第188話 覚えがありました
「見えましたわ。アレが帝国内で最初の街メールスですわ」
「へぇ~アレが。パッと見じゃ王国の街と変わらないわね」
「そりゃ人間が住む街だしな。そこまで大きく違わねぇだろうよ」
「アム…あんた最近似たような事ばっかり言ってない?」
王都を出発して約一週間。
大人数の割に順調に此処まで来れたのは整備された道で快適に進めたから。
元々、この道は帝国へ進軍する際に軍の移動をスムーズにする為に整備された街道。それが今でも利用され、こうして役に立っているわけだ。
「メールスは戦争が始まって王国が最初に占領した街でもありますわ。そして終戦までの間ずっと王国軍により管理されていましたの。当然、王国の人間であるわたくし達は歓迎されませんので、出歩くのは控えた方がいいかと思われますわ」
「ええ~…折角の初外国なのに~」
ジェーン先生が誰よりもガッカリしとるがな。最年少のユウ…は例外としてフランも我慢してるんだから我儘言わないで欲しい。
それにしても毎度詳しいなイーナ。結構勉強してる?
「この程度の知識は当然ですわ。わたくしはレンドン伯爵となる身。領主として色々な事を学ばねばなりませんの。今回も帝国と事は事前に調べていましてよ」
「ウチはぜ~んぜん調べてないから素直にイーナは偉いって思うんだけどさ。アレ見てよ、アレ」
「はい?」
既に王国一行の先頭はメールスに入っているのだが……住民達が歓迎の声を上げて出迎えてくれているのがわかる。
まるで英雄の凱旋パレードのようだが…どうなってんだ?
「すげえ歓迎されてね?」
「うん。嫌々やってるようにも見えないよ」
「皆、笑顔」
「ねぇねぇ、これ私も手を振り返していいのかな」
「あ、私もやっていい?」
「リヴァさんはいいけど、お母さんはやめて。御願いだから」
…本当に歓迎されてるように見えるなぁ。それでも俺は見られないように引っ込んでおくけども。
しかし意外だ。イーナの説明を聞かずとも、歓迎はされないだろうなと思っていたんだが。
「で、これ真っ直ぐ代官邸に向かってるよね」
「他にないだろうね。そしてまた歓迎パーティーなわけだね」
王国内の街で宿泊した場合はずっとそうだったもんなぁ。女王陛下もずっとパーティーは嫌だから街に泊まるのは最低限にしてくれたと思うのだが。
「この街は帝国のベッカー辺境伯が治める領都でしてよ。だから辺境伯の屋敷に向っている筈ですわ」
「ベッカー辺境伯?知らないなぁ…アイは知ってる?」
「ウチも知らない。というわけでイーナペディア、また出番よ」
「何ですの殿下、そのイーナペディアとは……ベッカー辺境伯はメールス陥落の際、捕虜になり戦争終結後解放された後に正式に長女に当主の座を譲って隠居したのですが…評判はあまりよろしくない方でしたわ。王国軍が占領してる時の方がマシだという声もあったとか。だからかもしれませんわね、この歓迎は」
「ふうん…じゃあ今のベッカー辺境伯は?」
「悪くはないようですわ。ですが、それだけですわね」
今のベッカー辺境伯は良くも悪くもないって事ね。面倒臭い絡みをしてくる人物じゃなきゃいいけど。
この街で俺達を出迎えて歓迎する責任者って事でしょ?安全管理の責任者でもあるわけで。
頼むからおかしな真似しないでくれよ。俺には闘技大会でやりたい事があるんだから。それに間に合わない事態にだけはしてくれるなよ。
そんな不安に駆られながら馬車に揺られて着いた場所はやはり辺境伯邸。
そこで待っていたのは…誰だ、あれ。代表っぽい人物が三人。それと見るからに上級の騎士と思しき一団。
あの三人はベッカー辺境伯家の人間か?でも三人の内一人は見覚えがあるような…誰だ?
「ジュン、ウチらも行かないと。もう既にママやローエングリーン伯爵達は話してるし」
「あ、ああ…」
もう少し馬車から様子を窺っていたいが、一応は侯爵な俺。
こういう場では俺も挨拶をしなければならない。
例え嫌な予感がしようとも。
「ね、ねぇ…」「もしやあの方が…」「噂の男性侯爵?」「美しい…噂通り、いや噂以上だ…」「男神様よ…」「見つめられただけで妊娠しちゃいそう…てかさせて欲しい…」
馬車から降りた途端に感じる視線。この視線にも多少は慣れてしまったのが怖い。
あと見ただけで妊娠はさせられないです。流石の特製ボディでも。
「ああ、来たぞ。お前達の御目当てが」
「ノ、ノワール侯爵様……あふぅ」
「ジー…」
「……」
三人の内一人は…上級貴族が着るような服装で年齢は二十代半ばの女性。美人ではあるがなんとなく薄幸そうな雰囲気がある。自信なさそうに眉毛を下げて顔色が悪いからの印象だろうか。
察するにこの人がベッカー辺境伯だな。
後の二人の内一人は御姫様みたいなドレスを着ているが…残念ながら似合ってな…いや着こなせていない。
この人が見覚えのある人なんだが……この日焼けして健康的な筋肉の腕と顔…ああ!
ハティを従魔にした時にギリギリまで付いて来てた冒険者の一人だ!筋肉アピールしてた人!
えっ?なんで王国の冒険者が此処にいる?しかも御姫様っぽい格好で。まさかガチで皇族とか?
そうなると残る一人は…護衛の騎士とか?よく見れば周りにいる騎士と同じ鎧だし。
「は、はは、はじ、はじめまひゅて、ノワール侯爵しゃま!わ、わた、私は皇妹のカサンドラ―――あれ?」
「……」
「な、なんです?」
護衛の騎士っぽい人がすげえ至近距離まで近づいて来た。帯剣してるし、こちら側の護衛のソフィアさん達が警戒を強めてるんで、離れてくれません?
あ、でもなんかこのパターンは覚えがあるわーそのハートになってる眼も覚えがあるわー。
「…結婚しましょう」
「やっぱりか!」
「ちょっ、ちょちょ、ジェノバ!?」
最近は無かったけど帝国で再び出たか、初対面からの求婚。
帝国に入って初手からこれとか…大丈夫かなぁ…
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