第219話 雇う事にしました
暗殺者、完堕ち。後は情報を引き出すだけだ。
「では先ず…お前の名前は」
「…セリス」
「ホンモノのリヒャルダはどうした」
「捕えてる…まだ生きてる筈…」
…生きてるのか。
俺とは何の関わりもない人物だが…朗報と言っていいだろう。
「何の為に入れ替わった」
「…この姿で任務を遂行する…そしてホンモノを逃走中に解放すれば…」
…罪の身代わりと囮にするつもりか。中々に外道な事を…
「任務の内容は」
「…エスカロンの暗殺」
「やはりお前達はアルカ派の残党か」
「…そう」
確定、か。ユウの頭脳は凄いなぁ。いくらギフトがあるからと言っても、あんな少ない情報でよくもまぁ…
「他に何人、入れ替わってる」
「三人…」
「グレーテがその一人だな。後の二人は誰に入れ替わってる」
「エーファ…メフィトルデ…」
…知らんな。入れ替わってる人物に関してはジェノバ様に報告して貰うとして。
「次だ。これは何だ。闘技場、帝都のあちこちに置いてあったが」
「…それも知られてるなんて…」
「これもお前達の仕業で間違いないようだな。答えろ。これは何だ」
「…それは周囲から魔力を集め、蓄える。蓄えた魔力を使って仕込んだ魔法を発動する…使い捨ての魔法道具…」
「発動は時限式か?」
「時限式…?よくわからない…でもそれには対になる魔法道具があって、それを使えば起動する…」
…時限式じゃなく
今、この瞬間にも起動するかもしれないって事な。
…しまっとこ。
「発動される魔法とはなんだ」
「…闇属性魔法グラビティプレス…」
「…また、とんでもない魔法を…」
込められた魔力の量によって威力と効果範囲が大きく変わる闇魔法の最上級魔法。
効果範囲内の重力が増す…最低でも五倍、最高で二十倍くらいか。
闘技場だってペシャンコになるし、人間なら…赤い花を咲かせる事になるだろう。
「しかし、それだとお前達も巻き込まれる可能性があるんじゃないか?入れ替わって、逃げ切る為にホンモノは生かしてあるし、逃走の用意もしてあるんだろ?」
「…死んでも問題無い。我々は使い捨ての駒…その魔法道具と同じ」
「そんな筈は無いだろう。お前は察するにドライデンの四大と呼ばれる暗殺者の一人、糸使いの『死糸』だろう。それほどの使い手を捨て駒にするなど、ありえん」
「死糸…?」
「知っているのかアニエス」
「え?あ、はい…」
何か凄そうな名前が出てきたな。四大とか死糸とか。
あと、そういうネタは俺かユウにしか通じないから。他の人にはやめときなさい、アイ。
「ええと…四大と言うのはドライデンの裏組織が抱える暗殺者達の中でも最強の四人の事だ。糸使いの『死糸』。他人を操る精神魔法の使い手『死操』。水を操り武器にする『死水』。邪眼を持つ呪われた者『死眼』。どいつもこいつも厄介極まりない存在だと、ブルーリンク辺境伯から聞いているぞ」
…なんか、中二心を擽ってくるなぁ。俺も二つ名が欲しくなっちゃう。
「…で、どうなんだ。お前は『死糸』で間違いないのか」
「…違う。『死糸』は私の師。もう死んでる」
「死んだ?他の四大は」
「死んだ。内戦で」
「じゃあ、もしかして入れ替わってる他の三人は」
「四大の弟子」
「…もしかして、お前はまだ誰も殺した事が無いのか」
「…無い。私も、他の三人も今回が初仕事」
やっぱりか。通りでなぁ…こいつからは城でも試合でも、まるで殺気を感じなかった。
城に侵入出来る辺り、そういった技術は確かだが戦闘技術はまだまだなんだろう。
「…次の質問だ。リヒャルダに化けてるのはどうやってる。魔法道具か」
「…そう。対象の顔の皮膚を使って化ける魔法道具…ヒッ」
「顔の皮膚…だと?」
…剥いだのか、顔を。女の顔に、傷を入れて。
「…生きている、と言ったよな」
「…い、生きてる…剥いだのはほんの少し…すぐに治る程度…」
…全部剥ぐ必要は無いのか。…もし傷跡が残ってたら、俺が消してあげよ。
「…次だ。帝都に…いや帝国に侵入してるお前達の仲間は何人だ。何処に隠れてる」
「…帝都に侵入してるのは私含め暗殺者が七十人。指示者が三人。後は国境付近の村に主と主の部下、護衛に残った十人の暗殺者だけ…隠れ家は無い。転々と場所を変えてる」
…七十人と三人か。多いのか少ないのか…真っ向からぶつかれば直ぐ様殲滅されそうな人数だが、潜入して暗殺を目的とする集団にしては多いのか。
「指示者というのは?」
「…主の部下。私達に指示を出すだけで、他には何もしない奴ら」
…うん?不満そうだな。暗殺者の弟子で自分の事を使い捨ての駒とか言い切る辺り、幼い頃から訓練され主には逆らわないように洗脳でもされてるのかと思ったが。
いや…拷問…じゃなくて!孤児院式お仕置き術の効果があるとはいえ素直に喋ってるし…もしかしなくても主に不満があるのか。
「…お前以外の暗殺者はお前と同じ新人だったりするか?」
「…ほぼ新人。ベテランは五人だけ。後は主の護衛の十人」
「その主の名は?」
「ジビラ。都市キールの代表…だった」
ジビラ…キール…知らんなぁ。
アニエスさんは知ってます?あ、知ってる?ソフィアさんも知ってる?確かにそんな人物が居た?
