第194話 手配されてました
「此処が帝都かぁ…流石にこれまでの街よりは賑やかで大きな街ね」
「歴史で言えば王都ノイスよりも古い街で歴史的建造物も多くある街、それが帝都ハイルブロンなのですわ」
「それって古いだけが自慢って事?」
「……それ帝国の人の前で言ってはダメですわよ、リヴァさん」
王国から出発して約二週間。帝都ハイルブロンに到着。
途中の街では俺は出歩く事は控えていたが帝都は観光する予定だ。メーティスとも合流せにゃならんしな。
「闘技大会までは自由にしてていいのよね?皆への御土産買わなきゃね。院長先生は何がいいかしらね」
「お菓子とか日持ちする食べ物でいいんじゃない?」
「私は商売のヒントになる物を探したいし、市場へ行きたいね」
「あたいらは…なんだよ、ドミニーさん」
「……」
「鉱物とか売ってる店を探すから付き合えって言ってるわよ」
「なんでわたし達が?」
「いいけど」
「あっ、お城に着いたよ」
案内役のカサンドラ様とジェノバ様を先頭に門をくぐり城内に入って行く王国一行。
馬車を降り、城内を進み謁見の間へ…行くのが本来の形なんだろうがアインハルト王国は戦勝国。
謁見の間でふんぞり返って上から見下ろすように出迎えるのは拙いと思ったのかデリケートな問題でもあるのか。
皇帝自らが俺達を出迎えに来ていた。
「ようこそ、アリーゼ陛下。そしてアインハルト王国の皆様。歓迎しますよ」
「うむ。よろしく頼むぞ、サーラ皇帝陛下」
あの人のがカサンドラ様とジェノバ様の姉、現ツヴァイドルフ帝国皇帝サーラ・テルニ・ツヴァイドルフ。
茶髪で背丈は160前後。年齢は二十歳と聞いてる。御多分に漏れずサーラ皇帝も美人さんなんだが何処か地味な印象を受ける。地味系美人さんだな。
てか、この人…帝国宰相が送って来たハッスルタイムの写真の人じゃね?顔はわからなかったが髪の色が同じだし、多分そうだな。
え?帝国宰相って皇帝のハッスルタイムを写真に収めて送って来たの?皇帝じゃなきゃいいって話でもないけど大丈夫なんそれ。
「それでは長旅でお疲れでしょう。御部屋を用意しましたので先ずはごゆっくりお休みください」
「あ、あの、その前に。皇帝陛下、一つ御伺いしてもよろしいでしょうか」
「貴方は…ノワール侯爵ですね。闘技大会の推薦枠の事でしょうか」
「ん?推薦枠だと?」
あれ?なんで俺睨まれてんの…って、あ。闘技大会に参加するつもりだって事、言ってなかったな。
言ったら止められるから言ってないままだったわ。
…そんな刺すような眼で見なくてもいいですやん。へっへっへ…肩でも揉みましょうか?
「え~ジュンってば闘技大会に参加するの?ウチも参加した~い!」
「アイ、お前もか。……ハァ~。好きにしろ。だが、その結果面倒事が起こっても自分でなんとかするように。ノワール侯爵。お前もだぞ」
「やったぁ!ママ、ありがと!」
おっと、あっさり。
女王陛下のお許しも出たなら何も問題は―――
「とか考えてるんだろうが、そうはいかん」
「どういうつもりなのかしら、ジュン君?」
おっと…こっちはそうでもなかった。二人にもまだ話してなかったか?でもイーナやアム達から聞いてるものとばかり。
二人共、そんな怒らなくても。いいじゃないですか、ルールのある闘技大会に参加なんだから魔獣と戦うよりは安全ですって。あ、ダメ?
「…はぁ。まぁ予想してなかったわけではないが」
「受付締切には間に合わないから安心していたのに…まさか推薦枠を狙ってたなんて…」
あ、知ってて黙ってたんですね?それはそれでひどいんじゃない?
