第169話 また騒ぎが起きました

「あんたにアドバイスなんて求めてねぇんだよ!勝手に話に混ざってくるんじゃねえよ!」


「聞こえちゃったんだもの~仕方ないじゃない~。それに~貴女の頭の悪さが~これ以上広まらないように~止めてあげたのよ~感謝して欲しいくらいだわ~」


 …白熱しつつあるなぁ。クリスチーナとゼニータ会長も困り顔だし、仲裁するしかないか。


 しかしカラーヌ子爵の目的はなんだ?何か仕掛けて来るかと思っていたんだが…俺の家臣であるシーダン男爵と喧嘩する事にメリットがあるとは思えないんだが。


「シーダン男爵~貴女は~ノーワル侯爵から~トランの街を任されてるんでしょ~それには~街の政だけじゃなく~鉱山の運営が上手く行くようにする事も~含まれてる筈よ~それなのに~その程度の知識で~ちゃんと出来ているのかしら~」


「いや全くもってその通り」


「カラーヌ子爵の言う通り。ノワール侯爵が如何に人手不足なのかわかるというものです」


「ああ!?」


 …誰だ?知らないおばさん二人がカラーヌ子爵に加勢してるみたいだな。


 デウス・エクス・マキナで名前の表示がされて無い所を見ると初対面みたいだし。


「どうする?ジュン」


「…クリチーナに説明してもらうか」


 二人の会話から察するに、シーダン男爵の代官としての能力にカラーヌ子爵がケチをつけたみたいだけど、確認はせねば。


「(というわけで。クリスチーナ、何があった?)」


「はぅ!(な、なんだ、ジュンか…ビックリするじゃないか。背後からコッソリ近づくのはやめたまえよ)」


「(ごめんごめん。それで?)」


「(ち、近いよ…んんっ。ゼニータ会長にシーダン男爵が鉱山運営について軽くレクチャーを受けていたんだがね。私も後学の為に一緒に。そしたら途中からカラーヌ子爵がシーダン男爵に絡みだしたのさ)」


「(おばあちゃ…ゼニータ会長が途中からクイズ形式にしたのが良くなかったのかも。シーダン男爵が間違える度にカラーヌ子爵がバカにするように答えて正解を出すものだから…)」


「(…ベニータ、近い近い)」


 クリスチーナと肩を組んでヒソヒソ話をしていたらベニータに腰に手を回されヒソヒソ話に混ざって来た。


 クリスチーナに対抗心でもあんの?周りから凄い眼で見られてるから離れなさい。


 しかし話の内容は予想通りだった。カラーヌ子爵から絡んだのは間違いないみたいだし、遠慮なく割って入らせて…いや、まだ聞きたい事があるな。


「(カラーヌ子爵に付いてる二人は?)」


「(私は知らないね…ベニータ女史はどうだい)」


「(あの二人はカラーヌ子爵と領地が隣接してるキーン男爵とフーン子爵ね。領地運営が上手く行ってないって噂を聞いた事があるわ)」


 つまりはノワール侯爵領の御近所さんか、ああ、それで今日呼ばれて此処にいるわけね。


それじゃそろそろ止めに入るとしますか…って、アレ?いつの間にかアイが居ない…あっ?


「随分と仲が良いのね、シーダン男爵とカラーヌ子爵は」


「ああ?誰と誰が仲がいいって?!って…子供?」


「…これはアイシャ殿下~御挨拶が遅れて~申し訳ありません~」


「へ?殿下って…し、失礼しました!」


 既に二人の仲裁に入っとる…行動が早いな。しかし、事情も知らずに仲裁なんて出来るのかね。


『この場合、言い争いを止める事が出来たらええんやから事情を知らなくてもなんとかなるやろ。こんな大勢の前でどっちが悪いと決めて断罪すると後々響くし。なぁなぁで終わらせるんが一番や』


 …そういうものなのか。アイはそこらへんわかってるのか?兎に角、アイの近くへ行っとくか。


「二人で何の御話し?ウチも混ざてもらっていい?」


「あ、いや…えっとですね…」


「…殿下が聞いてもつまらない御話しですよ~鉱山運営の御話しですもの~」


「へぇ~それってジュンの…ノワール侯爵領の鉱山の話でしょ?ウチは将来ノワール侯爵に降嫁する身だからさ~是非聞いておきたいわね」


「…そうですか~でも~私は多少の知識はあっても~そこまで詳しくないので~シーダン男爵に~お任せしますね~失礼します~」


「あらそう、残念ね。そっちの二人は?キーン男爵とフーン子爵だったかしら」


「あ、えっと…わ、私も…」


「し、失礼します~」


 おお…よくわからんがアッサリと解散しよった。これが狙い通りの展開なら…大したもんだな、アイ。


「ご苦労様、アイ。やるじゃん」


「ウチは大した事してないよ。でもね、ああいうタイプは自分が有利なのか不利なのか、状況を見極める術には長けているものなの。自分より立場が上の、第一王女が乱入した時点で状況は不利。更にジュンが近くに居る事に気付いた。だから撤退したってとこね」


