえるといいなぁ、ヒヒヒ」


 な、なんだよ、こいつら…結界を張ってたのに、なんで…ティナとニィナは…無事だな。


 クーは…いない?!


「クー…クーは何処だ!」


「ああん?ああ、あのガキか」


「安心しな。斬り掛かって来たから返り討ちにしたが、怪我して気絶してるだけさ。外で転がってんよ」


「て、テメェら…よくも!」


 チクショウ…兎に角、こいつらなんとかしないと!


「なんとかしようって考えてるんだろうけど、やめときな」


「外にゃ仲間が十人いる。ガキにしちゃ腕がいいようだが勝てやしないよ。怪我したくないなら大人しくしてな」


「…け、結界はどうしたんだよ。どうして…」


「結界?ああ、これな」


「これは結界内の物を認識出来なくなるってタイプの結界を張る魔法道具だろ。だけど結界を張る前からあんたらを認識してたら無意味なのさ。残念だったね」


 そ、そんな…こいつらはルー達をずっと見張ってたって事かよ!


「あたしらのテリトリーに入ってからずっと見てたよ」


「ガキ四人だけ。にしちゃあ良い馬車に馬。オマケにお前らの装備は一級品。何処ぞの金持ち商人の娘か?それとも貴族令嬢かぁ?」


「どっちでもいいさ。ドライデンから逃げ出して以来ツイてなかったけど。ようやくツキがまわってきたね」


「「ヒャハハハハ!」」


 …こんな、こんな終わり方なのかよ…お母さん達の敵も討てないで…村に着くことも出来てないのに…


「チクショウ…チクショウ!」


「ルー…う、うぅ…」


「だ、誰か…助けてなの…」


「ば〜か!こんな時間にこんな場所、誰もこねぇよ!」


「あんた達が本当に貴族令嬢だったら騎士が来るかもだけど近くに村も街もない。誰も来やしないさ。諦めな」


 諦める…?お母さん達の敵討ちを?無事に帰る事を?


 …嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!


「諦めるもんか!ルーは…絶対に!お母さん達の敵を!」


「敵ぃ?はっ!ご立派なこって」


「現実を見な。ガキ四人だけでどうにか出来るーー」


「とーころがギッチョン!」


「「へ?へぶぅ?!」」


「「「え?」」」


 な、なに…誰か来た?でも、今の声って…もしかして…


「ふぅ…怪我はないか?」


「ノワール…侯爵様…」


 た、助かった…?

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