第173話 乗る事にしました
「人は慣れる事…環境適応能力が高い生き物だ」
「う、うん?」
「突然どうしましたの、ジュン様」
そう、人は環境適応能力が高い。それが全てではないが、だからこそ繁栄して来た。
しかし、しかしだ…
「まぁ哲学ですか?」「侯爵様は博識でいらっしゃいますのね」「ぜひ私達にお聞かせくださいまぜ」「ワタクシも是非に」
この環境には慣れそうにないなぁ…というか慣れたくない。
パーティーを開いた日から一月…今日はカタリナとイーナに連れられてお茶会に参加しているのだが…パーティーの時と同じくグイグイくる令嬢達に囲まれている。
普段から女性に囲まれた生活を送ってはいるが…ほぼほぼ初対面と変わらない人達に囲まれて距離を詰められるというのは…どうもな。
月一でパーティーやお茶会に参加…一回目で挫折しそうなんですけど。
『まぁ、楽しんでないもんな、マスターは。楽しみのないお茶会やパーティーなんて、そらつまらんやろ』
つまらん…そうだな、つまらんのよ、お茶会。話の合わない御令嬢達と御話し…そりゃ俺も男だからモテモテなのは悪い気はしない。
しかし、今更そんな事でな…御茶とお菓子が美味しいのがせめてもの救いか。
『とは言えやな。御令嬢らに悪意は無いんやから。つまらんって気持ちを表に出したらあかんで。にこやかにしとくんが万事丸く終わる秘訣や。はしゃげとは言わんから、穏やかにやり過ごすんや』
…わかってるよ。此処で物凄く上機嫌になっても酷く不愉快そうにしても。どちらも後々面倒な事になるだけだしな。
「あの…侯爵様?」「どうかされまして?」「私達、何か不愉快な事を申しましたでしょうか…」
「ああ、いや。失礼、少し考え事を。私の話より、皆さんの御話しを聞かせてもらえますか?」
「「「「は、はい!喜んで!」」」」
…居酒屋?
・
・
・
「ふぅ…昨日は疲れた…」
何とかかんとか、お茶会を無難に終わらせて帰った日の翌日。
今日は何の予定もないのでゆっくりと―――
「ジュン、ちょっといいか」
「至急、決めてもらいたい事があるのだけど」
と、思っていたのにだ。
アニエスさんとソフィアさんの二人が部屋に来た。
至急とか…何なんですかね。また問題?
「問題と言えば問題…になるかもしれんがな。先日、ツヴァイドルフ帝国の皇帝から陛下宛に書状が届いた」
「ツヴァイドルフ帝国では帝都ハイルブロンで五年に一度、大きな闘技大会が開かれるの。知ってるかしら」
…闘技大会?そんなんあったのか。敵国だった帝国の情報なんてろくに集めてなかったけど…それが何?
「今年はその五年に一度の闘技大会が開かれる年。帝国は毎回周辺諸国の王家や重鎮を招待していて王国も招待されたの。周辺諸国の手前、陛下は招待に応じ、帝国へ行くおつもりだけどジュン君はどうする?」
「はい?俺も招待されてるんですか?」
「勿論、陛下以外にも招待されている。私もその一人だ」
「道中の護衛は白薔薇騎士団と黄薔薇騎士団が担う事になったわ。流石に総員では無く、百名ずつだけれど」
「…俺、侯爵ではあっても重鎮ってわけじゃないと思うんですけど」
「それはそうだが、向こうはジュンを指名している。是非、来て欲しいとな」
「狙いは明らかだけど、陛下や他の重鎮が参加する中、指名されたジュン君が意思表示も無く不参加は外聞が悪いからって。この前、無視するって決めたわけだけど、不参加なら適当な理由を―――」
「行きます」
「え…行くの?」
ふっふっふ…闘技大会!いいじゃないか!
相手は女性ばかりだろうが殺し合いではなくルールのある戦い!仮に向こうが殺す気だったとしても完封する自信がある!それも圧倒的に!
それもまた俺が望む俺Tueeeee展開!乗るしかない!このビッグチャンス、ビッグウェーブに!
それにその間はお茶会に参加せずに済むしな!ぶっちゃけもうやだ!
「そ、そう…じゃあ陛下には参加と伝えておくわね」
「それと護衛は白薔薇騎士団と黄薔薇騎士団が担うと言ったが私的な護衛や世話役を連れて行く事は可能だ。私も連れて行くし、侯爵ともなると護衛の騎士や使用人を全く連れて行かないわけにもな。誰を連れて行くかは好きに選べ。そうだな…護衛と使用人、合わせて十名くらいなら問題無い」
使用人はともかく護衛って言われてもな…俺、まだ騎士雇って無いし。そもそも護衛は不要だしなぁ。
『体面の問題もあるからな。アム達に頼めばやってくれるんちゃう?』
ああ、そうか。護衛は騎士に限らず私兵や雇った冒険者でも良いのか。
なら護衛はアム、カウラ、ファウ。それにリヴァもどうせ連れて行けって言うだろうし護衛役になってもらうとして。
あとはハティは魔獣だけど問題ないかな?それとドミニーさん、来てくれるかなぁ。
世話役の使用人はフランは連れてってあげるとして。あとは…ピオラにユウに臨時メイドになってもらうか。
そうなるとクリスチーナも連れてってやらないとか。
カタリナとイーナは…行くのかな?
「カタリナは私が連れて行くぞ。レンドン家は陛下に呼ばれていないだろうから、イーナは不参加だな」
となるとイーナは護衛役…いや下手に張り切らせたくないし使用人だな。そっちの方が大人しく出来そうだ。
いや決してメイド服のイーナが見たいわけじゃなく。
…大体こんな所か?イザベラ達三つ子はレッドフィールド家として行けるだろ。公爵は確実に呼ばれてるだろうし。
「出発は一月半後。片道約二週間ほどの旅路になる」
「帝都までの道は整備されてるし、安全は確保されてると思うけど。あまり目立つ真似はしないでね」
一月半後か…まだ結構間があるんだな。その間は冒険者活動をするか。
出来れば長期間の。具体的に言うと一月半くらいかかりそうなやつ。
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