第167話 始まりました

「侯爵様!今宵はご招待いただきありがとうございます!」「次は是非、我が家で開催するパーティーにお越しくださいませ!」「侯爵様の女性の好みを教えていただけますか!」「例えば私などどうでしょうか!」


 今日はパーティー開催当日…まだ開始数分でしかないが…解放される気配がない。


 今は参加者の中でも若手…俺と近い年代の女の子に囲まれている。当主の娘、孫、妹といったとこか。


 でも圧が凄いんだよな…必死感が凄い。眼がギラギラしてて…なんなら魔獣と対峙した時よりも圧を感じるよ。


「お前達、少し距離をとらないか」


「そう矢継ぎ早に話してもジュン様が困ってしまうだけでしてよ」


「「「ノワール侯爵様も挨拶をして周らなければならない事も忘れてはいけませんよ」」」


 と、カタリナとイーナ、イザベラ達三つ子が俺の傍に居てガードしてくれてはいるのだが…中には邪魔者を見るようにカタリナ達に眼を向ける子も居る。


 大丈夫かな…恨まれ役になってないか?


『今更ちゃうか。現時点でマスターの隣に居るってだけで嫉妬の対象やろ。その嫉妬の眼差しも優越感の材料でしかなさそうやけど』


 そんなはず……おぅ…実に良い笑顔だこと。


 口では注意してても顔は晴れやか爽やか。


 それがまた令嬢達の嫉妬の炎に油を注いでるわけだが。


 そう言えばアニエスさんとソフィアさんも城で同じ事してたなぁ。


 しかし、中には強かな令嬢達も居て―――


「カタリナさん、イーナさん、お久しぶりです」


「宜しけれ私達を侯爵様に紹介してくださらない?」


「…ああ。ジュン、この二人は王都貴族学院の同級生だ」


「こちらがブラウン伯爵家の―――」


 とまぁ…知人が傍に居るなら利用するまで、といった考えらしい。


 嫉妬などおくびにも出さず、にこやかに二人に話しかけ紹介までこぎ着けた。


 今まではただ紹介して欲しいってだけのお願いもシャットアウトしてたが、一応は俺主催のパーティー。


 紹介しないわけにもいかないわけで。


「今日は来て良かったです」


「憧れのノワール侯爵様とお話しが出来た。それだけで周りに自慢出来ますもの」


 そっスか。既に俺には覚えきれないほどの御令嬢達か自己紹介して来たので、メーティスの補助無しでは誰が誰やら。


「女王陛下、並びに国父ガウル様!お見えになられました!」


 此処でロイヤルファミリーのご登場だ。女王陛下とガウル様の後ろにはアイは勿論、ジーク殿下とベルナデッタ殿下も一緒だ。


 一番偉い人は少し遅れてやって来るというのは、この世界でも定番らしい。


 女王陛下を招待している事は事前に報せていたのだが、招待客からのざわめきが治まらない。


 アイが一緒に来るのは想定内だがジーク殿下とベルナデッタ殿下は予想外だったんだろう。


「よくお越しくださいました、陛下。ガウル様も」


「うむ。中々盛況なようだな」


「やぁ、ジュン君。本当はもっと早く来たかったのだけどね。ベルナルドゥやシブリアンは昨日から泊まってるんだって?全く、羨ましいね」


「ハハハ…」


 何かと二人には話をせがまれたからな…おっさん達の行動が御令嬢達と大差ないと言うのはどうなんだろうか。


「ジュン、親友の僕はかまってくれないのかい」


「…いえいえ、そんなまさか。しかし、私だけがジーク殿下を独占しては恨まれてしまいますので。今日は楽しんでください、ジーク殿下」


「…いけずだね。そんな君も素敵だが」


 おおう!ゾクッと来たぁ!あかん、ジーク殿下の人生の舵取りがあかん方向へ向かってまんがな!


