第237話 まとめて来ました

 ドラゴンに乗って現れた四人…エロース教教皇一行。


 春に来るとは聞いていたが、まさかドラゴンに乗って来るとは。


 来るなら来るで、もう少し余裕を持って報せて欲しい。何の準備も出来てないぞ。


「ド、ドラゴンがいるぞ!」「に、逃げろー!」「騎士団に通報しろ!」


 あ、ほらぁ。屋敷周りで一般人が騒いでる。何にも知らない人達からすればドラゴンなんて恐怖の象徴でしかないんだから。


 放っておけばパニックに…って、俺も出迎えに行かなきゃな。


「アム達は皆にエロース教の教皇一行が来たって伝えて。リヒャルダ達は屋敷周りで騒いでる人達に説明を。あのドラゴンは暴れないから心配しなくていいって」


「え。アレ、教皇なのかよ」


「ほ、本当に暴れないんですか?」


「…多分」


 そこは信用するしかないだろ。


 兎にも角にも、俺も出迎えに行かなきゃ。


「動くな!」「貴様等を拘束する!」「抵抗するなら命の保証はしない!」


 あ。


 屋敷に滞在してる白薔薇騎士団のメンバーが教皇一行を囲んでる。


 カミラ達元暗殺者達も…カミラに至っては邪眼を使おうとしてないか?


「…おい、エル。どうやらわたしらが来る事が伝わってないようだぞ?」


「おかしいわね…ちゃんとジーニ司祭に連絡したのだけど」


「暴れないでくださいましね、ファフニール様」


『そりゃあ、わかっとるが…そいつは大丈夫か?』


「オロロロロ…」


 ……まだ距離があるから何言ってるかわからんが…神子っぽい人、吐いてない?人様の庭で。


 何してくれとんねん。


『そんな事よりマスター。はよ止めな。エロース教教皇を捕縛なんてしたら大問題になるで。知らずにやったとしても。怪我なんてさせたら下手すりゃ処刑やで。マスターやのうて実行者が』


 そらあかん。


 白薔薇騎士団は温情判決が出るかもしれんがカミラ達はアウトだろう。


 いや、彼女らからすれば正しい行動なのだが。


「はいはーい!皆、警戒を解いてー!この人達は多分、エロース教教皇御一行だからー!」


「「「「「教皇?」」」」」


 教皇御一行を囲んでいる全員が俺を見た後、教皇御一行を見る。


 その顔には「本当に?」とか「嘘だろ」とか書いてあるかのように――


「コホン…その方の仰る通り、私はエロース教教皇の――」


「「「「「嘘だ!」」」」」


「「あれぇ!?」」


 断定された?!何で?疑うのはわかるけど、嘘だと断定するには早くない?


「教皇が来るなんて私達は聞いてないもん!」「本当に教皇が来るなら国を挙げての歓迎、その準備をしてるはずだし!」「お忍びで来るつもりならドラゴンに乗って来るわけないし!」


「「「つまり教皇じゃない!」」」


 ああ、うん…確かにね。


 俺もついさっき知らされたばかりだし。なんなら陛下も知らなかったみたいだし。


 白薔薇騎士団が知らないのも当然か。


「ですが!つい先程、陛下からの使者が来まして。今日中に教皇…猊下が到着すると報せがありました。ですので、そちらは正真正銘本物の教皇御一行です」


「そうだぎゃあ!あちきらぁ教皇でぇまぁちがいねっぺよっ!」


「「「「……」」」」


 何故そこで突然に何処ぞの方言丸だしになる!不信感が増していくじゃろがい!


「エル…お前な。慌てると素が出るの直せって」


「し、仕方ないじゃない…それに別に普段は猫かぶってるわけじゃないし」


「そんな事よりもです。この場を治めなくては…おや?」


「ジュン君!教皇猊下が今日……きゃあああ!ファフニール様!?」


「あ、司祭様」


 良かった。流石に司祭様が教皇だと断じてくれれば信じてもらえるだろう。


「ななな!なんで!?なんでエロース教の守護神ファフニール様が此処に!?此処ってエロース教の聖地でしたか?!それとも性地?!」


「此処は俺の屋敷であって聖地でも性地でもありません。てか性地って何」


 人の屋敷を妙な土地にしないでくれ。


 …でも、何となく意味が伝わるのが嫌だなぁ。


『あながち外れてない気がするしな。マスターのハーレム屋敷やねんし』


 お黙り!


「ブルネッラ枢機卿。彼女は?」


「はい。恐らく此処王都ノイス支部を預かるジーニ司祭かと」


「なら…ジーニ司祭。彼女達に私は教皇だと納得させなさい」


「…はい?あ、貴女方が教皇猊下御一行なのですか?」


「ちょっと!貴女まで疑わないでくれない?」


「益々疑いの眼を向けられてるじゃないか」


 …あれぇ?


 司祭様まで疑ってる?…いや、純粋に疑問に思ってる?


「あの人達は教皇御一行じゃないんですか?あのドラゴン…ファフニール様とやらに乗って来ましたけど」


「あ、あぁ…なら教皇猊下で間違いないと思うわ。前教皇のヨハンネ様にはお会いした事があるのだけど、エル様にはなくって…他の御三方も初対面だし」


 …司祭なのに教皇に会った事がないの?そういうものなのかな…そりゃ気軽に会いに行ける距離じゃないけれど。


「取り敢えず…皆さーん!本物の教皇御一行で間違いなさそうなんで!警戒を解いてくださーい!」


 ここでようやく武器を納めて少し距離を取る白薔薇騎士団とカミラ達。


 しかし完全には警戒を解いてない辺り、まだ信用はしてないようだ。


「…えーと…初めまして、ノワール侯爵です。貴女が教皇猊下でお間違いないですか?」


「あ、やはり貴方がノワール侯爵なのですね。はい、私がエロース教教皇のエルです」


「わたしは教皇の補佐役、ミネア。見て判るだろうがエルとは双子だ。因みにわたしが姉」


 また双子か。最近双子に縁があるなぁ。


 教皇エルが金髪でミネアが銀髪。髪の色以外はそっくりな双子だな。


 二人共に御多分に漏れず美少女。見た目十代半ばか。


「ブルネッラと申します。これでも枢機卿です。よろしくお願いします、ノワール侯爵様」


 …枢機卿って、御年寄な人ってイメージだったんだけどな。


 随分と若い…二十代前半、下手すりゃ十代に見える。


「ノイス支部に赴任する神子のレイです。なんでもノワール侯爵のミドルネームと同じだとか。同じ名前同士、仲良くしてください」


「…え」


 …同じ名前なのか。そりゃまぁ、そういう事もあるだろう。


 しかし…誰かに似てる気がするな、この人。


 それに…司祭様がやけに驚いてるのが気になる。


『わしはファフニール。古より女神エロース様よりエロース教を護るように遣わされた者。よろしくの、ご同輩』


「ご同輩…?」


 妙な事を言うな。


 蒼い鱗を持つ巨体のドラゴン…リヴァの父ドラゴンより一回り大きいか。


 今のところ敵意は感じないが、相当に強いな。今までに出会った中で最強クラスかも。


「…それで教皇猊下。何故に我が屋敷に?こちらとしては歓迎の用意も何も出来ていないのですが」


「それはお気になさらず。どうやら何かの手違いで連絡が遅れたようですし。それで此処に来た理由、目的は勿論、貴方に会う為です。ノワール侯爵…いえ、ジュン様」


 …これは、アレか。やっぱりアレか。


 俺をエロース様の使徒だと判断しての来訪か。


『それか確認の為やな。どっちゃにしろ、すっとぼけるんやろ?』


 いえーす、おふこーす。


 これ以上めんどくさい肩書きはいらん。


 エロース様の使徒になんて認定された日にゃ。俺に自由の日々は訪れない。


 絶対にスルーだ! 


「こうして直にお会いして確信しました。ジュン様、貴方は――」


「おおい!ジュン!そこに居たかって、ドラゴン!?」


「お母様?」


 おっと?アニエスさんまで来たか。いや、いつの間にか屋敷の住人の殆どが周りに居る。


「な、な、何なんだ、あのドラゴンは!」


「アニエスさん、落ち着いてください。実はカクカクアレコレ」


「なっ…教皇だと……なんて日だ」


「…聞くのが怖いですけど、何かあったんですか」


「……ノール子爵家が来た」


「ああ、例の」


 カタリナのハトコだったか。レティシアって娘は問題児らしいけど、そんなに慌てて来なくても…あぁ、今日の御茶会が中止になるとか?


「そして…ユーグも一緒なんだ…」


 …うわぁ。


 教皇御一行だけでお腹いっぱいなんですけど。

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