第172話 確認しました

「そろったな」


「では始めましょうか」


 パーティーが終わった翌日。


 今日はパーティーで見えた新たな問題含め、今わかっている問題について話し合う事に。


 参加メンバーは俺を護る会の主要メンバー達。院長先生は居るがピオラとユウ、アイは不参加だ。ピオラとユウは何かの準備に残ったとかなんとか。


「さて、先ずは昨日のパーティーでわかった事からだが…想像以上に我々は妬まれているようだな」


「ええ…私も婚約者になれるよう協力しろと、半ば脅すように言う者も少なくありませんでしたよ」


 先ずはアニエスさんとソフィアさんの言。二人は昨日のパーティー中はあまり話せなかったが、ずっと招待客の対応をしてもらっていた。


 脅された、と言っても直接的な物言いはしてないだろうし友人に近い存在の人達だと思うが。


 そして、それはカタリナやイーナ、イザベラ達三つ子も同じらしい。


「私達は脅すような物言いや等は無かったがな。殆どが嘆願だ」


「わたくしも同じですわ。マルグリットさんのような方は例外ですわね」


「私達も同じです」「公爵家に喧嘩を売る人はいませんね」「とは言え、発言力があると思われているのか歳の近い令嬢だけでなく当主の方々にもお願いされましたが」


「「「勿論全てやんわりと御断りしましたよ」」」


 権力を握ってるわけではない嫡子や次女三女達はお願いしか出来ないらしい。が、マルグリットのように敵意むき出しではないだけで、やはりカタリナ達も相当妬まれているのは確かだとか。


「私とゼニータ会長はもっと酷いね。殆どが下級貴族だったけど、ノワール侯爵を説得しろだの、私を売り込めだの。断ったらどうなるかわかってるなと、脅し文句付きで言って来る始末だよ」


 アニエスさんやソフィアさん、カタリナ達には丁寧な言葉で言ってはいても、平民のクリスチーナやゼニータ会長には遠慮が無かったらしい。


 しかし、余りに目に余る人物にはシーダン男爵が間に入ってくれたらしい。


 そういう事も出来るのかと、ちょっと意外に思った。


「シーダン男爵は良い意味で貴族らしくないね。爵位が上の相手にも怯まず応対していたし。私としては好ましい人物だよ」


 ちょっとアムに似てるしな、シーダン男爵。クリスチーナが嫌いな貴族とは正反対と言っていいだろうな。


「マルグリットのように敵意を表に出すような奴は少ないが、敵意を隠しているからこそ注意が必要…という事ですね、お母様」


「そうだな。それとパーティーに呼ばれなかった連中。そいつらも我々に対し高い嫉妬心や敵愾心を持ってると考えておいたほうがいいだろうな」


 ああ…パーティーに呼ばれなかった事でより一層って事ね。


 女の嫉妬は恐ろしいというのはこの世界でも変わらないらしい。


「ところでさっき名前が出ましたがマルグリット嬢の家、ポラセク侯爵家について詳しく聞いても?海軍の重鎮と聞いていますが」


「ああ、ポラセク家か。昨日の招待客の中では王家、レッドフィールド家、ブルーリンク家を除けばグリージィ家、ブロンシュ家に並ぶ重鎮だな」


「現当主のウラリー・ラン・ポラセク殿は海軍提督。長女のレオナ・サン・ポラセクは黒薔薇騎士団の団長ですね」


「あれ?マルグリット嬢が嫡子なのでは?昨日本人がそう言ってましたが」


「いや確かにマルグリットは嫡子だが次女なんだ」


「長女のレオナ様は自分は当主に相応しくないと次期当主の座を妹のマルグリットさんに譲られたのですわ」


 そして自分は武の道に進むと言って騎士になり、鍛えに鍛えた結果。五大騎士団の一つ、黒薔薇騎士団団長にまで上り詰めた。ただ…


「ただ…見た目は非常に…その、騎士らしくないと言うか…」


「ああ。あいつほど騎士が似合わない奴もいない。だが本人は気にしてるから、会っても口にしてやるなよ。とは言え、黒薔薇騎士団は赤薔薇騎士団と同じく他国へ遠征中だ。早々会う事もないだろうから、気にするな」


 との事だが。そんなん言われたら逆に気になるわ。騎士が似合わないってなんだろ。すげえ華奢とか?


