第187話 集まって来るみたいでした
「人間の街って、あまり変わり映えしないのね〜。王都と大して変わらないじゃない」
「そりゃ同じ王国内だしな。それよりあんま馬車から顔出してキョロキョロすんな。ただでさえリヴァは目立つんだからよ」
ブルーリンク辺境伯領から帰った俺達は今、ツヴァイドルフ帝国帝都ハイルブロンに向かって移動中だ。
女王陛下を始め王国の重鎮達が揃っての移動。護衛に白薔薇騎士団と黄薔薇騎士団が着いていて、さながら小規模の軍隊の行進のようだ。
俺達が乗る馬車は貴族用の見た目を重視した華美なやつ…ではなく。
見た目はそこそこに大人数が乗れる四頭引きの大型馬車。
本来なら護衛の騎士役であるアム達は外で馬に乗ってもらうのだがファウとリヴァが馬に乗れず。
リヴァに至っては馬が怯えて乗せたがらないし、本人も嫌がったので全員が乗れる大型馬車を急遽用意したのだ。
「それにしても…何故わたくしがメイドですの?連れて行ってくださるのは嬉しいのですけど」
「護衛役にするのは不安だからだろ」
「酷いですわね、アムさん…」
「かといってメイド役も不安じゃないです?」
「フランさんも酷いですわ…」
メイド役として連れて来たのは本職メイドのフラン。
そしてクリスチーナ、ピオラ、ユウ、イーナ。
それから屋敷で働くメイドから二人。
そして強引に着いて来たこの人。
「ん?なあに、ジュン」
「いや…年甲斐も無くメイド服なんて着て…いひゃいいひゃい」
「相も変わらず失礼な事言うのはこの口かな〜?このこの」
どういうわけかユウの母、ジェーン先生もメイド服を着て此処に居る。
いやまぁ理由は言ってたんだが。
「だぁってぇ。私、外国に旅行なんてしたことないんだもん。親孝行だと思って連れて行きなさい!御世話はしてあげるから!」
めっちゃ私情でした。
いいんだけど…ジェーン先生も親代わりのつもりだったん
だ。
孤児院…院長先生だけで大丈夫なのかな。
「それにしても…私達のメイド服はやけにスカートが短くないかい?」
「ですわよね。フランさんのメイド服とはデザインも違いますわ」
「これって…ジュンの趣味?お姉ちゃんにこんな格好させて…どうする気?」
「どうもしないから胸を強調しないで」
今回フラン達屋敷メイド以外のメイド服はアイがデザインしたもの。
恐らくは前世の記憶…メイド喫茶かなんかの服なんだろうが…ミニスカで胸元はハート型に露出した、かなりエロいメイド服になってる。
何故かこのエロメイド服…ジェーン先生が一番着こなしてるんだよな……ちょっとジャンプしてもらえます?
「ねぇねぇ。アイとカタリナはどうしたの?」
「あの二人は別の馬車。ついでにイザベラ達三つ子も別の馬車」
今回、他に参加する貴族家はローエングリーン伯爵家。レッドフィールド公爵家。グリージャ侯爵家。ポラセク侯爵家だ。
白薔薇騎士団と黄薔薇騎士団の中に貴族家当主は混じってるがあくまで騎士としての参加になる。
当然、ソフィアさんは居るし、イエローレイダー伯爵も来てる。
ああ、そうそう。今回参加してる王族は女王陛下とアイだけ。
流石にジーク殿下も帝国には行きたくないらしく、参加を辞退。
ジークが残るならとガウル様も残ってベルナデッタ殿下と遊ぶらしい。
というわけで今回参加してる男性は俺だけ。
そして俺の存在は極力隠すようにと女王陛下よりのお達しがあった。
街に入る度に絡まれても面倒だし、大人しく従おうと思う。
ちょっと観光はしたかったけど、一度来た場所は空間転移で来れるし。次回は一人でこっそり行こうと思う。
「ジュン…」
「ジェーン先生…なに?」
そんな真剣な顔して。珍しいね、ジェーン先生の真面目顔。
「退屈。何か暇つぶしになるのないの?」
「…子供ですか」
「もう、お母さん…」
予想範囲内だけどね、ジェーン先生が言わずとも誰かが言い出すのは。
出発時はリヴァと同じくらいはしゃいでたのに。
「用意してるけどね。新作の玩具は」
「おおー流石はジュン!」
「ふふ…制作はエチゴヤ商会、特許登録済さ」
ブルーリンク辺境伯領では退屈な時間が辛かったからなぁ。
今回も移動中は護衛も居るし狩りの必要もないしで。退屈しそうだから用意した。
異世界転生の定番、トランプだ。
「何これ。どうやって遊ぶの?」
「遊び方は色々あるよ。取り敢えず簡単なババ抜きからやろうか……お?」
「馬車、停まった」
一つ目の街を出て少しの場所で一団は停まった。どうやら此処で小休止するらしい。
あ、今回も御者はドミニーさん。どうも最年長の自分が御者をやるべきだと考えているらしい。
以外と面倒見いいんですね。
「ジュン君、何も問題無い?」
「ソフィアさん。大丈夫ですよ。そちらはどうです?」
「部下を先行させて安全を確保させてるし、問題無いわ。むしろ問題は…」
「こういう馬車から降りる時間ですかね」
接触して来るだろうしなぁ。あの御令嬢達が。
「その為にウチが来たよん」
「「「私達も来ましたよ」」」
一団の中でツートップのお家柄なアイと三つ子の登場だ。
イーナは今回はメイド役だし…
「ふぅ。長時間の馬車はやはり疲れ――ぶっ!」
「え?何で今転んだのよ?そこ、何にも無くない?」
…あの通りだし、期待は出来ない。
スカートの中身、見えてるよ。
「何やってるんだイーナ…早く立たないか」
「うぅ…少しくらい心配してくれても良いのではなくて?」
