第168話 怒りを買いました
「マ、マーヤ、それぱ流石に失礼じゃない?」
「そうかもね。でも私が誰にも負けないと自負してる事、それは資金力!そして私は欲しいと思った物は必ず手に入れる!金の力で!」
Oh…確かに本気らしい。婚約者で第一王女のアイの前で言ってのけるのは大したものだが…もう少しオブラートにだね……アイが凄い眼で見てるぞ。
逆に俺は少し冷静になったが。
「い、いえ、でもね、マーヤ…」
「でもじゃない!私はいつも言ってるよね、ティータ。お金で買えない物は無い、お金があれば何だって手に入る。お金こそパワー!パワーはお金!って」
ううん……財務大臣らしい考えと言えばいいのか。それとも財務大臣に相応しくないと言えばいいのか。
十八歳の娘が持つ考え…思想?としては…かなり俗っぽいと思うのだが…
「なんか…ごめんね?うちの娘が…」
「あ、いえ…」
「この子の母は早くに病死してね。それ以来、この子が当主としてグリージャ家を切り盛りして来たんだけど…金儲けの才能があったみたいで。その才能が買われて財務大臣になったんだけど…それもあってかお金を盲信してるみたいで。お金さえあれば何でも出来ると思い込んでるんだよね」
…自分の成功はお金があったからこそ、そんな考えに至った、と。
まぁ…全否定する気は無いけどさぁ。
それを俺に押し付けられても困る。
「グリージャ侯爵。幾らお金を積まれようと無駄ですよ」
「…やっばりこれじゃ足りない?自分の価値を良くわかってるのね」
「そうじゃなくて。金を出せば俺と結婚出来ると思わないでいただきたい」
「…何故?お金があれば婚約者達にも良い思いをさせられる。これから増えるだろう家臣や使用人達にも沢山の給金を払える。お金があれば幸せになれる。逆にお金が無いと不幸でしょ?違うかしら」
「これでも結構稼いでるので。ノワール侯爵家は」
ミスリル・アダマンタイト・オリハルコンの三種の鉱石が採れる鉱山運営は順調そのもの。
侯爵家としては十分以上の収入が入って来るようになったし領地の運営も(丸投げだが)問題無し。
特許の収入もあるし、お金には困ってない。
「…くっ、わかってはいたけどお金で靡かない人間って困る…」
「わかってたって…」
「前に手紙と一緒に金貨袋送ったけど返って来たから…」
…ああ。なんかそんな話聞いたような気がする。
アレはあんたの仕業か…本当にマネーはパワー!で生きてるんだな。
「フン。ならジュンの事は諦めなさい。ジュンをお金でどうこう出来るなんて思われるのはウチも不愉快だし。次に同じ事言ったら―――」
「でも殿下だってお金は必要ですよね。最近は特に」
「――何を知ってるの?」
「色々です。それもお金で手に入れた情…報…」
「もういい。黙るか、失せるか、喋れないように顎を砕かれるか。好きなのを選びなさい」
…遂にプッチんと来たらしい。アイの殺気…いや怒気か。アイの怒気に触れ、グリージャ侯爵も黙ってしまった。
アイがお金を何に使ってるのかは知らないが…知られるとまずい事なのか?
「…はぁ。マーヤ、今日の所は退散しよう」
「…うん。挨拶周りを済ませてから帰る」
「…はぁ。ごめんね、ジュン君。またね」
此処でグリージャ父娘は退散。あそこでまだ粘るようならどうなるかと思ったが…もう少し早く引いて欲しかった。
「…アイシャ殿下、ノワール侯。友人の非礼をお詫びします」
「貴女は悪くないから気にしなくていいわよ」
「俺も同じく…ですがイエローレイダー伯爵とは随分違うタイプの人に思いますね」
「フフ…確かに。でもマーヤはアレで悪い子じゃないんですよ。お金に対する信用と信頼が異常に高いだけで…」
「お金に関する相談なら頼りになると、私の母も言っていたよ」
「主に青薔薇騎士団の予算についての相談ですね」
と、イエローレイダー伯爵とブルーリンク辺境伯からのフォローが入る辺り、悪人じゃあないんだろう。
「じゃ、次に行こっか、ジュン」
「ああ。それじゃ」
「あ、待って欲しい…わ、私のドレス、どうだろうか…ちょ、ちょっと大胆かなと思うのだが…こういうドレスを着るのは慣れてなくて…」
…どうやら男性が女性のドレスを褒めるというのはこの世界でもあるらしい。
髪の色に合わせた黄色のドレス…今にも零れそうな胸が素敵だと思います。なんて言ったら怒るだろうか。
『泣き出すんちゃう?確か泣き虫ティータなんやろ、渾名が』
Oh…そう言えばそうだった。じゃあジャンプしてもらうのはダメだな…止めておこう。
ここは無難に……無難に……無難な褒め言葉ってなんだろう?
「ノワール侯?」
「あ、あぁ…髪の色と合っていて、素敵だと思いますよ」
「そ、そうですか、良かった…」
どうやら今ので良かったらしい……ブルーリンク辺境伯?なんです、その眼…私も褒めろとか言いませんよね?
カミーユさんも期待の眼差しを送らないで…
「普通ね。その場で思いっきりジャンプして欲しいとか言わないの?」
「それは言いたくても我慢しなきゃいけないんだ」
さっきそう脳内で完結したのに。何故アイが言っちゃうのか。
「ジャンプ?…よく解りませんが跳んで見せればよろしいので?えっと…せ~の!」
「あ、ちょっと待っ――うっぶ!?」
「――わあお」
こ、これは?!おっぱいパンチ?!思いっきり顔に当たっても痛くなーい!
「ひっ、ひいやぁぁぁぁ?!!」
予想通りにジャンプした事でドレスから解放されたイエローレイダー伯爵のおっぱい…しかし想像以上にドレスで抑えつけていたらしい。
勢いよく飛び出たおっぱいは目の前の俺の顔に……いや、そんな事あるぅ?!
どんだけデカいの?!アムと同等かと思えばそれ以上じゃん!
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!うぅわぁぁぁん!」
「あっ、イエローレイダー団長!?なんかごめん!ウチこそごめんね!」
…また泣きながら走り去ってしまった。しかも前回以上に大勢の目撃者がいる中で。
また妙な噂がたたなきゃいいけど…
「あー…ええとぉ…次に行こっか、次に」
「…そだな」
凄い経験だった…イエローレイダー伯爵、侮りがたし…
『…どんな称賛やねんな。おっぱいに顔埋めたいなら、わてがやったんで?』
…そのうちな、そのうち。今は挨拶周りを終わらせる事に集中しないと。パーティーの時間は決まってるんだから。
急がないと時間内に終わらない……ん?
「次は何処行く?やっぱ他の大臣が優先?」
「いや、あっちに行こう。何か騒がしいから」
「ん?」
アレは…シーダン男爵か。周りに居るのは…クリスチーナとゼニータ会長にベニータか。
どうやらシーダン男爵が誰かと言い争ってるみたいだけど…相手は誰だ?
「あぁもう、うっぜ!折角の美味い飯が台無しになるじゃないか!どっか行けよ!シッシッ!」
「あらあら~。私は~ケダモノじゃないのよ~。そんなので~何処か行くわけ~ないじゃない~」
「そういう所がウザいんだって!いいからどっか行きなって!」
「折角~アドバイスしてるのに~。そんな言い方は~ないんじゃない~?」
……カラーヌ子爵かぁ。
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