「話が逸れたな。兎に角、昨日のパーティーでわかった事は我々…ジュンの婚約者は非常に妬まれているという事。そしてジュンに本気で惚れてる奴が大勢居ると言う事だ。どちらも我々の想像以上にな」


「妬んでいるだけならいいけれど、それが嫌悪や憎悪に変わったら。そう思うと身を護る手段が無い人は注意が必要ね」


 そういう最悪の事態を防ぐ為にも。俺には月に一回くらいは他家のお茶会やパーティーに参加して欲しいと言われ。俺も最悪の事態なんて望まないので了承した。


「一番心配なのは…孤児院のメンバーだな。院長先生は大丈夫だと思うがピオラやユウは心配だ。次にクリスチーナだ…気をつけろよ」


「クリスチーナの事は心配いらねえぞ、カタリナ」


「わたし達が一緒だもんね~」


「敵は排除」


「アム達も対象になるかもしれないって忘れてないか…」


 そうか…昨日のパーティーには居なかったがピオラやユウが狙われる可能性も出て来るのか。


 いや、ピオラとユウは貴族達には認識されてない、か?


『どうやろうな。マスターの事を調べてるなら孤児院の事は知ってるやろし。知られてる可能性は高いやろ。ただ嫉妬の対象になるかっちゅうと…微妙なとこやな。心配なら偵察機張り付けとく?』


 …だな。暫くは用心の為にそうするか。


「そういう直接的な行動をするようなバカは早々いないと思うが、それはある意味では対処しやすい。対処しにくいのは搦め手で来るヤツだ」


「その代表がカラーヌ子爵。グリージィ侯爵も何か仕掛けて来るかもしれないわね」


 カラーヌ子爵なぁ…鉱山の利権と俺との婚約も狙ってるのかなあ。でも男好きって話だけど俺にはあまり絡んで来ないんだよな。絡んでるのはシーダン男爵やクリスチーナだけで。先ずは外堀から埋めようって魂胆だろうか。


 グリージィ侯爵はある意味で一番わかりやすいけどな。御金で懐柔出来そうな人を味方につけて食い込んで来るとかだろ、次にやりそうなの。


「そしてドライデンの都市ガリアの代表エスカロンとエロース教教皇がジュンに会いたがっている件だが…」


「ブルーリンク辺境伯にそれとなく探って欲しいとお願いして、結果を聞いたけれど特に成果なし。ただ…エスカロンは性格と容姿に優れた男性は尊重、敬愛してるそうなの。だからジュン君に悪意は持ってないんじゃないかって話だったわ」


