第239話 変わってました
勇者…ベルナデッタ殿下の予知によれば、俺を狙う悪い勇者。エロース様に恨みを持つ神によって送られた存在。
勇者と聖女に関しては去年から情報を集めてたが、何も情報は得られず、進展は無かったが…まさか教皇の口から勇者と出るとはな。
「…知っているのですね」
「…御伽噺に勇者と聖女が出て来る事なら。それ以上の事は知りません」
嘘じゃない。アニエスさん達に任せっきりではなく、俺も文献を読んだりしたが新しい情報は無かった。
帝国に行った時にも何か知らないかと聞き込みをしたが成果なし。
実質、何もわかっていない。
「教皇猊下、何故ジュンに勇者の事など?」
「まさか使徒でないなら勇者じゃないかと考えて?確かにジュンは勇者だったとしても不思議じゃないくらいに強いけれど、あまりに安直では?」
Oh…教皇相手に言うね、クリスチーナ。
だが教皇は俺を勇者だなんて思ってないだろ。
「まさか。ですが神託で―――」
「戻ったぞ、ジュン。それで急ですまないが御茶会に――」
「ジュン君!パメラとエルリックを頼む!カタリナとの婚約を認めてあげるから――おぉ!」
「「誰!?」」
アニエスさんの後ろから現れた男…肩まで伸びた髪、引き締まった身体…そこそこなイケメン。
誰だ…?
「これは美しいお嬢さん!是非、僕と子作りを!――ぷぎゃぁぁぁぁ!」
「今の台詞で貴様が誰かわかった!見た目は変わっても中身は相変わらずどうしようもないな貴様は!」
俺にもわかったわ。こいつ、あのおっさんか。
何があったか知らんが見た目は随分変わったな。
そしておっさんが口説いた相手はブルネッラ枢機卿…教皇に言ってたらアウトだったんじゃね?いや枢機卿でもアウトか。
処罰は免れ…男なら大丈夫か。
「相変わらずですね、おっさ…ユーグさん」
「今、おっさんって言…ぎゃあぁぁぁ!そんな事よりカタリナを止めてー!」
「止めてくれるな、ジュン。いい加減にこの馬鹿には引導を…ん?」
「うっうぅぅ…ぅああああん!!ぱぁぱぁ!」
「あ〜う」
「あぁ、な、泣かないで、パメラちゃん」
「……」
今度は赤ん坊を抱いた女性と二歳くらいの女の子と手を繋いだ男の子。
と、怪しく笑う女の子……誰?
泣いてる女の子と赤ん坊はおっさんとイオランタ侯爵の子だとして……
『アレやろ。ノール子爵家の人らやろ。おっさんと一緒に来たって言うてたやん』
ああ、そうだった。という事は赤ん坊を抱いてるのがノール子爵で、男の子がシルヴァン。怪しく笑う女の子がレティシアか。
聞いてた印象とかなり違うが…
「っと、そんな事より、カタリナ。離してあげな。あの泣いてる娘、カタリナの妹みたいだし」
「う、うん…」
「はぁふぅ…あ、相変わらずカタリナはヤキモチ焼きさんだな…」
はい、話が進まないからアイアンクローはもう止めなさい。
額の青筋も引っ込めなさい。
「あっと…お騒がせして、すみません」
「ええと…」
「事態がよく飲み込めないんだが…」
「取り敢えず、私は使徒様と子作りしなければならないので、お断りします」
教皇だけじゃなくアンタもか、枢機卿。
絶対に使徒だなんて認めないから諦めなさい。
「ユーグ…貴様という奴は。働くようになって多少はマシになったのかと思ったら…教皇猊下が来てるからジュンと話すのは御茶会の時にしろと言っただろう」
「そ、そうだけど…焦っちゃって…あぁ、パメラ。泣かないで。パパは大丈夫だから」
「うぅ…」
