第234話 春に来るみたいでした

「はいはい走る走る!ウチに周回遅れしたら更に一周追加だかんね!」


「ほらほらぁ。頑張れぇ」


「ペース落ちてんぞ!」


「基礎体力は大事」


「「「「ぜぇ…ぜぇ…」」」」


 ルー達四人の子供を鍛える事になって一週間。


 今はノワール家の庭を全員でランニング中だ。


 俺とアム達だけじゃなくアイが混ざってるのは事情を聞いたアイが体力作りなら任せろと首を突っ込んで来たからだ。


 何でも前世じゃ体育教師だったとかなんとか。


「あの、御主人様。アイシャ殿下の教育方は良くて私達のやり方がダメな理由がわかりません」


「違いがわかってない時点でダメかなぁ」


 カミラも協力すると言ってくれたが却下。カミラに任せた日にゃ…数日でルー達の瞳から光沢が消えてる未来が容易に想像出来る。


「はいはい!前も言ったでしょ!走り終わっても急に止まるんじゃなくて少し歩いてから休みなさいって!でないと身体に掛かる負担が大きいから!」


「「「「は、はい〜…」」」」


 それで身体の何処かを壊しても魔法で治せる…とは言わない。


 余計な口出しはしないでおくのが吉だ。


「じゃ、昼飯食ったら、いつものやんぞ!」


「辛くてもちゃんと食べた方が良いよぉ」


「「「はぁい…」」」


 …四人はとても素直に言う事に従ってる。


 アム達もそうだったが、子供には辛い訓練の筈だが文句一つ言わずに、訓練を続けている。


 その甲斐あってか僅か一週間の訓練でも初日と今では目に見えて違う。


 才能も有るのだろうが四人に共通した強い目的意識がそうさせるのだろう。


「違う!もっと腰を使え!」


「はい!」


「……」


「攻撃されてるのに目を瞑るな。目を逸らすのも駄目だ。もっと集中しろ。だってさ」


「はいなの!」


 午後は実際に武器を使っての鍛錬と魔法訓練だ。


 ティナとニィナは短槍と盾を得物に選んだ。故に、アムが槍の指導。盾の指導はドミニーさん。通訳にリヴァだ。


 で、ルーとクーが選んだ武器は…


「この!当たれ!」


「なんで背後からの攻撃が当たらないの?!」


「攻撃がワンパターンだぞ。もっと工夫しろ、頭を使え」


「あと無闇矢鱈に振りすぎや。隙が大きいで」


 短剣二刀流だ。


 短剣の指導が出来るのは俺、メーティス、ステラさんの三人。


 ステラさんはギルドマスターで基本此処に居ないので偶に手伝う程度。


 メーティスはマテリアルボディを使ってデウス・エクス・マキナに入ってる武神のモーションデータを使っての指導だ。


 そして後半は魔法訓練だ。魔法は俺とメーティスとファウの出番となる。


「…わたしの出番がないぃ…」


 と、カウラが嘆いていたが今では応援したり水分補給に飲み物を用意したりとサポート役をしてくれてる。


 俺とアム達もそうだったが、孤児が受けれる訓練としてはとても充実した体制ではないだろうか。


 白薔薇騎士団も手伝ってくれるし、装備はドミニーさんが用意してくれるからな。バックアップも万全だ。


 ルー達は九歳…このまま訓練を続ければ成人して冒険者になる頃にはかなりの実力になってる筈だ。


 アム達のように。


「よっしゃ。今日は此処までにしよかー」


「魔法の基礎訓練は室内でも出来る。暇を見つけてはやっとくといい」


「「「「ありがとうございましたー」」」」


 ルー達は魔法使いと呼べるだけの才能があった。


 ファウのように二属性の魔法は使えないが、ルーは火、クーは水。ティナは土、ニィナは風。


 見事に四人バラバラで魔力量は並の魔法使い程度でしかないが、バランスはとれてる。


 クーは回復魔法も適正がありそうなので理想的と言っていいだろう。


「終わったみたいね。丁度いいタイミングね」


「あ、院長先生」


「お迎えですかぁ」


 ルー達はいっそ俺が引き取るかとも思ったのだが…メーティスに止められた。


 一度でもそういう例を作ってしまうと、自分も自分もと出て来るからと。


 ルー達を鍛えるという話も表向きはアム達の弟子になってる。俺は場所を提供してるだけ、と建前上はなっている。


 そんな訳でルー達は孤児院暮らしで、此処には通いで来ている。


 まだ冬なので日が暮れるのも早い為に、院長先生かジェーン先生、ピオラが迎えに来る事になっていた。


「こんにちは、ジュン君。いえ、こんばんはかしら」


「あれ、司祭様。何か御用ですか」


「ええ。その…まだ確定ではないのだけれど…うちの教会って長く神子様が不在だったでしょう?」


「はぁ。それが何か」


「春になったら神子様が来てくださる事になったのだけど…その時、教皇猊下も一緒に来るって噂が…」


 ナンデヤネン。


 いや、目的はわかるよ。俺がエロース様の使徒か確かめようってんだろ。


 でもエロース教本部がある場所はアインハルト王国から遠く離れてる。片道二、三ヶ月はかかるんじゃないかってくらいには遠い。


 なのにわざわざ教皇が自分から来るのか?往復で半年だぞ。そんなに長期間空けてもいいのか教皇って。


「本部に居る友人が、そんな噂があるって教えてくれたの。あくまで噂だから杞憂に終わる可能性も十分にあるけど…心構えだけはしておいて」


「はぁ…」


 春になったら来るって後二ヶ月か三ヶ月くらいか。その時に一緒に来――あれ?


「あの、司祭様。神子様と一緒に来るって話なら、もう出発してるんじゃ?春に来るんですよね、でもまだ教会本部に教皇猊下は居るんでしょう?」


「…あら。確かにそうね。でも教皇猊下はまだ出発してないようだし…やっぱり単なる噂に過ぎなかったって事かしらね。ごめんなさいね」


 …誤報ならそれでいいんだけど。なんでかなぁ…実現する気がするのは。

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