第231話 新年も忙しくなりそうでした

~~アニエス~~



「では今年一年は皆よくやってくれた。明日からの新年もよろしく頼む。乾杯!」


「「「「かんぱ~い!」」」」


 年末の締め括り…帝国から帰って来た私達は今度は一年の締めくくりと新年の祝いの準備で大忙しだ。


 大体の事は家臣がやってくれているし、仕事も帝国へ行く前に終わらせておいたのでなんとかなってるが…普通に忙しい。


「今日は来客の予定はないな?」


「はい。しかし伯爵様が戻り次第お会いしたいと仰る方々が多数…」


 執事に確認するとそんな返事が。ま、想像は付くが。


「どうせジュンに紹介して欲しいとか仲を取り持って欲しいとかだろう。適当にあしらっておけ」


 精々が子爵、殆どが男爵以下の連中だろうからな。無視しても問題ない。というより、一々相手にしてられるか。


 陛下も同じ事を仰っていたが、うちにもアレとそう変わらない数の嘆願の手紙が届いてるんだ。お茶会を偶に開いてやるんだから、それで我慢すればいいものを…全く面倒な。


「畏まりました。それと今日もお手紙が」


「手紙…暇なのか、こいつらは」


 言った傍からこれだ。毎度毎度、似たような…いや殆ど同じ内容の手紙ばかり。少しは私の興味を引くような内容に仕上げてみたらどうだ。


 これまで芳しい返事を貰えてないのだから、このままでは何も変わらない事くらいわかるだろうに。


「とは言え各家の御当主直筆のお手紙ばかりですから…御返事はいつも通りにするにしても一度は眼を通して頂かないと」


「わかっている」


 面倒で仕方ないがな…いっそバッサリと切ってしまうか。ジュンを護る会の繋がりだけで大概の事は対処出来る――


「…なんだ、それは」


「厄介事、でございます。恐らくは…」


 執事が差し出した二枚の手紙。わざわざ他のと分けているというだけで厄介な人物からの手紙だとわかる。


 で、誰からだ。


「…母上からか」


「はい…先代様からです」


 何の用だ一体…ここ数年顔も見せずに南の街で隠居生活を送ってるだけの母が今更…金の無心などは無いから放っているが。


「……………」


「伯爵様?先代様はなんと…」


「…噂の男に会いたいと従妹言っているそうだ」


「従妹と申しますと…アンナ様ですか」


 アンナ・イレーヌ・ノール…伯母上の娘で現ノール子爵。王国南部に領地を持ち海に面した領地では港があり漁業が盛ん…王国の海の玄関口の役割を持つ。


 その伯母上が住む屋敷に母はずっと暮らしてるわけだ…王都より海が見える街が良いと言って。


 そして従妹のアンナには娘と息子が居る。カタリナにとってはハトコにあたる…が、今までで数回しか会った事も無いし、親戚という感覚は薄いだろうな。私も薄いし。


 ノール家は総じて領地から余り出ないしな…それはいいんだが。


 アンナまでジュンに会わせろと来たか…どいつもこいつも他人の男に群がって来るんじゃない、全く。


「実はお嬢様にもお手紙が来てまして…こちらはレティシア様から」


「カタリナにもか…」


 何処かでジュンの噂を聞いたのだろうな。それは時間の問題ではあったが…それは良い。しかし、レティシアから手紙とは…


「あいつ、素行不良は改善されたのか?数年前に会った時は貴族令嬢らしからぬ立ち居振る舞いだったが…」


「さぁ…私の耳には入っておりません」


 直ってないだろうなぁ。王都の学院に入って初日で退学になったような奴だし。


 何だったか…本人曰くメンチ切って来たから相手してやった、だったか。


「ただ奇抜な格好をしたレティシア様を見てしまっただけでしょう」


「アレは見るよなぁ…流石に相手の令嬢に同情したぞ」


 あんな目立つ格好して見るなという方が無理がある。なのに相手の鼻を折って退学…しかもブロンシュ侯爵の孫だぞ。宰相の孫の鼻を折って退学で済んだだけで幸運だったと当時は思ったものだ。


 何故か私も頭を下げさせられたからな…よく覚えているぞ。


「もしかしてアンナと一緒にレティシアも来るのか。嫌だぞ、私は。アンナは兎も角、レティシアを屋敷に泊めるなんて」


「そうはいきませんでしょう…親戚筋なのですから。それとも王城に預けますか?」


「…………即日、陛下の御怒りを受ける気がしてならないな」


「そうでございましょう?まだ監視下に置いた方が胃に御優しいかと」


 ええい面倒な。親戚と言えば身内だろうに、身内の方が悩み深いとは。


「それでもう一枚は……バーニャ男爵か」


 ユーグの実家か…我がローエングリーン家の家臣団の一人。


「何故、わざわざ手紙を?私に用事があるなら会いに来ればいいだろうに」


「それがその…その御手紙はバーニャ男爵様が書いた物ではないようです」


「何?しかし、この封蝋は確かにバーニャ男爵の物だろう」


「そうなのですが…もう一人、いらっしゃるでしょう。バーニャ男爵家の封蝋を使って御手紙を出しそうな人物が」


「はぁ?馬鹿を言うな。本来、家紋を施した封蝋は当主しか――」


 いや…居るな。そういう事をしそうな馬鹿が。


「つまりこれはユーグが書いた物か」


「おそらくは…」


 あのバカが。王国貴族の常識すら忘れたか。


 それにしても今更何の用だ…?

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