「…それで、アニエスさん。そちらの方々がノール子爵家の?」
「あぁ、そうだ。紹介しよう。私の従妹のアンナだ」
「アンナ・イレーヌ・ノールよ。よろしくね、ジュンちゃん」
「…よろしく、ノール子爵。ジュン・レイ・ノワールです」
子爵が侯爵をちゃん付けって。俺は気にしないけど、他の侯爵なら問題になるぞ。
ただ…アンナさんはアニエスさんと歳が近い筈だが十代にしか見えないな。
控え目に言って二十歳前後…下手すりゃクリスチーナより若く見えるぞ。茶髪の美魔女だな。
「で、私の子供達よ」
「シルヴァン・ナルシス・ノールです。お会いできて光栄です、ノワール侯爵様」
シルヴァンは確か十歳だと聞いているが、歳の割に大きな体格してる。それにイケメンだ。それ故に苦労してそうだな。性格も歪んでなさそうだし、モテそうだ。
で、最後に…
「レティシア・ララ・ノール……ウフフ…貴方に光をプレゼントしに来たの…」
ん~~…なんて言うんだったかな、こういう痛い子。
病み系女子?なんか違うな…兎に角、病んでるな、この子。
漫画なんかではオカルト研究会とかに入ってそうな。趣味は蛙の解剖とか言い出しそうな…そんな感じの子だ。
見た目は御多分に漏れず美少女で、アンナさん譲りの茶髪。服装はゴスロリ。
聞いてた話と全然違うが…こういう方向性の問題児なのか。
「ふーん…へー…」
「…なんです?俺…私の顔に何かついてますか」
「丁寧に喋ろうとしなくていいわよ。いえね、カタリナちゃんだけじゃなくアニエスまで夢中になる男の子ってどんな子かなぁって思ってたんだけど。こりゃ二人が夢中になるのもわかるわぁ」
「ですね。まさか僕と良い勝負だとは」
…ん?なんか引っ掛かるな?
「はぁ…その辺にしておけ。続きは御茶会の時にな。それと…教皇猊下も御茶会に参加して頂きたいのですが」
「ええ。ジュン様にもお誘い頂いています」
「良かった。教皇猊下らが来られた事を聞いて、陛下も御茶会に来られるそうです。時間まで此処でお待ちください」
「ぷっ!」
女王陛下も来るんかい!そんなん急に言われても困るわ!
「ちょっとアニエスさん。聞いてませんよ」
「仕方ないだろう…私だってさっき聞いたんだ。多分、陛下だけじゃなく宰相も来るぞ。大臣らも来るかも…もしかしたらジーク殿下も一緒かもしれん」
もうそれ御茶会の規模じゃ収まらんくね?もっと盛大な…パーティーにしなきゃいかんくね?
「アリーゼ陛下もいらっしゃるのですね。なら王城に行かず、此処で待たせていただきましょうか」
「だな。レイ神子はどうする。先に教会を見に行くか?」
「いえ、僕も待ちます。大分落ち着きましたけど、まだちょっと気持ち悪いですし」
「儂は…ブルネッラ、マッサージしてくれ」
「はいはい」
…教皇一行は此処で良いのか。司祭様は…あ、教皇一行と一緒に居てくれます?助かります。
後は…おっさんと二人の子供。で、ノール子爵家一行か。
…流石に教皇一行と一緒に此処で待機させるわけには…行かないよな、うん。
「おっさ…ユーグさん達とノール家の皆さんには別の部屋を用意しますから、そこで寛いでください」
「あ、ちょっと待ってよ、ジュン君!御茶会まで時間があるなら話を――」
「止めろ、ジーク。お前はパメラと遊んでやれ」
「う、うん…」
…随分と一生懸命だな。カタリナや他の子供は放任してたくせに。
同じだけの関心をカタリナやアニエスさんに向けていれば二人に嫌われる事も……ん?