なら、そのジビラをなんとかすれば良い…んだろうけど、国境付近に居るなら今直ぐには無理か。
なら帝都に居る暗殺者達をなんとかする…しかないわけだが。
「次の質問だ。お前、ジビラに忠誠を誓ってるのか?」
「…誓ってない。あんな奴、大嫌い。でも仲間が居るから…」
「仲間?他の暗殺者仲間か」
「そう。同じ境遇の、同じ環境で生きて来た仲間…」
「お前は望んで暗殺者になったわけじゃない、そういう事か」
「そう。他の皆も同じ…」
…ふうん。新人で初仕事という事はつまり…まだ罪は犯してないって事、だよな。
なら…
「じゃあ…セリス。お前、俺の部下にならないか」
「……へ?」
「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」
そんな驚く事かなぁ。ノワール家には潜入技術とか持った人材いないし、丁度良いと思うんだが。
暗殺をさせるつもりは無いし、他所の間者とか暗殺者とか防いでくれそうだし。
有り寄りの有りだと思うんだが。
「そ、それはそうかもしれんが…」
「大胆な事考えるなぁ。帝国には何て言うつもりなん?」
「そ、そうだぞ、ジュン。そいつはジュンが捕まえたのは確かだが、罪人となれば引き渡しを要求されると思うが…」
「帝都に危険物を仕掛けてるだけで十分な犯罪になりますわ。匿っては大問題になりかねませんわよ」
「ふむ…ならこうしよう。暗殺者達は説得する!で、俺の部下になる気が無い奴だけ帝国に引き渡す!んでそいつらに全ての罪を背負ってもらう!コレで万事解決!」
「「「「「「「「イヤイヤイヤ!!」」」」」」」」
あれ?ダメ?いい案だと思うんだがなぁ。
望まず暗殺者をやらされてる子も救える、優しい世界だぞ?
「セリスはどう思う。お前の仲間達は俺の部下になると思うか」
「…なる、と思う。エスカロンなんてどうでもいい。皆、生き残りたい。生きる場所が欲しいだけ」
「よろしい。俺の部下になるなら安全に暮らせる場所を用意してやる。そうだなぁ…普段はメイドとして働いてもらって、有事の際には非戦闘員を守ったり侵入者を排除したりしてもらうが、暗殺は頼まない。約束する。それでどうだ。あ、ちゃんと給料は出すぞ」
「…わかった。それでいい」
よしよし。俺Tueeeeeの機会が減ってしまうが…仕方ないだろう。
暗殺者とはいえ新人…まだ罪を犯してないなら捕まえて死刑囚にするのも犯罪奴隷にするのも忍びない。
これがベストだろう。
「あの…ジュン様。ワタシ、暗殺者と一緒に仕事するのは…」
「元暗殺者な。大丈夫!ちゃんとメイドとして鍛えてもらうから!」
「…鍛えるって誰がですか?ワタシ以外の人ですよね。メイド長とかですよね」
「じゃ、セリスは仲間を説得して来い。確実に説得出来る奴だけにしとけよ」
「わかった。殆ど説得出来ると思う」
「ジュン様?何故眼を逸らすのですか」
さ、そろそろ三回戦が始まる頃かなぁ。戻らないといかんなぁ。
「ちょっと!ジュン様?新手のメイドイビリですか!?無視しないでくださいー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます