第233話 鍛える事になりました

「――と、いうわけだ」


「「「……」」」


 やっぱりヘビィなお話…


 この二組の双子は院長先生らの後輩で同じく双子の冒険者に王都から離れた村で育てられていたらしい。


 そこでは孤児院が無く、孤児となった子は近くの街の孤児院に預けられるのが普通だった。


 しかし、後輩冒険者の二人が故郷の村に戻ってからは孤児を引き取るようになり、この四人も引き取って育てていた…のだが。


 ある日突然、二人は帰らぬ人となった。


 そして、院長先生らを頼って此処まで来た…という事らしい。


「ほら、いつまで黙ってる。自己紹介くらいしろ」


「…ティナ」「ニィナ」「…ルー」「クー」


 簡潔だなぁ。名前以外は話すつもりが無いって事なのか。


 年齢は…見た目通りなら十歳前後か。


 ティナとニィナは猫…いや犬人族かな。二人共に柴犬みたいな耳でティナが薄茶色の髪、ニィナが白髪だ。同じ顔だが髪色の御蔭で見分けがつく。


 ルーとクーは人族の子供。こちらは二人共に茶髪だがルーとクーは二卵性双生児なのか顔付きが違う。


 イザベラ達と違い、それぞれ見た目で見分けがつく。


 …今は四人共に暗い表情だが。


「「「……」」」


 そして、そんな四人を哀しそうな眼で見るアム達…昔の自分と重ねているのか。


「なぁ…あんた達。冒険者か?」


「…あ?あたいらか?」


「そうだよぉ」


「若手期待の星」


 顔を上げたルーがそんな質問をする。返答を聞いて、何やら四人でコショコショと話している…相談してるのか?


「ならルーを鍛えてくれ!」


「クーも…鍛えて欲しい…」


「ティナもなの!」


「ニィナも鍛えて欲しいです」


 相談の内容はアム達に鍛えてもらうって内容か…その目的は…やっぱり…


「…なんで鍛えて欲しいんだ?」


「決まってるだろ!」


「強くなりたいん…です」


「強くなって、冒険者になって…そして…」


「お母さん達の敵を討つの!」


 …だよなぁ。


 気持ちは…わからなくもない。同じように親を亡くしてるアム達は尚更だろう。


 冒険者になる事も自由だが…危なっかしいよな。


「…わかった。鍛えてやんよ」


「ほんとか!?」


「あぁ。ただし、ちゃんと言う事聞けよ」


「あぁ!じゃなくて、はい!」


「…はい」


「はいなの!」


「はい」


 敵討ち…という目標が四人を取り敢えずだが立ち直らせたか。


 子供故に無茶しそうで不安だが…そこは俺達で注意するしかないか。


「よろしくな、姉ちゃん達!」


「ティナ達も四人だし、丁度同じなの」


 ……うん?


 あれ、もしかして俺も人数に入ってる?協力するに吝かじゃないが…何か違和感が。


「じゃあ、あたいらも自己紹介しとくか。あたいはアム。Bランク冒険者だ」


「わたしはカウラ。Bランク冒険者だよぉ」


「ファウ。同じくBランク冒険者」


 ……あ、やっぱり俺も?


「…ジュンだ。Cランク冒険者で一応は貴族だ」


「…え?あんた、もしかして男かよ!?」


「え…男の人…?」


「えー?でも村に居た男の人と全然違うの!」


「村の人と違っていい匂いするし…何より美人過ぎると思う」


 ……それは褒めてるんだろうか。やっぱり俺を女だと思ってたようだし。


「冒険者になりたいから鍛えてくれ、か。何故私に頼まない?」


「ギルドマスターだから遠慮したんでしょ。忙しいんじゃないかって」


「私とジーニは引退して長いし…現役のアム達に任せた方がいいわよ。ドミニーは現役だけど…無理よね」


「……」


 ドミニーさんは会話を成立させるのが難しいからな。


 コミュニケーションが取れないと師弟関係は無理だろう。


 でも、そんな不満そうな顔する辺り、納得してないんですね、ドミニーさん。


「(ところで…敵はなんなんです?敵討ちって話なら事故死じゃないんでしょ)」


「(ああ。二人は…リムとラムは魔獣の調査依頼を受けて山に入り…翌日死体で発見された。死体の状況から魔獣にやられたのだろう。調査対象の魔獣かどうかはわからんが)」


 調査依頼…本来居ない筈の魔獣が居るかも知れないから調べてくれって依頼か。


 タイラントバジリスクの時と同じ依頼だな。


 …ところで、尻触るのやめい。


「(あの子達は何処から来たんです?)」


「(王国東部。山に囲まれた平野にある村からだ。かなりの田舎だな)」


 東部ね…そっちは行ってないなぁ。転移でササッと、とは行けないか。


『なんや。もしかしてマスターが敵討ちするつもりかいな』


 …場合によっちゃあな。少なくともベテラン冒険者を殺せるような危険な魔獣が居るって事だし。


 調べておくくらいはしておこうかと。


『ふうん?いつもの俺Tueeeeeの為とちゃうん?』


 流石に今回は二の次、いや三の次かな。最優先は人命で、可能なら四人に敵討ちさせてあげたいと思っとる。


 でも四人を死なせたくはないから、場合によっちゃ俺がやるって話だ。


『了解や。ほな偵察機の出番やな。ちょっと範囲が広大やし偵察機全部出すで』


 情報も少ないしな。頼んだ。


「よし!じゃあ早速鍛えてくれ!」


「今からかよ。長旅で疲れてんじゃねーのか」


「荷物も孤児院に運ばないとぉ」


「まずは休むべし」


「んな悠長な事言ってらんねぇんだ!」


「ティナ達は少しでも早く強くなりたいの!」


「そうじゃないと…」


「敵…とられちゃう…」


 あぁ…これは…何が何でも自分達で倒そうって思ってんな。


 見張ってないと暴走しそうだな…

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