「な、なんです?」
「…貴方に闇が迫ってる。でも大丈夫。私が光を持って来たから…」
「………そっスか。部屋まで案内させますので、少々お待ちください」
いやもう、何が言いたいのか。
まさかベルナデッタ殿下みたいに未来視が出来て、今のは予言ってわけでもあるまいし。
「で。色々聞いていいですか、アニエスさん」
「ああ…うん。色々聞きたいよな、うん」
俺、カタリナ、クリスチーナ、アニエスさんは場所を変えてアニエスさんから話を聞く事に。
御茶会の準備はローエングリーン家の人達がやってくれてるし、任せるとして。
「取り敢えず、おっさんはどうしたんです?中身は変わってないようですが、見た目はえらく変わりましたよね」
「あぁ…アレな。どうやらアイツ、鉱山で働いていたらしい」
「へぇ?」
詳しく聞けば。
イオランタ侯爵は犯罪奴隷落ち。イオランタ侯爵家は取り潰しとなり、鉱山送りとなった。
元イオランタ侯爵になったリブレットは妊娠している事が発覚。
報せを聞いたおっさんは直ぐに鉱山まで行って…一緒に働きだしたらしい。
ナンデヤネンとツッコミたくなるが、子供を育てるにも生活するにもお金が必要。
イオランタ侯爵家は取り潰しになり、財産は没収された以上はおっさんが稼ぐしかない。
なら、リブレットが居る鉱山で働くと言い出したんだそうだ。
「流石に犯罪奴隷が働かされるような危険な場所ではなく、主に鉱夫の世話役をしていたそうだがな」
「…ちゃんと出来たんですか、あのおっさん」
「いいや。鉱夫の相手をしてただけだ」
相手って……あぁ、はいはい。何処でもそればっかりか、あのおっさんは。
「まぁ、影響されやすい奴だからな。安全な場所で力仕事もしてたらしい。御蔭で痩せて逞しくなったようだが…」
それから暫くして、男の子を産んだリブレットは落盤事故で死んでしまったらしい。
仕事も無くなったおっさんは暫く落ち込んでいたが、子供の為にもアインハルト王国へ戻る事を決意。
なんとか船に乗る事が出来、ノール子爵家が治める港町まで来る事が出来た。
で、アンナさんに頼み込んで王都まで来たらしい。
「…随分と頑張ってるんですね。そんなにあの子達は特別なんですかね」
「私も同じ事を思った。だから聞いたんだが…どうやらパメラはギフト持ちらしい。どんなギフトかは頑なに言わないが…相当にレアなギフトらしいな。バレたら誘拐されかねないとか言っていたぞ」
…それならなんで俺になんとかさせようとする。アニエスさんに頼めばいいじゃんか。
「それじゃ次はレティシアさんについて。なんか聞いてた話と随分違いますね。確かに変な子ですけど、危険人物ではなさそうな」
「いや、ジュン。レティシアはあんなんじゃなかったぞ。二年…いや三年前に会った時とはチンピラ同然だった」
「あぁ…私も驚いた。以前のレティシアは…なんと言うか…こう…うん、控え目に言ってチンピラだな」
「…貴族令嬢だよね、彼女は。それがチンピラって…どんな子だったんだい?」
確か…目があったからとかなんとかで宰相の孫を殴って鼻の骨折ったとかなんとか。
そんな悪い子には見えなかったのは確かだ。
「だがな。アンナ曰くだが…レティシアは三、四年毎に性格が変わるんだそうだ」
「はぁ?どういう事だい」
「うん…つまりな」
アンナさん曰く。
レティシアは三、四歳までは絵本が好きな大人しい子だった。
五歳から八歳までは活発でよく笑う子だった。
九歳から十一歳までは無口で静かな子になり。
十二歳から十四歳まではチンピラのようになり。
十五歳になった先月から今のようになった…らしい。
「何て言うか…忙しい人格ですね」
「多重人格ってやつじゃないのかい?それは」
「そういうわけではないそうだ。全く…わけがわからん」
「私がレティシアに会った回数は少ないですが…確かに記憶の中のレティシアと一致します」
なんか理由…原因でもあるのかね。
キャラ変する理由…中二病だったりしてな、ハハ。
「御主人様、陛下がいらっしゃいました。宰相閣下も御一緒です。他の招待客の方々も揃っています」
来たか。なら教皇一行の相手は陛下にお願いして、城に引き取ってもらって関わらないようにしよ。
『無理やろ。向こうから会いに来るやろうからな』
それもスルーするんだよ!教皇と子作りなんて出来るか!
『多分教皇補佐のミネアも付いて来るで?双子の姉妹丼とか男の夢なんちゃうのん?』
尚更遠慮するわ!…………………否定はしないがな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます