第223話 涙には弱いのでした
『決まったぁ!ギーメイ選手の勝利!荒くれ者が多い出場選手の中で常に優しく勝つギーメイ選手!裏を返せば本気を出していないとなるのですが!メフィトルデ選手、泣いていいんですよ!』
感じ悪い!折角完璧な俺Tueeeee勝利だったのに!水を差すな、水を!
「ハァハァ…ノワール侯爵の胸で泣いて良いですか…ハァハァ」
「本名出すな。ハァハァすんな」
決勝トーナメント三回戦までは終わり。此処までは順調に消化されていった。
四回戦目を勝ち抜けはベスト8。五回戦目を勝ち抜けば各ブロックを勝ち抜いたベスト4が決まる。
六回戦目が準決勝、七回戦目が決勝戦となる。
「おかえり。ジュンも危なげなく三回戦突破ね」
「ま、わいらに勝てる奴はこれまで見た限りはおらんしな。決勝はわいらでやる事になるやろ」
勿論、アイもメーティスもジェノバ様も勝ち進んでいる。
試合の全てを見れてはいないが、確かに他に相手になりそうな強者は居なかった。
一般的に考えれば決勝トーナメントに出てる選手は皆、並の騎士以上の腕前らしいが。
『――ダニエラ選手の勝利です!接戦を何とかモノにしました!さぁ、これで三回戦は全て消化!四回戦は一時間後に開始予定です!』
…昼休憩か。
昨日食べたマンガ肉を買いに行きたいが…ピオラがまた来そうだしなぁ。
大人しく戻るか。
「あの…侯爵様」
「あたしらも御一緒しても…?」
……良いんだろうか。
平民だからどうのこうのと言うつもりは無いが、今日雇うと決めた人を関係者として連れて行っても……大丈夫か?
「良いんじゃない?遅かれ早かれだし」
「何か言われたら臨時で雇った事にすれば?実際、キナ臭い事になりそうやし。護衛に雇った事にすれば」
護衛…必要だろうか。既に十二分…リヴァとハティだけで殆どの奴は撃退出来るだろうし、セリス達も陰ながら守ってる。
はっきり言って過剰戦力だ。全戦力で当たれば街の一つくらい簡単に落とせそう。
「…ま、いいか。行きましょう」
「はいぃ!」
「やったやった!」
そんなに喜ばれてもな…同じ部屋で食事するだけだぞ。
それ以上の事はなんにも無いと思うが。
「お帰りなさいませ、ノワール侯爵様!お見事な戦いぶり、見惚れてしまいましたわ!」
部屋に入って一番に出迎えたのは何故かマルグリット嬢。
何故、此処に居る?
「おい、マルグリット。何故、婚約者の私達を差し置いてお前が一番にジュンを出迎える」
「い、良いでしょう、それくらい…私が扉に一番近くに居たのだもの」
「アイシャ殿下とジェノバ様も御一緒ですのよ。ジュン様だけを労う言葉なのも拙いですわよ」
「う…」
「あの…わいもおるんやけど?」
アイとジェノバ様は気にしてなさそうだから俺は何も言わないけど、他の人は知らないぞ。
例えばそこの二人とか。
「流石ね、ノワール侯爵。私は武に関しては詳しくないけれど貴方が強いのはわかったわ」
「素晴らしい試合でした、ノワール侯」
グリージャ侯爵にイエローレイダー団長まで…グリージャ侯爵はまだしもイエローレイダー団長は此処に来て大丈夫なんですか?
レーンベルク団長も居るから平気?いや余計にダメなんじゃないっスか?