「キリがないだろう、お前の場合」
カタリナも集まって、ほぼいつも通りの面子になった。
対応に困る人が来る前に揃う辺り、事前に打ち合わせしたんだろうな。
「さて小休止とはいえ食事の時間くらいあるだろ。昼だし」
「おう!昼メシにしようぜ!」
今はもう十二月。外で食べるには少々寒い。が、今日は天気も良く風も出てないので食べれない事もない。
『
「ああ、此処に居たか」
「お母様」「アニエスさん」
アニエスさんも合流した事で帝国行きの身内は此処に集まった事になる。アニエスさんが少し遅れたのは理由があったようだ。
「ジュンを除いた当主達で集まって今後の予定について少し相談していたんだ。次の街に着くのは陽がくれてからになるが宿の確保は出来ている。しかし代官邸に泊まる事が出来るのは女王陛下と殿下先生、ローエングリーン家とノワール侯爵家になる。白薔薇騎士団と黄薔薇騎士団は騎士の宿舎に。あとの貴族家はバラバラに宿屋に泊まる」
「良いんですか?侯爵とはいえ新参なのに他の家を差し置いて俺達が代官邸に泊まるなんて。それに話合いがあったなら俺も呼んでくれたら良かったのに」
「働き者なのは感心だがな。お前は男なんだから。好きな事やってればいいんだ」
…侯爵になってもその考えは適用されるんだな。わかってたけど。
「それとこれは先ほど届いた情報なのだが―――」
「こちらにいらしたのですね、ノワール侯爵様。是非、私も昼食を共に……」
「マルグリット…折角の団欒を邪魔しないでもらいたいな。…って、どうした」
パーティーの時、カタリナに絡んでいたマルグリット嬢がこちらに混ざろうとやって来た。後ろに四十代半ばくらいの女性が一緒だ。服装から察するにこの人がマルグリット嬢の母、ポラセク侯爵か。
「あの…ノワール侯爵様?」
「なんです?」
「何故、使用人と一緒に食事を?」
「はい?何か変ですか?」
「え、ええ…普通は使用人と共に食事など…分けての食事が一般的かと」
そうなのか?しかしローエングリーン家ではそんな事無かったし、ブルーリンク辺境伯家も一緒だったぞ。
「ま、それは少数派かもしれんな。しかし絶対的にそうしなければならないと決まり…法があるわけでもない。そんなものは各自の自由だ」
「ですよね。マルグリットさん、そういうわけですので。一緒に食事くらいはかまいませんが使用人達と一緒の食事が嫌だと仰るのなら御引取りを」
「う…」
「マルグリット、受け入れなさい。失礼しました、皆さん。私はマルグリットの母、ウラリー・サン・ポラセク。以後、よろしくお願いしますね」
マルグリット嬢と同じダークバイオレットの髪をした御淑やかな雰囲気。とても海軍提督には見えない。
軍人というよりは花屋とかやってそうに見えるくらいだ。
「それで私達も御一緒させていただいても?」
「ええ、どうぞ。もてなしが出来るわけでもありませんが」
「ええ、わかっています。マルグリット、こっちへ来なさい」
「はい、お母様……って、貴女はイーナさん?何故、メイド服を…メイド服ですのよね?それ」
「うっ…ジュン様の御好意で連れて来ていただいたのですわ。その代わり使用人の真似事をする事になりましたが。このメイド服はジュン様に着るように言われて…」
いや、そうだけどそうじゃない。そのメイド服はアイの差し金だ。決して俺の発案ではない。
『ノリノリで着るように言って渡してたくせに』
そそそ、そんな事ねぇーし!
「あ、居た居た。私も混ぜてもらっていい?御金なら払うから。ほら、ティータもおいでよ」
「う、うん…良いですか、ノワール侯」
…グリージィ侯爵とイエローレイダー団長まで来た。賑やかになって来たなぁ。食事を一緒にするくらいいいだけどさ。
輪に入れない人達…主に護衛中の白薔薇騎士団や黄薔薇騎士団、各家の騎士、使用人連中の視線が集まってますけど。居心地悪くない?
特にソフィアさんとイエローレイダー団長。部下から恨まれません?交代で休憩を取るから平気?今はクライネが指揮してる?本当に良いのかね、それで…イエローレイダー団長は後で泣かないでくださいよ。
…ところで、イエローレイダー団長もメイド服着てみません?
「賑やかになったな…まぁいい。ジュン、さっきの続きだが」
「はい?」
続き?何か話してたっけか?
「ドライデン連合王国からも帝国に向っている一団があるらしい。恐らく新国王のエスカロンだ。内戦が終わったばかり、しかも他国でおかしな真似はしないと思うが…奴がお前に執着している以上、注意は怠るなよ。皆も、エスカロンとドライデンの人間には注意するように」
「ノワール侯爵様の為ならばポラセク家も協力は惜しみませんでしてよ。ですよね、お母様」
「御金の力で護ってあげるから、安心していいわよ」
「黄薔薇騎士団も総力を挙げて護ると誓いましょう」
「いや…お前達には言ってないんだが…」
貴女達は俺を護る会のメンバーじゃないですもんね…そもそも俺ってば強い…それでも殿方は護るのが女の役目?またそれか…いい加減に俺には未適用でいいんじゃないですかね。
それにしても…内戦が終わったばかりでまだごたついてるだろうに、来るのかエスカロン。
俺にはやる事があるんだから。邪魔しないで欲しいんだがなぁ。
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