第232話 あのパターンでした
「おはようございます、ジュン様」
「おはよう、フラン」
帝国から帰って来た翌日はもう大晦日。俺は特にやる事も無く…正確には何もさせてもらえなかったのだが。
院長先生や孤児院の子供達、司祭様やシスター達に帝国土産を渡して年末の挨拶をしてる間に年越しを迎える事になった。
そして年始の挨拶も終わって数日。新年からアタックしてくる令嬢達を除けば穏やかな日が続いていた。
「穏やかですか…ジュン様はそうでしょうね」
「うん?フランは何か事件があったのか?」
「事件といいますか…外を見てください」
外…ああ、雪が積もってるな
「王都じゃ雪が降るのは珍しいし、積もる事なんて更に稀だもんな。確かに事件と言えなくもないかも」
「いえ、そうではなくてですね…あちらを」
アレは…カミラ率いる元暗殺者達?
「連中、何やってるんだ?」
「…ワタシが言うより近くに行って見て聞いた方がいいですよ」
…此処から見る限りじゃ学校の全校集会のように見えるが。綺麗に並んでるセリス達の前に元ベテラン暗殺者達が立って…何処から持って来たのか小さな台座の上にカミラが立ってる。
あれは一体何やってんだ?
『フランの言うように見に行った方が早いやろ。わいも気になるし、はよ行こうや」
おう。…なんかカミラが演説でもしてんのかな。
「――よろしい!では次!」
「はっ!自分は昨日、シーツの上手な張り方と干し方を教わりました!物覚えが良いと先輩に褒められました!」
「素晴らしい!そのまま精進し、仲間に伝授せよ!次!」
「はっ!自分は先日フラン隊長に叱られてしまいました!掃除が完全ではなく汚れが落ちてない箇所があった為です!」
「フラン隊長の手を煩わせるとは何事か!貴様はこの後屋敷周りを三周だ!次!」
「はっ!自分は――」
………何アレ?
何か一昔前の新兵の教育みたいな光景だが。
「あの人達、此処に来てから毎朝アレやってるんですよ。どうも反省会と報告会をしてるみたいですけど…凄く目立ちますよね」
「…毎朝?」
「毎朝です」
…あいつら仮にも元暗殺者だよな。まさか暗殺者時代からあんな感じだったのか?
てか、朝も早からなにやっとんじゃい。表の道からは見えないし、隣の屋敷には聞こえないだろうがうちの屋敷の住人には凄く煩そうだ。
「―貴様、以前も同じ失敗をしたろう!弛んでるぞ!屋敷周り、いや王都を一周してこ、きゃん!」
「そういうのはやめんか」
何したかしらんが罰として王都一周とか。ハーフマラソンくらいにはなるんじゃないか?いや、もっと行くか?いやいや、そんな事はどうでもいいんだ。
「ご、御主人様…朝の挨拶が脳天唐竹割りなんて、御無体な」
「やかましいわ。そんな大層な技は出してない。これは一体何の騒ぎだ」
「さ、騒ぎなどではありません…これは私達新人メイドが一分一秒でも早く一人前になる為の勉強会を兼ねた報告会です」
「言葉だけ聞くと凄く真面目で素晴らしい試みに聞こえるが…」
実態は…なんだろ、懲罰委員会?マラソンという罰則がある時点で健全では無さそうな。
「この程度罰になりません。以前なら更に腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワット百回までがワンセットでしたよ」
「お前らの前職軍隊じゃないよね。なんでそんなにスポコン的なの」
罰をむち打ちにしろとか言わないけどさぁ。元暗殺者らしい罰にしろとかも言わないけどさぁ。
なんでそうもズレているのか。
「…兎に角、今後外でやるのは禁止。屋敷内の空き部屋でやれ。此処だと屋敷内に声が聞こえるかもしれないし。あと罰にマラソンとかしなくていいから。あんまり酷いようなら俺に報告が来るし、基本的な対処はメイド長や執事長が決めてくれるから」
「あとワタシをフラン隊長って呼ぶのやめてください。ワタシ、まだまだ下っ端ですから」
「………はい」
そんなにわかりやすくショボンとするな。なんか悪い事した気になっちゃうでしょうが。
……ええい、もう!
「あっ…」
「まぁ、アレだ。やる気があるのは良い事だ。春にはノワール家の騎士団が設立される予定だから、騎士団用の宿舎にも人が入る。そしたら仕事も増えるからお前達にも期待してるからさ」
「はい!頑張ります!……な、なんだ、お前達、その眼は…」
「「「………」」」
代表としてカミラの頭を撫でて褒めただけなんだが…なんかマズい事したか?えらく冷たい眼で見て来るやん。
『そら嫉妬してるだけやろ。それより、話も終わったんなら朝ごはんに食べに行こうや』
嫉妬ねぇ…頭撫でて褒めただけでか。って、前にもあった気がするな。
「あ、ジュン。おはよぉ」
「おは」
「おはよう、カウラ、ファウ」
屋敷内に戻って食堂に向かう途中にカウラとファウが居た。アムが一緒じゃないのは珍しい。
「今日は寒いから起きれないみたい」
「ベッドで丸まってる」
なるほど。屋敷内は暖炉があって外よりは暖かい筈なんだがな、アム達の部屋には無かったか?
「ところで今日は暇?」
「暇なら久しぶりに依頼を受けに行く」
ふむ。冒険者ギルドか…悪くないな。
「いいよ。朝ごはん食べたら行こうか。でも、アムはどうする」
「声はかけるよ」
「起きない時はお留守番」
意外とドライやね、君達…
・
・
・
「ったく、本当にあたいを置いて行こうとするなんてな。薄情過ぎんだろ」
「だってアムが起きるのが遅いんだもん」
「自業自得」
出発ギリギリまで起きなかったアムを置いて冒険者ギルドへ。結局は走って追いついて来たアムと合流して依頼が張り出された掲示板を眺めてる。
「そういやドミニーさんはどうしたよ。声かけなかったのか?」
「朝早くから出掛けて居なかったんだよぉ」
「行先不明」
という事は俺とアム達の四人だけ。久しぶりの少人数での行動…なのだが。
「お、おい…ノワール侯爵様だ…」「いつもの白薔薇騎士団の護衛が居ない…チャンスじゃね?」
「先ずは人気のない場所に連れ出してからアム達を撒いて…」「バカッ、それじゃ誘拐だろ」
物騒な会話がチラホラ。サッサと依頼を受けて離れよう――
「あら?貴女達…」
「ジュン君にアムさん達ね。おはよう」
「院長先生と司祭様じゃんか」
「どうしたんですかぁ。冒険者ギルドに来るなんて、珍しい」
「何か事件?」
冒険者ギルドに院長先生と司祭様が連れ立って来る…という事は、だ。
「マチルダ、ジーニ。こっちだ…っと、ジュン達も一緒か」
やっぱり呼んだのはギルドマスター・ステラさんか。となれば朝早くから出掛けたというドミニーさんも…
「おはよう、ステラ」
「ドミニーはもう来てるのかしら」
「ああ。例の子供達もな。折角だ、ジュン達も来い。遅かれ早かれ顔合わせするだろうからな」
やっぱりドミニーさんも来てるのな。で…子供達ねぇ。これは、あのパターンかな。
ステラさんに案内された部屋に居たのはドミニーさんと四人の子供…双子が二組か?四人共に表情は暗く、空気が若干重い。
「お前達、顔を上げろ。このマチルダが孤児院の院長だ。今後世話になる相手だ、キチンと挨拶しろ」
ああ…やっぱり、そういう事なんですね…
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