第189話 同類でした

「ジェノバ!下がれ!一旦下がれって!」


「鎧を着てるからわからないでしょうが自分はこれでもスタイルには自信がありますし婚約話もそれなりに来たし帝国ではみな褒めてくれたので決して容姿は悪くなく性格は自分で言うのもなんですが真面目でカリスマ性のある人柄だと自他共に認めておりまして残るは身体の相性かと思いますがそれこそ心配無用と断言できます何故なら自分はSでもMでも対応出来ますし野外プレイや道具を使ったプレイもどんとこいでして貴方様が望むならどんなプレイでも受け入れる所存なんなら今からお試しで抱いてみるというのはどうでしょうか今すぐこの場でも大丈夫ですが脱ぎましょうか脱がせますか」


「速い速い。何言ってるかわかんないから」


「ほらジェノバ!ノワール侯爵様もお困りだから!てかアタシを無視すんな!」


 前半は自己アピール、後半はスルー対象だってことしかわからなかったぞ。


 結局誰なのこの人。


「アニエスさん、こちらの方々は結局何方で?」


「…ああ。あちらがベッカー辺境伯。この街の領主だ。次に赤茶色の髪の女性がカサンドラ・カターニア・ツヴァイドルフ様。現皇帝の妹にあたられる。そして最後の一人、さっきお前に求婚したのがジェノバ・アリーチェ・ツヴァイドルフ様。カサンドラ様と同じく現皇帝の妹にあたられる」


 ガチで皇族かよ。しかも騎士っぽい人も皇族とか…一人は冒険者、一人は騎士って。何やってんだツヴァイドルフ皇族。


『だからそれってブーメランやってマスター』


 …んんっ。ま、それは置いといて。


 この二人、つまりは姉妹だよな。それにしちゃ似てないなぁ。髪の色も全然違うし纏う雰囲気も違う。


 で、求婚して来た方のジェノバさん?この人は何だかクリスチーナに似てるな。雰囲気もだが髪も同じ銀髪だし、クリスチーナ並の美人さんでもある。年も近そうだ。


「何やってんだジェノバ!初対面でいきなりそんな事言う奴があるか!」


「初対面で結婚するしかないと思ったのだから仕方ないでしょ結婚したら全てをさらけ出すんだから今でも後でも同じでしょ大体サーラ姉さんもそのつもりだし妹全員娶ってもらうつもりなんだかから自分で言っても同じでしょどうせカサンドラはビビッて言えないでしょなら自分が言っても問題ないでしょそうでしょ」


「その早口言葉やめろ!お前は普段はもっとおっとりとした喋りだろう!テンパったら早口になるって自覚しろって!」


 あ、テンパってらっしゃるんだ?だよね、普段のテンションでいきなり求婚なんて…………何人かしてきた人いるけど、普通はしないよな、うん。


「…んんっ。いつまで我らを外で立たせたままにするのか。それとも、これが帝国式の歓迎なのかな」


「大体お前は――って、申し訳ございません!ベッカー辺境伯!御案内を!」


「は、はい!こちらへどうぞ!」


「ジー…」


 まだ挨拶してない人が残っているが漸く屋敷の中へ。


 まだ夕食には早い時間なので、それぞれに割り当てられた部屋に案内してもらった。


 流石に白薔薇騎士団と黄薔薇騎士団は別の宿舎になるが団長のソフィアさんとイエローレイダー伯爵は屋敷に部屋を割り振られていた。


 護衛や使用人には五人部屋だったり三人部屋だったりと一人部屋ではないがちゃんと部屋が用意されていた。


 だと言うのに…


「なんですぐさま俺の部屋に全員集まるかな」


「え~いいじゃん、別に。街に出ちゃダメなんでしょ?」


「ならジュンで遊ぶしかないよね~ね、ユウ」


 俺で遊ぶってなんじゃい。いつから俺はジェーン先生のおもちゃに?って聞いたら「ん~最初から?」とか平気でいいそうだな。


「それで?ジュンはあの騎士さんと結婚する気なのかな?お姉ちゃんを差し置いて?」


「怖い怖い。俺、何にも言ってないよね?」


 暫く出番の無かったピオラだがヤンデレ化が進んでいる気がする。肩に爪、食い込んでるんだけど?普通に痛いっス。


「…そろそろ本題に入ろうか。あの姫騎士、とても気になる事を言っていたぞ」


「ローエングリーン伯爵、あの早口聞き取れたんですね。周りもザワついてたのに」


「「「姫騎士はなんとおっしゃっていたのですか?」」」


 てか姫騎士?あの人の二つ名か何かかね?