「ところで、ジュン。後ろの四人は?」
「拉致られた選手だよな。ホンモノっぽいし」
クリスチーナとアムの声に小首を傾げるのはマルグリット嬢とグリージャ侯爵の二人。
イエローレイダー団長はソフィアさんから聞いているんだろう。顔に疑問符は浮かんでいなかった。
「王国に帰ったら騎士として雇う事にしたよ」
「ああ…スカウトしたのですね」
「騎士が足りないなら私からも紹介するわよ」
それは必要無いです。身内からの紹介だけで後は十分。
「ほらぁ。やっぱり私の思った通り!ジュンなら被害者の女の子を連れて来ると思った!ね、ママの言った通りでしょ、ユウ」
「私も予想してたもん」
ユウはともかくジェーン先生に予想されてただと?バカな…何か良からぬ事が起きる気がする…
「ジュン、何か失礼な事考えてなーい?」
「ジェーン先生が俺の行動を予想出来るなんて、天変地異の前触れかと…いひゃいいひゃい」
「息子の事ぐらいわかりますー!もう!」
ああ、本気で母親役のつもりなのか…良いけどね。
「ねーねー早く御飯食べよーよ。あーし、お腹すいたんだけど」
「わふっ!」
招待客の俺達には部屋まで食事が運ばれて来る。
それは使用人達の待機部屋も同じで、既に食事が運び込まれていた。
当然、この部屋から観戦も出来る。
…そう言えばセシル達は昼食はどうするんだろう。
「……セシル」
「はっ」
「うわぁ!お、驚かせるな!」
「な、なん…?なんですの、この方は…」
呼べば出て来るかと思ったが本当に出て来るとは。
王国の人間を護れと命令したんだから、近くに居るとは思ったが。
暗殺者から忍にジョブチェンジしたかのような。
「何か進展はあったか」
「いえ、カミラは未だ捕捉出来ていません。魔法玉はほぼ回収されている事は確認しました」
「そうか、わかった。ところでお前達は食事はどうした」
「は?…朝に携帯食料を食べたきりですが…?」
「全員同じか?」
「はい」
それが毎日の事だとしたら…身体に悪そ。素顔のセシルは痩せてるように見えるし。
「なら…使え」
「…金貨?御主人様、これで何をしろと?」
「いや話の流れでわかるだろ。全員で何か美味い物食べて来い。護衛も捜索も一時中断していいから」
「…は?…え?」
「本当はお前達も此処で食べれたらいいんだけどな。約七十人も追加で入る事も食事を用意してもらう事も出来ないから。悪いけど、外で食べて来てくれ。あ、屋台で売ってるタイラントディアーの骨付き肉なんかオススメだぞ、マジで」
「……」
「って、なんで泣く?!どうした一体?!」
女の子に骨付き肉はオススメしちゃダメだったか!?それとも金貨を量に不満が?!二十枚もあれば全員が高級店でたらふく食えると思うんだが!
あと何枚追加すれば涙は止まりますか!?土下座もした方がいいですかね!
「……かい」
「な、何だ?はっきり言ってみな」
「…あたたかい料理を…食べて良いのですか?」
「お、おう?当たり前だろ。そのお金は返さなくていいから仲間全員で好きなだけ食べて来い。多少遅くなっても何も言わないから。ほら更に追加してやる。これで高級店だって貸し切りに出来るんじゃないか」
「…あり、ありがとうございます…」
…あたたかい料理が食べれるってだけでこの喜びよう…今までどんな生活を送って来たんだ…
「…ほら、もう泣くな。このハンカチもやるから…早く美味しい物、食べて来い」
「…はい!」
わぁ、一転して良い笑顔。喜んでくれたなら何よりだけどさ。お仲間全員同じ反応しないだろうな。
約七十人が泣きながら嬉しそうに食事…事情を知らない人からすれば何事かと思うだろうな。
「…なるほど。やはり御義母様の言う事は正しかったようね」
「う、うん…王国に帰ったら作戦を考えないと」
「ティータは簡単じゃない。直ぐに涙出せるでしょ?」
「だ、出せないよ…」
なんか、グリージャ侯爵とイエローレイダー団長が悪巧みしてる?
何を考えてるか知らないけど、せめて年明けまでは大人しくしてくださいね。
とまぁ、ただの昼食が騒がしくなり。
昼休憩の一時間はあっと言う間に終わり。四回戦第一試合が始まろうとしていた。
『さぁ、四回戦第一試合を開始――何?…わかった。申し訳ありません!急遽私が対応せねばならない仕事が舞い込みました!此処から先の進行は部下に任せたいと思います!』
…何かあったな?
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