 アイが割って入った時点でこうなるって決まってたのか…腐ってても王女という事か。


「なんか失礼な事考えてない?」


「いやなに。腐女子でも王女なんだなぁと」


「…確かにウチは腐ってるけど…上手くやったんだから最後まで褒めてよ」


 それは調子に乗っちゃう気がするから止めておくとして。


「わ、悪かったねノワール侯爵…アイシャ殿下も、えっと…すみませんでした」


「俺は何もしてませんよ」


「ウチも話かけただけだし。それよりもシーダン男爵」


「は、はい!」


「貴女はノワール侯爵の現状唯一の家臣。そして今日はノワール侯爵主催のパーティー。貴女が騒ぎを起こせばノワール侯爵の恥になるくらいわかるはず。気をつけなさい」


「はい…申し訳ありません…」


 …アイって偶に凄く大人というか、王女様らしくなるというか。そういった事に考えが及ぶなら、布教活動の結果どうなるのかも考えて欲しかった。


 ジーク殿下やガウル様達「紳士会」の面々はどうするつもりなんだか…まさか放置じゃないよな?


「それでシーダン男爵。カラーヌ子爵の狙いはなんだと思います?」


「狙い?…さぁねぇ。単にアタシの事が嫌いなんじゃない?大勢の前で恥をかかせたかっただけとか。実際恥かいたし」


「シーダン男爵様に恥をかかせるのが目的だったとは思いますが、理由は違うと思いますな」


「ゼニータ会長」


「どういう事かな」


 そこでゼニータ会長にクリスチーナ、ベニータも話に混ざって来た。


 そしてゼニータ会長が言うにはシーダン男爵の評判を落とす事で鉱山の利権に絡みたいのが理由だろうと。


「何故、シーダン男爵の評判が落ちるとカラーヌ子爵が利権に絡めるんです?」


「シーダン男爵様はノワール侯爵様の唯一の家臣。それが王国にとっても重要な鉱山運営に携わっている。シーダン男爵様の評判が落ち、その能力が疑問視されれば王国に陳情が出せるわけです」


 つまり…「あんな人に王国にとって重要な鉱山運営に密接に関わりのある街の代官なんて勤まるのですか?近隣領主としても凄く不安です」とかなんとか俺や王国…女王陛下や宰相辺りに言ってシーダン男爵を退場させるように動く。そうして出来た隙に割り込もうって事か。


「ズル賢いあいつが考えそうな事だよ、ほんとに」


「ズル賢い?男好きで悪名高いとは聞いていたけど…」


「それも間違っちゃいないさ。でもあいつは利に聡い。あの鉱山は現時点で王国で最重要と言って良いくらいの場所になっちまった。それが生み出す利益…それになんとしても絡みたいんだろうね。それくらいバカなアタシにもわかるよ」


 …てっきりカラーヌ子爵の狙いは俺かと思ってたけど…いや、鉱山の運営に絡めるなら俺と接する機会も増える。それは俺と手に入れる機会が増えるって考えてるのか。


『そんなとこやろうな。まさに一石二鳥、一挙両得や』


 …まだまだ絡んで来そうだなカラーヌ子爵。やだやだ…


「というわけで気をつけてくださいよ、シーダン男爵」


「わ、わかってるよ…アイシャ殿下に注意されたばかりだし」


「カラーヌ子爵以外にも同じような事考えてる人はいるでしょうから十分に注意を。一年、上手くやればシーダン男爵を子爵に陞爵しようという話もあります。頑張ってください」


「え!それはマジかい!?」


「マジもマジ。大マジです」


 これは本当の話。アニエスさんから聞いた話だがミスリルだけでなくアダマンタイトとオリハルコンが採れるようになった鉱山は超重要。


 なのに鉱山から一番近い街、トランの代官が男爵のままでは何かとよくない。そこで一年鉱山運営に携わり上手くやれば、その功績を持って陞爵させようと女王陛下と話したそうだ。


「わかったよ!やるよ!やってやるよ!」


「ならばもう少し勉強せねばなりませんな、シーダン男爵様」


「ああ!よろしく頼むよゼニータ会長!でも今日は酒も入ってるし勉強は後回しだ!」


「……じゃ、俺は挨拶回りを続けます。行こうか、アイ」


「…うん」


 不安だなぁ…しっかりやってくれよシーダン男爵。


「不安ね…大丈夫なの、あれ」


「ゼニータ会長に期待しようか…さて、気を取り直して次だ」


「うん。あっちにいるのは確か―――」


 そうしてアイと挨拶回りを続けて1.2時間。


 ようやく挨拶回りが終わって少し食事でも、と思っていた時、また騒ぎが起きた。


「き、貴様!何をするか!」


「あ~ら、ごめんあそばせ。でも貴女に御似合いのドレスになったのではなくて?」


 …今度はカタリナが誰かに絡まれたらしい。やれやれ…気持ち良く終わって欲しいんだがなぁ。

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