第224話 事件でした

「…何かあったっぽいね」


「だな」


「…自分は皇帝陛下の下へ行きます」


 何があったのか…流れから考えると『死眼』のカミラが何かしたか。


 しかしエスカロンが居る貴賓席には何かあったような様子は無い。


 偵察機で見張ってるメーティスが何も言わないって事は貴賓席にも身内にも異常は無い。


 周辺も見渡す限り異常は…いや、帝国の騎士が慌ててるようだ。


 近衛騎士達は何処に向かって移動してる。


 闘技場とは別の場所で何かあったか。それがカミラとは別口だとしたら…どうするか。


 カミラを警戒して此処に残るか。事件が起きた場所に向かうか。


 後者の場合は試合は棄権になるから、出来れば避けたいが……どうするか決める前に事態の把握が先だな。


 セリス達はまだ食事中かね。


「御主人様」


「ああ、来てくれたか。何があった?」


「カミラが動きました。カミラは予備として取っておいた魔法玉を使い帝城の城壁を一部破壊。混乱に乗じて潜入、エジェオ、コンチェッタ、ドロテア、三名の皇族を誘拐して姿を消したそうです」


「誘拐…子供をか」


 チッ…子供が狙われる可能性は十分にあった。思い至らなかったのは不覚だな。


「更に皇族のミネルヴァが誘拐現場に居たらしく、犯人を追い掛けたまま、行方不明だそうです」


 …あのやる気無し皇女も家族の危機となれば動くか。返り討ちにあったか、捕まったみたいだが。


「それとカミラが連れ去った指示者三人の内二人が死体で発見されました。誘拐事は残る一人の姿で行われたようですので、恐らくは…」


 指示者とやらは三人共に殺されたか。或いは一人は罪を被せる為に生かしたまま何処かに放置…もしくは殺して何らかの証拠と共に何処かに置いてる…て、ところか。


「…なんで帝国の皇族を誘拐すんの?」


「帝国にエスカロンを始末させる気なんだろ。俺を誘拐するより楽だったろうしな。それでカミラの居場所は把握出来てるか?」


「申し訳ありません。捜索中です」


「いや、良い」


 問題無い。カミラを探すのは難しいがエジェオ殿下らは簡単だ。


 デウス・エクス・マキナにデータ登録してあるからな。


「というわけで、メーティス」


「了解や」


「…?」


 俺にだけ見えるマップを表示。点滅する場所にエジェオ殿下らが居る。


 ミネルヴァ様も含め四人一緒みたいだな。好都合だ。


「じゃ、行って来る。俺の試合迄に戻って来なかったら不戦敗にしてくれて良い。そう伝えてくれ」


「わいがなるべく試合を長引かせるから、はよ行ってき」


「あ、ウチも行く!」


「いや、アイは残ってくれ。セリス達が居るから大丈夫だ。じゃ」


 飛行魔法でひとっ飛び…はダメか。人目に付かない場所で空間転移だな。


「セリス、先に行け。場所は帝都北側の外れにある墓地だ。カミラはそこに居る」


「ど、どうやって…いえ、わかりました」


 俺が先に着くんだけどな。七歳や四歳の子供が誘拐されたんだ…今頃怖くて泣いてるに違いない。


 早く助けてやらないと。


 墓地には立ち入って無いが墓地の近くまでは空間転移出来る。


 観光してあちこち行った甲斐があったな。


 さぁ…行くか。


「……意外な奴が来たな」


「期待に添えなかったようで、悪いな」


 帝国の墓地は…日本のような墓石では無く洋風だ。


 手入れされた芝生の…墓が無ければ長閑と言って良い場所。


 遮る物も無い、見晴らしの良い場所。その奥に一際大きい、石碑か何か。


 その前に、カミラは居た。殿下達も一緒だ。気を失っているようだが。


「…殿下らに何をした」


「魔法で眠らせただけさ。眠っていれば恐怖は感じないから。怪我一つさせていないから安心して良い」


 …こいつの真意がわからないな。何がしたい?


 人質を使い、帝国にエスカロンを抹殺させるなら、こんなところで目立つように人質全員と一緒に居ちゃダメだろ。


 予想外に早く見つかったのは確かだろうが、慌てる様子も無い。


 想像は…出来なくもないが。


「…お前の目的は何だ?何がしたい?」


「その質問に答える前に、私の質問に答えて欲しい。お前は何者だ。帝国に属する者か」


 …ギーメイの正体を知らないままなのか。素直に答える必要は無いが…答えないとアイツも答えなさそうだな。


「…男か」


「ジュン・レイ・ノワール。一応はアインハルト王国の侯爵だ。宜しく『死眼』のカミラ」


「エスカロンのお気に入りか…」


 仮面を外し、フードも外す。


 …場違いな考えなのは承知だが、俺の素顔を見て騒がない女って新鮮だなぁ。内心はわかんないけどさ。


 流石は最強暗殺者四大の一人と言えばいいのか。


「で、お前の目的は?エスカロンの暗殺じゃないよな」


「…いいや、エスカロンを殺す事が目的さ。それ以外に何がある」


「それにしてはやり方に問題があると思うがね。それに回りくどい。お前の実力ならエスカロンを直接襲った方が早いだろ」


「それだと私も死ぬだろう?」


「どうかな。準備が出来てればなんとかなるんじゃないか?」


「…買い被りさ。貴方なら出来そうだがな、ノワール侯爵」


 可能か不可能かで言えば可能ですけど?やりたくはないがね。


「…そろそろ始めようか、ノワール侯爵」


「まだ俺の質問に答えてもらってないが?」


「答えたろう?エスカロンを殺す事、それが全て。答えは変わらないさ。だから始めよう、ノワール侯爵」


「…そうかい」


 ドライデンの暗殺者の中で最強暗殺者、四大の一人。『死眼』のカミラ…どれほどの腕か、見せてもらおうじゃないか。

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