 …ふぅん?だとしても魔草栽培や男性誘拐の首謀者疑惑のあるドライデンの上層部の人間だしなぁ。


 悪意が無いにしても会う気は無いし、警戒は必要だな。


「では教皇の狙いについてだが…司祭様」


「はい。教皇猊下はジュン君をエロース様の使徒かどうか見定めるおつもりです。本部に居る友人に確認してもらいました」


 …教皇がエロース様の使徒を探してるという話は聞いていたけど、確定しちゃったかぁ。


 教皇は神託…神の声を聞く事が出来るらしいけど…誰だよ、余計な事言った神様は。エロース様は俺を転生させた本人だし探せなんて言う筈が無いし。


『そら例の嫌がらせをしてくるかもしれんっていう神様やろ。他におらんやろ?』


 …勇者送って来るだけじゃなくて?いや、その勇者に襲わせる為に俺の居場所が知りたいのか。


 もしかして勇者と対面の時が近いのかなぁ…


「女神エロース様の使徒ねぇ…確かにジュンは優秀だし使徒だって言われても納得の美貌だけれど、エロース教の敬虔な信者ってわけでもないよ。人違いだろう」


「ジュンは子供の頃からエロース教を避けている節があったからな。今思えば男だったからだとわかるが」


「何か使徒だってわかる決定的な証拠とかねえのか?」


「それがあれば楽だったのだけど…」


 無いんですか?無いんですね?よっしバックレ決定で。


「ジュンがエロース様の使徒だろうが違かろうが、だ。エロース教の教皇とジュンを合わせると面倒な事になるのは間違いない」


「神子になってくれとか使徒として世界中の女性を救って欲しいとか言い出すのが眼に見えてますものね」


「……否定は出来ません」


 ああ、やっぱそうなるんだ。わかってた事だけど、絶対に御断りだわ。


「帝国の目的はわかりきってるし、無視の方針は変わらん。皆で共有しておくべき情報は以上か」


「ええ。まとめると身辺に注意し、弱味を握られたりしないよう行動にも注意を。ジュン君を直接狙うような短慮は…する奴もいるかもしれないから、これからも注意してね」


「他に何も無ければ解散だ」


 というわけで、その場はそれで終わり…かと思えば。


 会議中ずっと黙っていた院長先生が話があるみたいだ。


「ジュン、貴方明後日は孤児院に来れるの?皆一生懸命に準備してるのよ」


「明後日?明後日って何かあったっけ?特に決まった予定はないけど」


「はぁ…貴方は毎年そうね。明後日は貴方の誕生日じゃない」


「ああ…」


「「「「「「「な、なにぃーー!!!」」」」」」」


 そういやそうだった。明後日は院長先生が決めてくれた誕生日だ。


 前世でも誕生日はついつい忘れちゃってたんだよなぁ。


「孤児院を出る前にも約束したじゃない。来年の誕生日は孤児院でお祝いしようって」


「ピオラとユウが来なかったのはその準備の為か…」


 この世界、女性は誕生日は五年毎にしか祝わないが男性は毎年。孤児院に居る間は俺も表向きは五年毎だった。院長先生だけこっそり祝ってくれたが。


 で、孤児院を出てからは毎年誕生日を堂々と祝おうとなっていたんだった。


「な、何故もっと早く教えてくれないんだ院長先生!」


「クリスチーナ!貴女は知っていた筈でしょう!アム達も!」


「ぐっ!私とした事が…」


「やっちまったぜ…」


「どうしよう…」


「失態…」


「カタリナ!貴女も知っていたのではなくて?!」


「うっ…」


 本人が忘れてたのに周りの方が大騒ぎな件。全然気にしなくていいんよ?


「こうしてはおれん!急ぎ準備しなければ!」


「え?あの…皆さんも来るおつもり?とても貴族の方が参加されるようなものでは…」


 そりゃ小さな孤児院での小さな催しだもんな。とても伯爵やら公爵令嬢なんが来るようなもんじゃない。


「当然だ!むしろ何故参加しないと思った!」


「場所は孤児院から此処に変更しましょう!今回は子供達も呼んで大丈夫ですから!」


「食材は私に任せてくれていいから!」


「忙しくなんぞカウラ、ファウ!」


「先ずはプレゼント用意しなきゃ!」


「ダッシュ」


 というわけで。


 孤児院でやるささやかなパーティーは先日のパーティーのように盛大になり。


 まだ屋敷内に残っていたシーダン男爵にブルーリンク辺境伯らも参加。「紳士会」の面々も参加し…急遽決行したパーティーとしては大いに盛り上がった。


 子供達も楽しんでいたし、平民がいるからと悪態をつくような人も居なかったから良かったが。


 呼ばれなかったとしった人達からはまた何か言われそうだと、アニエスさん達は肩を落としていた。


 一番お怒りだったのはジーク殿下だったのがなんとも…ヤレヤレである。

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