「サーラ姉さんもそのつもり、妹全員娶ってもらう、とな」


「……ふぁ?」


 サーラ姉さん、妹全員?誰のこっちゃい?


「…姫騎士の姉、サーラ姉さんとは今のツヴァイドルフ帝国皇帝の事です。サーラ・テルニ・ツヴァイドルフ。先代皇帝の母と皇太子だった姉を見限り王国へ協力する事で自分と他の皇族…妹達の身の安全を交換条件とした聡明な方です」


「サーラ皇帝には七人の妹と弟が一人。そして皇太子の娘、姪が四人。妹達全員とは姪も含めた十一人の事だと思われる。帝国宰相から送られたこの写真の意味を考えればな」


 つまり皇帝も含めて十二人の皇族を纏めて娶れって…写真?なんの写真だ?


「アニエスさん、写真って?帝国の宰相から俺にも手紙が来てたんですか?」


「ああ。ジュンが不在だったので私が先に読ませてもらった。『手紙の内容は帝国の皇族の㊙写真です』と、あとはくだらない内容だったから省略する。で、これがその写真だ」


「どれどれ……うわぁ…」


 写真には顔は写ってない。だが内容が酷い。十歳以下と思しき女の子はパジャマ姿なだけだが他は大体が入浴シーン。特にこの茶髪の女性は……………ハッスルタイムだろ、これ。


 皇族のこんな写真を他国の貴族に送っていいのか?良いわけねーし。


 そして唯一、隠し撮りでは無いこの写真。


 後ろ姿だが全裸でポーズを決めてる銀髪の女性はさっきのジェノバだろう。後ろ姿で顔は見えないが自分に余程の自信があると見える。だって同じだもの。


「どうやらジェノバ様はクリスチーナと同類らしいな。ほら」


「どれどれ。ああ~こりゃ確かにクリスチーナと同類だわ」


「間違いないねぇ」


「同類の変態」


「ファウ、私を変態と呼ぶのはやめないか」


 そう、この写真から察するにジェノバは自分に自信たっぷりの露出狂だ。それがこの写真から読み取れる。


 わからないのはこんな写真を俺に送った宰相の意図だ。いや、俺に皇帝含め皇族を娶らせたいんだろうけどさ。


 だからってこんな写真送るか?普通に考えて逆効果じゃね?


「宰相の意図はわからないが有能なのは間違いない。サーラ皇帝の教育係だったんだがサーラ皇帝が帝位に就くと同時に宰相に抜擢、以後皇帝の右腕として支え、帝国復興に尽力して来た。彼女が居なければ帝国の復興は後十年は掛かっただろうと言われるほどだ」


 そんな有能な人物がこんな写真を?増々わからんわ。


 まさか皇族に対しての単なる嫌がらせでもあるまいし。


「…ローエングリーン伯爵は先にこの手紙と写真を見ていたのでしょう?なぜ教えてくださらなかったのですか?」


「教えなかったのは悪かったがな。こんな写真ジュンに見せる必要もないと思ったしあんな手紙も読ませる必要もないと判断した。だがあの『姫騎士』ジェノバが本気になったのなら厄介だ。全員で警戒しなければな」


「そうそう、その姫騎士ってなに?ウチは聞いた事ないんだけど」


「ジェノバ様の二つ名ですよ。今の皇族は先代皇帝と皇太子のやらかしのせいで国民からも貴族からも嫌われていますがジェノバ様は違う。国民に高い人気があり、貴族からの信頼も厚い。近衛騎士団に所属し凛々しく剣を振るうその姿から『姫騎士』。サーラ皇帝が居なければ次期皇帝は彼女だったと言われるほどです」


「王国との戦争では成人前で参戦しませんでしたが、剣の腕も相当だとか。…それでもやはり、あの愚帝の娘。とんだ変態だったようですけど」


「…私を見ながら変態と言うのを止めてもらえないかなレーンベルク団長」


 いやもう、クリスチーナが露出狂の変態というのは周知の事実になりつつあるからな。この場にいる人間は認識を改めろと言われても無理だって程度には。


「ふうん…クリスチーナは商売の才能、ジェノバは剣の才能。才能が違うけど変態なのは同じ、か」


「同じ銀髪だしね。クリスチーナのライバル登場だね」


「変態VS変態」


「君達…あとで覚えておきなよ。でもライバルとなるなら私は負けないけどね」


 そこ競っちゃうんだ。競わないほうがいいと思うけどなぁ。


「フン…ま、この写真を見る限り私の方がスタイルは上だね。ジュンもそう思うだろう?」


 あ、競うのはそこね。そこならまぁ…頑張って?

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