第241話 計画的でした

 前回までのあらすじ…神子レイは院長先生の息子かもしれない。


 ……いやいや。レイさんは見た目三十代後半。


 院長先生の子供にしては……それに誘拐された?そんなん全くの初耳ですけどぉ?!


『忘れてるかもしれんけど院長先生は五十三か四やろ。十六かそこらで産んだ子供なら有り得るやろ。それよりマスター、今はルー達が先やろ』


 あ、あぁ…そうだった。あまりに予想外過ぎてルー達の事を忘れてしまうとこだった。


 いや、でも…


「ええと…つまり貴女は神子レイの母君?」


「そうなのか、レイ」


「わ、わかりません…母の記憶なんて残ってませんし…」


「そんな…レイ…」


 あああ…こっちはこっちで放っとけねぇぇぇ!


 めっちゃ気になるわ!


『そうは言うてもやな。ルー達は緊急性が高いけど、こっちは命の危険はないやろ。優先順位を間違えたらあかんで』


 そ、そう、だな…確かに。俺が此処に残ってないと話が進まないわけでもないし…めっちゃ気になるけど!


「院長先生…ルー達の事は俺に任せて。院長先生はレイさんと話を」


「あ、いえ、わ、私もルー達を探さないと…」


「いいから。院長先生は何も心配しないで」


「で、でも…」


「…マチルダの事は私に任せて。ジュン君は子供達を」


「お願いします司祭様。クリスチーナも頼んだぞ」


「ああ、任せたまえ」


 サッサと見つけて話を聞こう…すっげぇ気になるもん。何処に居るかもわからない勇者よりもよっぽど気になる。


『そやな。わいも気になってしゃあないわ。早う解決してまお。ちゅうわけで、先ずは冒険者ギルドに行くんや』


 なんで?アム達と合流した方が…


『アム達かて頭使ってるやろ。ハティを連れてるんやから匂いで追跡出来るんやし。それでも見つかってないっちゅう事は』


 …既に王都に居ないって事か。


『その可能性が高いわな。そうなるとや、アム達にとって一番情報を集めやすい冒険者ギルドを頼るやろ。ギルドマスターのステラはルー達を知ってるんやし』


 闇雲に王都を探すよりは見つけやすいか…偵察機はどうしてる。


『今は王都方面に向けて移動しながらルー達を探しとる』


 ルー達を鍛えると決めた日から今日まで敵と思しき魔獣を探させていたが…それらしき情報は無い。


 魔獣以外の情報はあったが、今それは関係が無いだろう。


『せやな。ほら、早う冒険者ギルドへ行き』


 了解。馬車…なんて悠長な事は言ってられないな。


 飛行魔法…いいや空間転移だ!


『え。そら拙いんちゃうかって、ああもう!』


 構わん!上空に転移すれば転移した瞬間は見られないだろ。例え目撃者が居ても少数で済む。


 なら金でも渡して口封じすればいい。最悪、精神魔法で記憶を消す!


「というわけで俺参上!」


「うわぁ!ビックリしたぁ!」


「ジュ、ジュンかよ!なんで上から落ちて来るんだよ!」


「心臓止まる…」


「わふっ!」


 冒険者ギルド前で話をしてるアム達を発見!ど真ん中に降り立った。


 驚かせてしまったのは謝るから、状況を説明してくれ。


 あと、杖で叩くのはやめなさいファウ。ハティも甘えるのは後だ。


「ルー達の事は聞いた。状況は」


「お、おお?院長先生に聞いて来たのか?それにしちゃめっちゃ早えな」


「えっと…わたし達で心当たりは探したけど見つからなくって。今はギルドマスターが情報を集めてくれてるよ」


「リヴァは空から探してる」


 居なくなったって以外の情報は無いままか…いや、ハティが居て何の情報も無いのか?


「それがよ…アイツらハティの追跡能力を警戒したのか匂い消しを使ったみたいでよ。途中で探せなくなったんだよ」


「しかも自分達の匂いがついた物を路地裏に置いたりしてるの。完全に計画的だよ」


 …誘拐だとしたらかなり手慣れてる事になるな。失踪だとしたら…九歳児にしちゃ驚異的じゃね?ハティの追跡を無力化するなんて大人でも簡単じゃないぞ。


 …いやティナとニィナは犬人族。常人よりも鼻が利くから自分達を基準に考えて対策を打てるのか。


「待たせたな…って、ジュンも来たか」


「……」


 ステラさんがドミニーさんと一緒に来た。どうやら何か情報を掴んだらしい。


「何かわかったのかよ、ギルドマスター」


「ああ。東門の門番が覚えていた。四人は陽が昇る前、馬車で王都を出ている。もう十時間以上前だ」


「馬車って…乗り合い馬車か何かかな?」


「いいや、自分達の馬車だ」


 自分達の馬車って…孤児の子供が馬車なんてそうそう買えるわけが―――


「四人の養母だったリムとラムはかなりの額の遺産を四人に遺してる。馬車くらい余裕で買える。それも四頭引きのスピード重視の高級馬車をな」


 …そういや馬車の扱い方もアム達から習ってたな。かなり前から計画的に動いてた事になるな。


「購入したのは先週。東門近くの停留所に預けていたようだ。しかも子供だけで夜明け前に馬車で王都から出るとなると怪しまれると考えたんだろうな。酔っ払いを雇って母親を演じさせたらしい。門を出た所で金を渡し、時間を空けて王都に戻るように指示したようだ」


 ……アム達の時にも思ったが…この世界の九歳児って行動力凄すぎません?当然、馬車の中には食糧やら何やら積んでいるんだろうし。


 アム達を凌ぐ行動力と計画性…末恐ろしい。


「と、兎に角東門から出たんだな!なら早く追い駆けて――」


「落ち着け、アム。ルー達の目的地は故郷の村。正確には故郷の村近くの山だろう。途中には冒険者ギルドのある街もある。そこのギルドマスターに協力を頼んだ。直に見つかるだろう」


「で、でも…それまでに何かあったら…」


「…それはわかっている。だが四頭引きの馬車に十時間以上も出遅れて追いつくとなるとな。かなり厳しいだろう」


「だからってジッとしてられっかよ!あたいらも馬車で向かうぞ!」


「うん!きっと何処かの宿で見つかるよ!」


「所詮は子供。睡魔には勝てない」


 …普通の子供ならな。体力的にも宿で休みたがるだろう。


 馬も休ませなきゃいけないし。


 だが此処まで計画的に動いてる四人だ。並じゃない決意を感じるし、見つかりやすい宿を利用するだろうか。


 途中にある村や街は全て素通りする可能性が高いような。街道すら使わないかも。


『有り得るな。しかし、そうなるとや。危険が一気に増すで』


 …わざわざ街道を外れて移動する子供だけの馬車…盗賊にとっても魔獣にとっても美味しい獲物だろう。


 どっちに狙われても命はない。


 …急いだ方が良さそうだ。


「ジュンはどうする。一緒に行くか?」


「いや…俺は俺でやる事がある。アム達はエリザベスさんに協力を頼んでから追い駆けて。うちの馬車を使っても良い」


「エリザベスさんって…ああ!そっか!」


「人探しの御呪い」


 そう、フランの父親を探した時のアレだ。実績もあるし現在地はわかるだろう。


 現在地は、な。


「よっしゃ!そうと決まれば行くぜ!」


「ああ。ハティも行け」


「わふっ!」


「……」


 アム達はこれで良い。っと、ドミニーさんもついて行ったか。


 ま…現在地がわかっても移動してるわけだからアム達が其処に着く頃にはルー達はさらに進んでるんだが。


「私は各街のギルドマスターに連絡を取るが…ジュンはどうする」


「俺は独自に動きます…てかこんな時にまで尻揉むな」


「チッ…久しぶりなんだからいいじゃないか…」


 良いわけあるか…メーティス、どうだ?


『まだや。取り敢えず人目につかんとこに移動しとき。んで、王都の外に出とき』


 で、そっから先は転移か飛んで移動な。


 頼むから無事でいろよ…

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