第170話 浮き彫りになりました

 女王陛下に言われて開いたノワール侯爵家主催パーティー。


 挨拶周りもどうにかこうにか終わり。


 ようやく落ち着いて食事が出来るかと思った矢先。


 カタリナが誰かと言い争う声が。


 貴族のパーティーとは円満に終わらないものなのか…シーダン男爵とカラーヌ子爵の時よりも大きな騒ぎになってるし。


「き、貴様ぁ…謝罪しないか!」


「あら、頭だけじゃなくて耳も悪いのかしら。謝罪なら最初にしたでしょう?」


「クスクス…」「ふふふ…」「いい気味よ」「貴女なんか侯爵様に相応しくないのよ」


 …どうやらあのダークバイオレット色の髪をして髪色と同じドレスを着た令嬢がボスで、後ろの四人は取り巻きか?


 で、カタリナのドレスにワインの染みが…あの令嬢がやったらしいな。


「マルグリットさん。此処は貴女の家ではありませんのよ。招かれた身でありながら騒ぎを起こすなんて…家名に傷が付きましてよ」


「ふん…イーナさんは相変わらずカタリナさんにベッタリですのね。仲のおよろしいこと」


「お前には従順な取り巻きがいるじゃないか。相変わらず友人はいないようだが。取り巻きの顔ぶれも学生時代から変わってないようだし。人望が無いのも変わらないようだな」


「な、なんですって…」


「あ、ちょっとカタリナ…」


 Oh…カタリナさん、それはボッチにはクリティカルなお言葉…言葉のナイフは避けられないから耐えるしかないんだぞ?


 そして耐えられなかったらどうするかと言えば…


「い、言わせておけば調子に乗って…」


「なんだ、やるか?決闘なら受けて立つぞ。なんなら私からやってやろうか」


「ちょっ、ちょっとカタリナ!マルグリットさんも!それはマズいですわよ!?」


 おっと、様子見はここまでだな。


 二人がやろうとしてる事はわかる。経験があるからな。


「というわけで、ちょっと止めてくる」


「あ、ウチが行こっかって、速っ!」


 二人が互いに手袋を投げた。そんな事まで張り合わんでも。


 ま、さっき学んだし此処は有耶無耶にする方向で。


「え?ジュン?」


「ノ、ノワール侯爵様?」


「おやおや。これはこれは。まさか二人同時に決闘を申し込まれるなんて」


 というわけで。二人の手袋は俺が受け取ってみました。


 これで二人の決闘騒ぎは有耶無耶になるってもんよ。まさか俺相手に本気で決闘するはずないからな。


 マイケルみたいなド阿呆でも無い限り。


 ……さて、二人の代わりに手袋を受け取ったはいいが…此処からどうしよう。


『え?ノープランなん?』


 YES。何かプランはあるか、相棒。


『えー…決闘受けてまえばええんちゃう?ゆる~いルールでかる~いペナルティで』


 なるほど。買っても負けてもお互いに困らない内容にすればいいか。よし。


「いやぁ困ったなぁ。カタリナはともかく、そちらの方とは初対面のはず。決闘を申し込まれる理由がわかりませんね〜」


「あ、え、いえ、その…私は…」


「お、おい、ジュン。私はともかくって何だ。私にはお前に決闘を申し込む理由なんて無いぞ」


「ほら、小さい頃勝負に負けた腹いせとか?」


「いくつの頃の話だ!もう内容も覚えてないぞ私は!」


 えー…じゃあ昔カタリナのとっておきのお菓子を食べた件?

