第235話 まだまだ増えそうでした

前書き


復帰しました。


ただ、暫くは体調と相談しての不定期更新になりそうです。


申し訳ありませんが、ご理解頂けると幸いです。


これからも当作をよろしくお願いいたします。


――――――――――――――――――――――



「うぎゃん!」


「おせぇ!盾持ってんならもっと有効に使えっての!」


「むぅぅぅ!当たらないのー!あう!」


「ハッハッハァッ!当たったら痛いしなぁ!ほれ、足下がお留守やでぇ!」


 …優しくなーい。


 いや、そりゃ訓練なんだから厳しくしないとダメなのはわかるけど。九歳の子供にそこまでやらんでも。


「ジュンも結構厳しいよねぇ」


「勉強とお仕置き時は鬼畜」


「…そう?」


 そんなに厳しかったかなぁ。特に勉強なんて、何度も同じ説明を根気よく丁寧にわかるまで教えてきたつもりだが。


「おっし。今日は此処までだな」


「お迎えが来るまで休憩や。帰ったら勉強もちゃあんとやっとくんやで」


「「「「…はぁ~い」」」」


 ルー達の面倒見始めて二ヵ月。


 陽も暖かくなってきて、もうすぐ完全な春になるかという頃。


 四人共に訓練の成果は眼に見えて出て来ている。


 体力も付いて来てるし、魔法も上達している。少なくとも二ヵ月前に比べれば。


「私達もメイドになって二ヵ月ほどですが成長してますでしょうか、御主人様」


「…張り合ってんの?」


 カミラは突然出て来て何を言うかと思えば。わざわざそんな事を言う為に来たのか?


「いいえ。用事は二つありまして。皆さんにタオルを用意しました。どうぞ」


「ああ、ありがとう」


「わたしとファウは汗かいてないけどねぇ」


「むしろ運動不足」


 いやいや。中々に気が利いてると思うよ、うん。こういう気遣いが出来るメイドって素晴らしいと――


「それから、もう一つの用事ですが。ローエングリーン伯爵様がおいでです。御主人様に御話があるとの事で」


「うん、そっちを先に言おうか」


 人を待たせてるならそっちが優先だろうに。全くもう…


「わかった、戻るよ。カウラ、明日は訓練は休みだって四人に伝えておいて」


「わかったよぉ」


「いってら」


 さてさて…わざわざ呼び出すなんて、どんな用事があるのやら。


 思い当たるのは明日の事だけだが。


「アニエスさん、お待たせしました」


「急に来てすまないな、ジュン。ああ、そっちじゃない。こっち、此処に座るといい」


「此処って…」


 アニエスさんの上に座れと?なんでそこに座らなあかんのん。周りから何言われるかわからな…いや、簡単に想像出来るけども。


「何を馬鹿な事を言っているんです、お母様」


 母親が来たならとカタリナも同席する事に。一緒に居たらしいイーナも一緒だ。


「なんだ、お前も来たのか、カタリナ。馬鹿な事とはなんだ、私は真剣だぞ」


「いつからお母様は椅子になったのです…ジュンの椅子は其処にあるでしょう」


「そうですわ。殿方を自分の上に座らせようなんて…はしたない」


「いいか、お前達。お前達ももう少し大人になれば解かると思うが、生きるという事はストレスと戦うという事なんだ。そしてストレスと戦うには癒しが必要なのだ。そして今の私は癒しを必要としている。とてもな」


 ……まるで共感出来ないわけではないですけど。俺が上に座る事が癒しになるの?


「つまり今日はアニエスさんのストレスの原因について話があると?」


「まぁ、そうだ。それはお前も関わってる。つまりお前の行動が私のストレスの原因にもなってる。だから私に癒しを提供するんだ。ほら、座れ。ほらほら」


「わかりましたよ…」


「よし。ああ、横向きに座るんだぞ。顔が見えるようにな」


 …セクハラじゃね?座るだけじゃなく色々と弄られてるんだけど。


「ふふふふふ……ああ~癒される…いい匂い……」


「……お母様。早く話とやらを」


「ふふふ……はっ!…んんっ。話というのは二つ…いや、三つかな。先ず一つは明日の事だが」


「面接の事ですか」


 明日…ノワール家で雇う、家臣に迎える騎士達の面接がある。


 白薔薇騎士団やローエングリーン家、レンドン家にレッドフィールド家の係累からの紹介で家臣になる事が決まってる家臣は五十名ほど。その内騎士は二十名ほど。


 領地持ちの侯爵家としてはまだまだ足りないのだが一気に雇ってしまうのも不安に思ったので、今年は五十名に留めた。余所からの志願者も全く迎え入れないとなると、それはそれでまた騒ぐ連中もいるという事だし。


 明日の面接で五十名雇って王都と領内の各街に派遣する予定となってる。


「うむ。予定では五十名追加だが二十名に減らしてもらうぞ」


「へ?そりゃまた…随分な削減で。何か問題が起きたんですか?」


「ああ。陛下からの命令…いや、御助言を頂いたんだ」


 どういう事かと尋ねれば。


 俺がカミラ達、元暗殺者集団八十名とリヒャルダ達四人を家臣にした事を陛下には話してある。


 闘技大会に招待された身内以外の貴族にはバレてない筈だが、いずれはバレる、と思っておいた方がいい。


 そしてバレた時、騎士も私兵も多く抱えていると妙な勘繰りをして来る奴が出て来て騒ぎ出すかもしれない、という事らしい。


「ノワール侯爵は反旗を翻すつもりだとか何処かの領地に攻め込んで乗っ取るつもりだとかな。その為に戦力を集めてるとか難癖をつけて、と。同じ王国貴族でも他人の弱味につけ込んで何らかの譲歩を勝ち取る…というのはよくある事だ。平民にも貴族にも人気のお前でも、そういう攻撃の対象には成りうる。強力な後ろ盾があるとは言っても隙は見せない方がいい…という事だ」


