第195話 眼が合いました

「………」


『………』


 …それで?言い訳があるなら聞こうか。


『いや言い訳っちゅうか…別にわては悪い事してへんねんで?事情を説明させてぇや』


 帝都を観光してる途中、マテリアルボディで歩いているメーティスと合流。俺の中に戻ったメーティスに何があったのか報告を受けている最中だ。


『先ず言っておきたいんわやな。わてはほんまに悪い事はしてへんねんで?ただパワードスーツで歩いてただけや。それやのに衛兵やら騎士やらが騒ぎたててやな。捕まって素性を調べられるわけにもいかんから逃げたんや。それだけやで?いやほんまに』


 …聞いた話じゃかなり派手に逃げたようだが?


『それはしゃあないやん!しつこく追って来るから逃げてる間に追手が増えて増えて…魔法で目眩ましでもして隙をつくらな無理やってんもん!』


 …なんでだよ。空間転移とかで逃げたらよかったろうが。


『空間転移で逃げたがな!でも逃げるにしても誰も見てないとこで逃げる必要があるやん?飛んで逃げるわけにはいかんしやな。細心の注意を払って逃げたんやって!』


 飛んで逃げたら飛行魔法の使い手と認識されるからな。最悪俺がブラックとして闘技大会に出る予定だったって事を考えると飛行魔法が使えると思われるのは避けたい、それは確かだが……もうちょいなんとかならんかったのか?


『ならんかったんや…わてかて騒ぎを最小限に抑えようとしたんや。でも警邏してる衛兵や騎士の数がやたら多いねんもん。怪我させる訳にも行かんし、ほんま大変やってんて』


 …まぁ、ジェノバ様やカサンドラ様から聞いた話の通りではあるな。怪我人は無し。街に被害も無し。特に犯罪を犯したわけではないが身体能力が高く、兎に角怪しい人物だったと報告を受けたらしい。


 今はアインハルト王国を始め他国からの来賓が大勢来ている。故に帝都の警備は厳重で敏感になっている。そんな帝都に現れた怪しい人物ブラック。捕まえようと動くのはわからないでもない。


 しかし、これで完全にブラックで出場の道は断たれたな。


『えー…一応は参加受付は終った後やってんけどな』


 仕方ないだろう。例え不審者として手配されてなくとも、だ。ピオラが復讐に燃えてるからな。姿を見せない方がいい。


『復讐て…ブラックに?なんでや?』


 アレじゃねえの?散髪した時にピオラから俺の髪の毛を奪った事を根に持ってるんだろ。


『ああ~…え、アレを未だに恨んでんの?怖っ』


 ピオラだからな…ヤンデレが加速してるのは確かだ。


「ジュン様~大丈夫ですの?」


「ジュンーあまり一人になるんじゃないー!」


「あ、ああ、大丈夫!もう出るから!」


 落ち着いてメーティスと話す為に近場の店のトイレを借りたのだが。そんなに長くこもってないんだから呼びに来なくても。


「そうも行かないのはわかるだろう。この状況を見れば」


「女装しててもジュン様の魅力は隠せませんのね」


 観光に出る前に俺はクリスチーナが用意してくれていた金髪のカツラを被りロングコートで体型を隠しているのだが、それでも注目を集めていた。


 王都の時みたいに行列が出来るほどじゃないが、俺が男だとバレてるのか?


『ああ~…これはアレやな。わてがおらんかったからフェロモンの調整が出来てないんやわ。垂れ流しになっとるフェロモンにあてられて集まっとるんやろ』


 ……そう言えばそんな設定あったな。通りで此処数日の間、皆やけにベタベタしてくると思った。


 それなら早くフェロモンを抑えてくれ。


『はいはい。これで大丈夫や』


 と、いうわけで皆と合流して観光再開…したものの。


 一度フェロモンにあてられて集まった人は中々散らない。集まってる人達を見て何事かと人が集まる。人が人を呼んでいる状態だ。


「これでは落ち着いて観光出来ませんわね。ジェノバ様、カサンドラ様。御二人の権力で追い払えませんの?」


「バカ言え。お前じゃあるまいし、皇女様方がそんな事するか。大体、呼ばれてもいないのに付いて来てるのはお前も同じだろうが」


「な、なんですって!?」


「マルグリットさん、落ち着いてください。カタリナも、御止めなさいな。此処は帝国ですのよ。此処で騒ぎを起こしては王国貴族の恥となりましてよ」


「「…フン!」」


 なんかイーナが少し大人に見えるな…一応は引き下がったもののカタリナとマルグリット嬢は不満そうな顔を隠してないし。


「しかし、確かにこうも注目されては落ち着かないな。見られてるのはジュンのようだが」


「そうですね。…御金をやるから散れって言えば散るかな」


「ウチには余計に集まって来る結果しか見えないわね。止めておきなさい、グリージィ侯爵」


 この人は…本当に何でも御金で解決しようとするなぁ。実質タダで御金を配ってるだけだから、釣られて群がって来る未来しか見えん。


「そんな方法よりも一般人が入れないような場所に行くのが確実じゃないか?」


「流石ノワール侯爵様!実にスマートなやり方ですね!」


「それなら丁度いい場所があります。そちらに向かいましょう」


 そう言って案内された場所は……もしかしなくてもコロシアム?闘技大会の開催場所か。


「此処の貴賓席なら他の者は入れません。飲み物等を運ばせますので、少し休憩しましょう」


 闘技大会の前に見学しておきたいとは思ってたから丁度いいな。しっかし…外観は前世で歴史書やネット画像なんかで見たコロシアムに本当にそっくりだな。


「ん?アレは…おい、皆、ジュンをあの一団から死角になるように隠せ」


「アレは…ナヴィ」


「間違いないっスね。ドライデン連合王国の紋章っスよ。連合商国時代の紋章とよく似てるっス」


 内戦が終わったばかりだってのに本当に帝国まで来たのか。となると…あのひと際豪華な装飾の馬車にエスカロンが乗って…あ?


「……」


 窓から見えた人物と眼があったような…もしかしなくてもアレがドライデンの国王エスカロンか。


 白髪に白い肌、黄色の瞳。一瞬目が合ったが悪意は感じなかったが、口は三日月形に笑っていた。


 何事もしてくれるなよ…せめて闘技大会が終わるまでは。

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