あ、違う?思い出したから今度返せ?金持ち貴族のくせにセコい事言うなぁ…


「ま、理由の有る無しに関わらず。こうして投げられた手袋を受け取ったからには決闘をしなければならないわけで」


「うっ…そ、それは…」


「わ、私はノワール侯爵様に決闘を申し込むつもりは無くて!」


 と、慌てて紫の令嬢は釈明を始めるが…取り巻きに距離を取られてんぞ。


 脆い絆だなぁ…


「まぁまぁ。サクッと決闘して終わらせましょうか。最初はカタリナから」


「うっ…私からか…しかしだな…」


「勝負はジャンケン。負けたら相手の肩を揉む。で、どうだ?」


「私はお前に……ジャンケン?」


 これなら何も問題あるまい。ようは勝負して白黒つければ内容はなんでもいいんだから。


「はい、ジャーンケーン、ポン!」


「え、あ、う?」


「はい、俺の勝ち。後で肩揉んでね。はい、これにてカタリナとの決闘は終了」


「あ、ああ!うん、わかった!」


 余程慌てて混乱していたのか、ようやく俺の意図に気付いたカタリナ。


 ちょっと素の喋り方が出てるあたり慌ててたのがよく解る。


「さて、次に貴女は…失礼、お名前をお伺いしても?知っていると思いますが私はジュン・レイ・ノワール侯爵です」


「は、はい!マルグリット・メラニー・ポラセクと申します!ポラセク侯爵の嫡子ですわ!」


 ポラセク侯爵?あー…何だっけ。王国海軍の重鎮でローエングリーン家と同じく軍務系貴族の名門だっけか。


 ローエングリーン家に打診してパーティーに参加したんだろうに。何でカタリナに喧嘩売るかね。


「初めまして、マルグリット嬢。では勝負を…始める前にお聞きしたいのですが、カタリナのドレスが汚れているのは貴女の仕業ですか?」


「うっ、そ、それは……はい…」


「そうですか。理由は聞かないでおきましょう。では勝負内容ですがジャンケンで良いですか?」


「は、はい!是非ジャンケンで!」


「では私が勝ったらカタリナに謝罪を。ちゃんと頭を下げて」


「え?そ、それは……で、では私が勝った時は私と結婚し――」


「報酬の内容は釣り合いが取れるようにお願いしますね」


「うっ…」


 勝ったら結婚なんて条件を認めたらどうなるか。明日から決闘ブームが始まってしまうぞ。


「で、では…私が勝ったら私が主催するお茶会に来てくださいまし」


「ふむ…」


 ま、それくらいなら。問題無いだろう。どうせ勝つしな。


『えらい自信やん。マスターって、そないにジャンケン強かったか?』


 そりゃ今までは本気でジャンケンなんてやってないからな。


 しかし!今の俺の動体視力を持ってすれば!直前の手の形で何を出すかわかる!


『あぁ…え、つまりは後出しやん。ズッコ!』


 ズルく無い!自身の能力を最大限に活かした必勝法に過ぎん!


「良いですよ、それて行きましょう。それじゃジャーンケーン」


「ぽん!」


 結果は当然俺の勝ち。


 マルグリット嬢は凄く残念そうに、嫌そうに。カタリナに頭を下げ、取り巻きらとパーティー会場を後にした。


 それで一件落着、パーティーは終了。解散の流れ…にならなかった。


 俺とマルグリット嬢の勝負を見ていた他の令嬢達や当主、果てはジーク殿下まで。


 ほぼノーリスクで俺をお茶会に呼べると判断。次々と勝負をふっかけられた。


 勝負内容はジャンケンやコイントス、飲み比べなんてものもあったが俺の全勝。


 アニエスさんやソフィアさん、ベニータにまで挑まれるとは思わなかったが問題無く勝利。


 ジーク殿下は…ガウル様が止めてくれた。必死にアイコンタクトを送った甲斐があったというもの。


 何せ要求が…アレ過ぎて。勝っても負けても俺のダメージが大きいんだもん。


 なんとか無事に?終わったパーティーだが…今後の課題を浮き彫りにしたパーティーだった。


 一つ一つ、片付けないと行けないんだろうなぁ。


 次に大きな問題が来る前に…具体的に言うとエロース教教皇やドライデンが何か仕掛けて来る前に、な。

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