「はぁ…だから明日の採用枠を減らせ、と」


「そうだ。ま、お前を狙って他家から送り込まれた人間も多数来るだろうからな。そんな奴を省く手間が省けたと思う事にしよう」


 …二十名か。『ファミリー』の五人は確定として。あと十五人か。


 俺は問題無いけれど、領地運営的に問題無いのかな。


「それはなんとかなる。引き続きローエングリーン家やレーンベルク家、レンドン家から派遣するだけだ。鉱山運営の利権に関われているから利益もあるし、気にする事もない。さて次の話だが…ノール子爵家について話した事はあったか?」


「ノール子爵家…ああ、確かローエングリーン家の親戚筋の」


 以前、カタリナに少し聞いたな。なんでも問題児のハトコが居るとかなんとか。


「ああ…あの話ですか。もしかして本気で来るんですか?」


「頭が痛い事にな。春になったら来るらしい。レティシアとシルヴァンを連れて、な」


「…面倒な話ですね。ところで、お母様。そろそろジュンを離してください」


「嫌だ」


 何が面倒かと言えば。カタリナのハトコにあたるレティシアが例の問題児なのだが。彼女が何か仕出かしそうで不安…しかし来るなとも言い辛い。何せ春には必ずノール子爵は王都に来るのだから。


「春には領地持ち貴族も王城に集まっての王国会議があるからな。特別な事情が無い限り参加が義務付けられているし。アンナが来るとなれば、な」


 そこで深~い溜息を吐くアニエスさん。何をしたか知らないけど、余程の問題児らしい。


「で。そのノール子爵家が来る事に俺がどう関わるんです?」


「お前に会いたがってるんだよ。アンナもレティシアも、シルヴァンもな」


「ああ…はいはい。適当にあしらえって事ですね」


「そうなる。要するに他の女共と同じだろう…とは思うんだがな。レティシアは普通じゃないからなぁ」


「シルヴァンも会いたいと言っていると手紙にあったぞ。シルヴァンは男だから心配は無いと思うが」


 名前からしてそうかなと思ってたけど、やっぱりシルヴァンは男なのか。つまり注意すべきはレティシアと。


「カタリナに監視させるし、ゼフラとファリダも付ける。だが一応、ジュンも気に留めておいてくれ。何かしたら叩きのめして構わんから」


「…私が監視するんですか」


 女の子を叩きのめすとかしませんから…いくら問題児でも。って、考えはこの世界じゃ異端なのかもだが。


「さて次だが………ユーグの事を覚えているか」


「ユーグって…あのおっさんですか」


 あの後、元イオランタ侯爵との間に出来た娘とワイアン王国で暮らしてるって事以外知らないな。


 どうなったのか興味も持てないし。


「王国に戻って来るらしい」


「追い帰しましょう、お母様」


 カタリナが容赦ない。実の娘でしょ…父親は死んだ?いやいや、生きてますから…せめて事情を聴いてあげなさいよ。


「何しに帰って来るんですか?」


「ワイアン王国では娘達・・を満足に育てられない。だから王国で面倒を見てくれとさ」


「殺しましょう、お母様」


 ああ…まぁ、ね。うん。そりゃワイアン王国じゃ肩身狭いだろうさ、その娘は。


 でもなぁ…ずっとほったらかしにしてたアニエスさんとカタリナが居るのにローエングリーン家で面倒見てくれって話は虫が良すぎる……あれ?


「それ、俺と何か関係が?言っちゃなんですけど、それに関して俺が出来る事って何も無くないですか?」


「それがな…面倒を見てくれるなら将来的には娘をジュンの妻にしてもいいと言っている。息子も養子にしてもいいからと」


「…息子?」


「ああ。イオランタ侯爵な…身籠っていたらしい。あのバカとの、二人目の子供をな。そして生まれたのが男児だった…という訳だ」


 Oh…つまりは貴重な男児が手に入るなら、それなりの利があると。それ故に悩んでいるという訳ですね。


「この件も既に陛下にご報告してある。陛下は受け入れろと仰っていてな…ジュンを狙う奴に対しての手札にもなるだろうと」


 …俺の代わりに、その子を差し出そうって?それはそれで随分と鬼畜な発想。


「お母様…それは流石に、何というか…」


「そうですわ。その子はカタリナの弟でしょう?いくらジュンさんの為とは言え、使い捨てのコマのように扱うというのは…」


「わかっている…だが受け入れんないという選択肢は執れん。それもわかるだろう」


 いや、まぁね…ローエングリーン家で受け入れなきゃ余所にとられかねないわけだし。


 でも娘さんの方も忘れないであげて?


「いつ来るんです?」


「春だ。冬の海は危険だからな」


 また春か…春になると変な人が増えるってのは異世界でも通用するらしい。

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