第236話 来訪は突然でした
「「「「「おはようございます侯爵様!」」」」」
「おはよう…朝から元気だね」
季節は春。
騎士を新たに合計二十名雇い、屋敷がまた賑やかになった。
特に『ファミリー』の連中が元気だ…毎日ニコニコしてるけど、そんなに楽しい?その内、領内の街に行ってもらう事もあるけど、受け入れてね?
っと、アレは…
「おはようございますノワール侯爵様!」
「…おはようございますカサンドラ様。毎日大変ですね」
「今は冒険者のカサンドラなので呼び捨てでいいですよ!」
…屋敷には未だに帝国の皇女ミネルヴァが滞在している。食事と風呂以外では室内に籠りっぱなしの、引きこもり皇女だ。
そのミネルヴァの様子見を理由に毎日のように来るのがミネルヴァの姉カサンドラ。
王国で身分を隠して冒険者をしていると打ち明けて来て(知っていたが)妹が迷惑をかけて居ないか監視の目的で。
しかし、それももうすぐ終わる筈だ。約束の期限は春だからな。
そろそろ例のお茶会の招待が来る頃――
「それに、こうやってノワール侯爵様の御顔を拝謁する事が出来るのなら苦労なんて!むしろ嬉しくて!…ですが、楽しい時間というのはいつまでも続かないのですね…ううっ」
「…テンションの落差が凄いですね」
「ど、どうかしたんですか、皇女様は」
なんか急に涙を流し始めたぞ…情緒不安定?あ、もしかしてあの日ですか。
女に囲まれて暮らしてるから、その点には理解があるつもり――
「グスン…これを」
「これは…もしかして、お茶会の招待状ですか。読ませてもらいますね」
そろそろ来る筈と考えていたら本当に来たな。街道整備が少し遅れていると聞いていたけど大丈夫…あれ、二ヵ月後?
…春じゃなくて初夏にならねぇ?
「…二ヵ月後ですか」
「え?二ヵ月後?…それならまだ時間はありますね!」
…泣いた鴉がもう笑った。
まぁ…皇帝から他国の貴族への招待だからな。余裕を持って誘われるのは当然か。そもそも来週とか言われても王国会議があるから招待に応じる事が出来ないしな。
「それではミネルヴァにこの事を伝えて来ますね!ノワール侯爵様、また後ほど!」
「ああ、はい」
「あの人、あんな一面もあったんですね…意外です」
そうか、『ファミリー』も王都で活動する冒険者だもんな。冒険者カサンドラとは面識があったのか。
「腕のいい冒険者なのかな、カサンドラ様は」
「一度同じ依頼を受けた事があります。確かCランク冒険者で…うん、Cランク冒険者の実力だったですね」
Cランクに相応しいって事ね。Cランク冒険者として突出した実力ではない、と。
「あたしも二年くらい前に一度同じ依頼を受けた事がありますね。勿論、皇女様とは知りませんでしたけど。その時はあたしもカサンドラ様もDランク冒険者で、Dランク冒険者の実力だなって思いましたよ」
「ああ、リヒャルダ。おはよう。みんなもおはよう」
「「「「おはようございます、侯爵様」」」」
「「「「「む…」」」」」
帝国での一件で連れ帰ったリヒャルダ、エーファ、グレーテ、メフィトルデも話に混ざって来た。
同じ形でノワール侯爵家の騎士になった四人は王国に来てからも仲良くやってるようだ。
ただし…
「ちょっと。侯爵様は私らと話してるんだから。入って来ないでくれる?」
「あ?あたしらは侯爵様と話してるんだけど?あんたにとやかく言われたくないね」
「「「「「あ?」」」」」
「「「「あ?」」」」
『ファミリー』の連中とは仲が悪いんだよな…『ファミリー』はアム達とはぎこちなさが残るものの仲良くなろうとはしてるから改善されつつあるんだが。
ところで、そのチンピラみたいな絡み方はなんなの。メンチ切りあうんじゃないよ。
「ふぁぁぁ…ジュン、はよっす」
「おはよ、ジュン」
「おは。朝から喧嘩?」
「「「「「チッ」」」」」
「「「「チッ」」」」
アム達の登場で休戦する二組…ある意味では息ぴったりやね、君達。
「おはよ。アム達は今日から遠出だっけ」
「おう。ルー達に野営と狩の仕方を教えにな」
訓練を始めてまだ二ヵ月と少し。かなり動けるようになってはいるけど…俺の見解ではまだ少し早いと思うんだがな。
野営は兎も角、狩の仕方を教えるのは。
「ん~…わたしもそう思うんだけどぉ」
「どうしてもってせがまれちまったからな」
「冬は危険だから春まで待たせた」
…もっと前に頼んでたのか。焦ってるんだな…早く、敵討ちがしたくて。
ルー達を引き取って育てていたリムとラム。二人を殺したとされる存在。それが何なのかはまだ不明だ。
メーティスに偵察機で探らせてはいるけれど、これといった存在は発見出来ずにいる。
冒険者ギルドマスターのステラさんにも情報は挙がってないようだし、現状では二人の敵討ちに関してはお手上げ状態。
何の情報も無い、というのが余計に四人を焦らせてる要因なんだろうな。
「俺も行きたいとこだけど…」
「気にすんなよ。二日だけだし、ドミニーさんは来るしよ」
「ハティとリヴァさんもね~」
「過剰戦力」
確かにな。ハティとリヴァが居れば百人規模の盗賊団に襲われても平気だろう。
…でも、一応偵察機をつけといてくれ、メーティス。…メーティス?おーい。
『…ふあぁぁぁ。はいはい…ほんと心配性やねんから、マスターは』
まだ寝てたんかい。俺と一緒に起きたんとちゃうんかいな。
『春やからなぁ。この時期の朝が一番まどろむやろ…わいは朝ごはんいらんから、まだ寝させてもらうでぇ…ふぁぁぁ』
…いいけど、偵察機を付けるのは忘れないでくれよ。
「ジュンはジュンで大変だしな。胃、大丈夫か?」
「…多分」
俺がアム達と一緒に行けないのはお茶会があるからだ。皇帝陛下のお茶会ではなくローエングリーン家主催の…俺を紹介しろとうるさい貴族を黙らせる為のアレだ。
今年二度目…面白くもないお茶会を二度…これ、なんとかしたいなぁ。
「廊下でいつまでも立ち話もなんだし、朝食に行こうか」
「だな。腹減ったし」
「だね~……誰かジュンを呼んでるよ?玄関の方から声がする」
「ん?」
玄関…来客か?
こんな朝から…一体誰だ?
「ジュン様~!あ、居た!王城から――わわっ」
「御主人様。王城から使者の方が」
フランが来たと思ったらカミラが忍者みたいに突然出て来た。
…メイドはそんな出方しないんだって、以前教えた筈だが?
「て、王城からの使者?何か大事か?」
「わかりません。使者の御様子からは緊急の大事では無さそうでしたが」
「…わかった。兎に角会うよ」
一体なんだってんだ。少なくとも俺に心当たりは無いが…帝国やカミラ達の絡みなら王城から使者が来るのはおかしいし。
「お待たせしました、使者殿」
「い、いえ!お会い出来て光栄です、ノワール侯爵様!貴方様の御活躍は私も耳にしております!握手してもらえますか!」
…いや、先ずは仕事してくんない?確かに、この様子だと緊急では無さそうだけども。
「…はい。それで何事でしょうか。何か事件でも?」
「うへへ…今日はこの手は洗わない…」
「…使者殿?」
「うへへ……はっ!し、失礼しました!陛下よりの御言葉をお伝えします!『エロース教教皇が今日中に到着する。心構えをしておけ』以上です!」
「……はい?」
え?エロース教教皇が来るの?しかも今日中!?そんな話、全然聞いてませんけど!?
「ど、どういう事ですか?教皇…猊下がアインハルト王国に来るなんて報せは聞いて…はいましたが出発したなんて連絡は受けていませんよ」
「はい。陛下も驚いていました。陛下も知ったのがつい先ほどの話でして…それで私が急遽使者として遣わされたのです」
つい先ほどて。教皇なんて大物が来るのに知ったのがさっきって。おかしいじゃろがい。
国境の街とか通過したろうに、一体どういう事――
『―マスター!なんか来るで!かなりの大物が!』
メーティス?その慌てぶりからしてかなりの存在っぽいな!――お?
「ジュン!なんか来るわよ!多分、あーしくらい強い奴が!」
「わふっ!」
リヴァとハティも感知したか。そしてリヴァと同じくらい強い奴…外か!
「って、ドラゴンかよ!」
「ぎゃああああ!?なんで王都内にドラゴンが!???」
窓から外を見れば庭にドラゴンが降りて来たし!
…って、ドラゴンの背に誰か乗ってるな。三人…いや、四人か。
司祭服に似た服装の女性一人。司祭よりも上位の服装の人が二人。神子っぽい男性が一人……って、おいおいおい、まさか、もしかしてなのか?
「ようやく着いたわね」
「ファフニール様の御蔭で一日で着いたけど、空の旅を一日は辛いよな…あー、腰が辛い」
「神子様、大丈夫ですか」
「……ああ、素晴らしきかな、大地…」
何言ってるかわからんが…やっぱりエロース教教皇御一行だよな、アレ。
なんで王城じゃなくて我が家に来るんだよ!しかもドラゴンに乗って来るとか!非常識すぎねぇ!?
―――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
間が空いてしまい、すみません。
もう少し短い期間で投稿出来るようにしたいと思います。
見捨てないで頂けると幸いです。
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