「あの…まだノワール侯爵を推薦枠に入れると決まったわけではないのですが。アイシャ殿下もですよ」
「「えー…」」
決まってないんかい。なんだろう、ジェノバ様みたいに交換条件が出されるのかな。
「姉さん、いいじゃんか。ノワール侯爵様の頼みだし」
「自分からも御願いします、姉さん。妹の顔を立てると思って」
「カサンドラ、ジェノバ…二人共、先ずは御苦労様。後で話があるから。逃げないようにね」
「「うっ…」」
…こうして並んでると似てない姉妹だなぁ。三人共髪の色もバラバラだし。
でも仲は良さそうに見える。
「…コホン。ノワール侯爵、貴方が闘技大会に参加を希望している事は聞きました。ですが男性であり他国の貴族である貴方が闘技大会に出る事は色々な懸念があるのです。御分りになりますか」
「…変装したり身分を隠したりする必要があるって事ですか」
「御明察です」
男が出場して怪我でもしたら推薦した皇帝に避難が集中するって事かな。自己責任だろうに、おかしな話だと思うが。
「闘技大会がアインハルト王国主催でアリーゼ陛下の推薦、であれば問題は無かったでしょう。ですが帝国の闘技大会で私が推薦すると問題…問題視する連中が多くいるのです。理解していただけますか」
あー…うん。ジーク殿下を巡って戦争になったのに、今度は王国の男性侯爵を狙ってるのかとか言われるって事な。
「ですので。ノワール侯爵の参加には幾つか条件を付けさせていただきます。まず男性であることと身分を隠してもらいます。可能な限り男だとバレないようにもしてもらいます。次に怪我をしても自己責任で。例え命を落としたとしても私、ひいては帝国に一切の責任を問わない事を書面にて残してもらいます。これは闘技大会全出場者に求める事でもありますが」
まぁ…問題ないな。怪我するつもりも死ぬつもりもないが、闘技大会に出るなら当然の要求だし正体を隠すのは予定通りだし。
「最後に。ノワール侯爵を推薦する代わりに…私とお茶会をしていただきます」
「…お茶会ですか?」
「ええ。参加者は私と妹達。ノワール侯爵の婚約者であるアイシャ殿下も御一緒でかまいません。他にもいらっしゃるならその方もどうぞ御一緒に」
…ふむ?それはどういう要求だろうか。俺の事を知りたい、お互いを知りたいって事か?
「…わかりました。俺…私はそれで構いません」
「ウチもいいよ。で、ウチも推薦枠ってのくれるの?」
「宰相の推薦枠が空いてますからアイシャ殿下も参加出来るでしょう。アイシャ殿下は身分は隠さなくても良いですが、怪我をしても死んでも自己責任なのは同じですよ」
「うん、それでだいじょーぶ!」
と、いうわけで。サーラ皇帝にも存外にあっさりと推薦枠に入れてもらう事が認められた。
もっと色々と要求されると思ってただけに拍子抜けだ。
予備策としてメーティスにブラックで参加受付をしてもらっていたのだが、そっちは無駄になってしまったな。
「じゃ、早速観光に行こ―!全部ジュンの奢りね!」
「…いいけど」
「なんか、ごめんね、お兄ちゃん」
案内された部屋で暫し休憩した後、まだ明るい時間だったので観光に行く事に。
面子はノワール侯爵家御一行…だけでなく。
アイは勿論、アニエスさんとカタリナ、レッドフィールド家の三つ子。白薔薇騎士団からナヴィさんとハエッタさん、他4名。
という俺を護る会のメンバー…だけでなく。
マルグリット嬢とグリージィ侯爵までもが付いて来た。
ソフィアさんとクライネさん、それにイエローレイダー団長は陛下が残るのでお留守番となった。
「…何故、お前まで一緒に居る」
「うっ…こんなに大勢で出かけるのですから私だって御一緒しても良いでしょう?」
「同じ王国から来た仲間じゃない。なんなら私が全部御金出してもいいからさ」
ま、いいけどね。一緒に観光するくらい。でも仲良く、喧嘩しないように。
で、案内役は約束通りにジェノバ様…だけでなく。カサンドラ様と二人だ。
「…カサンドラ姉さん、帰って?」
「なんでだよ!こんなに大人数なんだからアタシだって一緒でいいだろ!」
ちょっとした観光ツアーみたいな人数になってるからな。一人だと大変だろうし俺としては構わないけれども。
「いいから早く行こってば。ほらほら早く!」
「ちょっと待ってください。一つ、注意事項がありますのでお聞きください」
ジェノバ様が切り出した注意事項。何でも何日か前に不審者が出たそうだ。此処、帝都ハイルブロンに。
「不審者はまだ捕まっておらず、それ以来姿を見せていないようですが一応御注意を」
「似顔絵がこれです」
………ん?んんんんん!?
「どれどれ……って、おいおいおいおいおい!」
「こ、これって…」
「間違いなくアイツ」
こ、これは…パワードスーツ?間違いなくデウス・エクス・マキナのパワードスーツじゃんか!つまり不審者ってメーティスかよ!
「ふ…ふふふ…此処で会ったが百年目!必ず復讐してやるわぁ!」
あ、なんかピオラがダークサイドに堕ちたような眼をしてらっしゃる…てか、メーティスよ、何やったのお前…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます