第190話 想定してませんでした
時間は少し過ぎて。
俺達王国組は夕食にご招待されたわけだが。
「さぁさぁノワール侯爵様!こちらベッカー辺境伯領で育てられた特上の牛肉でして!最高級のステーキとなってます!どうぞ!」
「これは帝国の北東端の海から取り寄せた魚で極上の白身魚ですきっとノワール侯爵様のお口に合うと思いますそれからこれはフルーツ盛り合わせですお好みではちみつシロップをかけて召し上がってくださいよろしければ自分が食べさせてさしあげてもかまいませんがいかがしましょうか」
…この二人、女王陛下をほったらかしにして俺に構ってていいんだろうか。
女王陛下とアイが上座に並んで座っているのはいいとして。何故、俺の隣に皇女が左右にいる?
ベッカー辺境伯が必死に女王陛下やアニエスさん達をもてなしてはいるが貴女方も分散して相手するのが本来の形では?
「…カサンドラ様、ジェノバ様。ジュンの世話なら婚約者の私がします。アイシャ殿下もいらっしゃるのですから自重していただきたく」
「カタリナさんのおっしゃる通りでしてよ!皇女殿下ともあろう方が他人様の婚約者に手を出すおつもりでして?」
「「「いえマルグリットさんはジュン様の婚約者じゃありませんから。下がってください」」」
「ぐっ…い、今はそんな細かい事を言ってる場合ではないのでは?」
いえ、それを許すと皇女だけじゃなく他の人も近付いて来るから遠慮して。
ただでさえ俺の味方は二つに分けられたからな……向こうは向こうで心配なんだが。余計な何かをされてなきゃいいけど。
『そら心配のし過ぎやろ。一応はアインハルト王国から来た正式な招待客やで?ユウらはマスターの家臣や使用人って扱いになっとるんやし。それに手を出そうもんなら謝罪で済まへん事くらいわかっとるて』
だといいけど。何処にでもバカっているからなぁ。逆にうちの面子がおバカな事しでかす心配もあるし。
アムとかリヴァとか…簡単に挑発にのってやらかしたりしないといいけど。
俺達は今、二つに分けられて接待されている。
使用人や護衛、白薔薇騎士団と黄薔薇騎士団は別の場所で接待を受けていて此処には居ない。
団長のソフィアさんと副団長のクライネさん。イエローレイダー団長と黄薔薇騎士団の副団長は此処に居るが。
多分、俺の周りに居る女性を少しでも減らしてガードを緩めたいと思ったのだろうけど。
「ええと貴女はカタリナ殿でしたか。貴女の言いたい事はわかりますがアタ…私はノワール侯爵様のファンなのです。今日という日を心待ちにして眠れぬ日々。ようやく来たこの時を心から楽しみたい。今日ばかりは赦して欲しい」
「どうか御願いいたします」
「うっ、くっ…し、しかしですね…」
皇女という立場の人が下手に出て御願いする姿にカタリナもタジタジだ。相手が強気で高圧的に迫って来ると反発したくなるけど誠実に対応されると強く出られないよね。
しかし向こうがやってる事は他人の婚約者に色目を使うという誠実さの欠片も無い所業なわけで。
『それ、すんごい今更やない?この世界じゃ結婚してる男を共有するんわ当たり前やねんし。その理論で行けばマスターを護る会の連中にアウトになるのんようけおるやん』
……それはそうなんだけども!そこに俺達は招待客で向こうは主催側!それらを加味すれば二人の皇女の行動は如何なものかと思うのですが!
『そらそうかもしらんけど。向こうの狙いは最初っからマスターやってわかってたんやし。帝国に入ったらこうなる事も読めてたやろ。帝国側の周辺貴族とか呼んでないだけマシちゃうか』
…はて?そういやこの場に居る帝国貴族はベッカー辺境伯だけだな。後はベッカー辺境伯の使用人達。
帝国貴族の重鎮なんかは帝都で待ってるとしてベッカー辺境伯の家臣なんかは今日くらいしか俺達に接触する機会なんてないだろうに。
『それは向こうが排除したんやろ。マスターに余計な手出しされても困るし自分達が相手する時間が減るしで。マスターにしてもそれは都合がええんちゃう?』
それは、まぁ…なんちゃら男爵だとか子爵だとか、なんとか子爵令嬢だとか男爵令嬢だとかがわんさか来られてもな。そういうのはもうお腹一杯です、はい。
『やろ?それに皇女二人が離れたら離れたでマルグリットとかマーヤとかが来るんやし。適度な距離を保ちつつ適当にあしらっておくんが平和に終われるんちゃうか』
Oh…そうだったな。帝国側だけじゃなく王国側にも面倒な人は居るんだった。
…仕方ない。
「カサンドラ様、ジェノバ様。食事くらい自分で出来ますからどうかお気遣いなく。それよりも折角ですから御話しでもしましょう」
「は、はい!ノワール侯爵様がお望みなら!」
「話題は何にしましょうやはり恋の話がいいでしょうか因みに自分は初恋はノワール侯爵様なので語れるような事柄は無いのですが強いて上げるなら自分はノワール侯爵様の全てを受け入れる所存で見た目を変えろと言われたら変えますし変態になれと言われたら喜んで変態になりますが」
「取り合えずその早口はどうにかなりません?」
テンパったら早口になるそうですけど、それじゃ会話にならないからなんとかして。
あと良く聞き取れなかったけど変態になる云々は決して恋バナではないと思う。
「ほらノワール侯爵様も困ってらっしゃるから!ジェノバは少し落ち着け!深呼吸でもしてろ!そ、それでどんな御話しをしましょうか」
「そうですね。それじゃ我々が招待された闘技大会についてはどうでしょうか」
「は、はぁ…闘技大会ですか。やはり冒険者をやられてるだけあって他の男性とは興味の対象が違うのですね」
…何かおかしいだろうか。まさか神子セブンみたいに肌の手入れとかに興味を示すのが普通だなんて言わないよな。
それか酒とか美味い物とか?美味い物はまぁ知りたいけども。俺としてはやはり俺Tueeeeeの為にも闘技大会の情報を集めたい。
「他国から女王陛下や貴族を大勢招くくらいですし、今回は今までよりも大々的にやると聞いてますが。どれぐらいの人数が参加するのですか?」
「ええと…はい。確かに今回はいつもより規模の大きな大会になります。本来なら帝国の人間しか参加出来ない決まりなのですが今回は他国の人間も参加可能。賞金も決勝トーナンメントまで残る事が出来れば手に入りますし、望むなら騎士にもなれます。優勝者と準優勝者は貴族になる事も可能です」
「確か先週の時点で参加人数は二千人を超えているとか」
ほう。それはそれは。他国の人間も参加出来るなら俺も問題無く参加出来そうだな。それに強い人も多くなるし…いいね。
「「「そんなに参加するなら予選だけでかなり時間がかかりそうですね」」」
「…え、ええ。ですので予選の一回戦は十人一組のバトルロイヤル形式にするとか」
「最初に大多数をふるいにかけて十分の一にしますあとは一対一の個人戦を2回して予選は終わりです」
…まだ早口だけど長文じゃないからなんとかわかるな。で、予選一回戦はバトルロイヤルか。
ふふふ…いいね。どうやって勝つか…十人、いや俺を除いた九人を一瞬で倒すのも悪くないけど、一人一人圧倒的な実力差を示しつつ手加減してるのを隠さずに倒していくのも悪くないな。
そして「どうした、来ないのか?」とか「俺はまだ全く全力を出していないぞ。俺を本気にさせてみろ」とか言っちゃうわけだ。くー!
「ふうん。他国の者も参加出来……おい、ジュン。まさか参、モガッ」
「(余計な事言うんじゃありません!続きを言ったらカタリナとは暫く遊んであげないんだからね!)」
カタリナめ…感付いたか。あとでよっく言い聞かせねば!
「あの…何か?」
「いえ何も。他国の人間が参加出来るならレーンベルク団長やイエローレイダー団長が参加すればいい線行くだろうなと」
「ああ…白薔薇騎士団と黄薔薇騎士団の団長殿ですか。確かにそうですね。優勝も夢じゃないでしょうね」
「ですが参加受付の締切は皆様が帝都に到着する二日前ですので残念ながら間に合いそうにありませんね」
……また早口でよく聞き取れなかったが、すげえ聞き捨てならない事言われた気がするぞ。
「すみません、もう一度お願いします。参加受付の締切がなんですって?」
「ええと…ジェノバは皆さんが帝都に到着する予定の日、その二日前が締切だと言ったのですが…」
「皆さんが帝都に到着するのが六日後で締切が四日後という事です」
…………それってマズくね?
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