「どうするつもりだ元凶」


「…困難を共に乗り越えてこその夫婦だと、ウチは思うの」


 尻を庇いながら俺から視線を逸らすアイ。


 その仕草は誤解されそうだからやめい。お仕置きの尻叩きは三発で赦してやったろうが。


「お兄ちゃん、今日は御招待ありがとうございます!」


「とても御上手なご挨拶ですよ、ベルナデッタ殿下。美味しい物が沢山ありますので、楽しんで行ってください」


 とはいえ、ベルナデッタ殿下もジーク殿下もこういう場に滅多に出て来ない。


 恐らくは俺と同じように招待客に囲まれて―――


「(ジークとベルのフォローは我がする。お前にはアイを付けるから、上手くやれ)」


「(…御意)」


 パーティーに来てやっただけで満足しとけって事ね。


 ロイヤルファミリーが揃って来てるってだけで、十分周りに示せてるからな。


 ノワール侯爵家は王家と懇意にしてる、深い仲だと。


「ウチと婚約してるってだけで十分だと思うけどね。それじゃ一緒に挨拶周りに行こっか。エスコートしてね」


「…了解。それじゃ御手をどうぞ、姫様」


「…うふ」


 俺のフォロー役はカタリナ達からアイに交代。


 アイと手を繋ぎ、パーティー会場を歩く。


 それを見た周りから挙がる声はやはり怨嗟の声。


「…キィィ!王女だからって王女だからってぇ!」「うらめしい…」「呪呪呪呪呪呪呪呪…」「お腹壊して恥かけばいいのに」


 …陰湿な声が聞こえるなぁ。なんか呪詛を飛ばしてる奴もいるし。


 …呪いよけ、必要かな。


「仲睦まじく、結構な事ですな」


「あら、宰相。居たの」


 先ずは宰相閣下とご挨拶…宰相の後ろではパオロさんがにこやかに立ってる。


 ベルナルドゥさんが言ってたが、紳士会のメンバーは全員夫婦仲円満らしい。


「ああ、ほら、口元にソースがついてるぞ、パオロ」


「え、あ、うん、ありがとう」


「全く、何歳になっても子供…っと、失礼しました殿下。ノワール侯爵も」


「あ、いや…」


「宰相の、ちょっと意外な一面を見たって思っただけだから、気にしないで」


「……参りましたな」


 宰相って、結構面倒見の良いおばさんなのかな…そう言えばダジャレを言ったりしてたし、意外に気さくな面もあるのかも。


「やぁ、ジュン君。今日の料理はまた格別だね」


「気に入っていただけたなら何よりです、シブリアンさん」


「私はあの白身魚にトロッとしたものがかかってるのが気に入ったよ。是非、レシピを教えてもらいたいな」


「お姉様、それより先に招待していただいた御礼を…」


 お次はブルーリンク辺境伯家のご登場だ。


 昨日から泊まっているが、やたらと俺に料理を作らせたがる。


 シブリアンさんも同じで、どうやら父娘揃って美味しい物に眼がないらしい。


「妻も来れたら良かったのだけどね。どうしても外せない仕事があるらしくて」


「青薔薇騎士団の団長ともなればお忙しいでしょうから」


 まぁ、他に騎士団長が二人参加してますけどね。


 一人はソフィアさん。そしてもう一人が…


「ノワール侯、今日は招待して頂き感謝します」


「こちらこそ、イエローレイダー伯爵に来て頂いた事、感謝して……ます」


「…どうかされたか?」


 お次に現れのはイエローレイダー伯爵…なのだが。


 今日は今までと違い、ドレス姿。叙爵の儀の時や屋敷に来た時なんかは騎士服でピシッとした印象だったのだが…今はやたらと胸が強調されたドレスを着てる。


 てか、そんなに胸デカかったのか!カタリナ…いやアムに匹敵する大きさじゃね!?


「ジュン?流石に見すぎじゃない?」


「あ、はい。すみません」


 でもだって、あんなに上乳が強調されてんだよ?その場でジャンプしたら溢れ落ちそうなんだよ?


 …お願いしたらジャンプしてくれないかな。


「ほぅら、私の言った通りでしょ。男の人は大きな胸が好きなのよ」


「マーヤ…そうみたい。ありがとう」


 お次に現れたのは…誰だ?イーサンさんと一緒って事は…


「今日は招待してくれてありがとう、ジュン君」


「イーサンさんこそ、よく来てくださいました。それで、そちらは…」


「うん、以前話した娘だよ」


「初めましてノワール侯爵。私はマーヤ・ウィスリア・グリージャ。若輩ながら財務大臣をやらせてもらってます。よろしくね」


 やっばりこの子が…って、俺と大して年齢かわらなくない?


 見た目、十六〜十八ってとこだぞ。十代で当主になったとは聞いていたけど…


「驚いてるみたいだね」


「私に初めて会った人は皆同じ反応するから、もう飽きたけどね」


「マーヤとは友人なのですが、私の方が四つも年上なのに彼女の方がしっかりしてて…よく助けられてます」


 イエローレイダー伯爵の四つ下…十八歳か。


 灰色…アッシュグレーの長い髪に、スラリと長い手足。


 少し猫を思わせるような丸い目…モデルのようやスタイルの美人さんだ。


 イエローレイダー伯爵も高身長の美人だが、彼女も負けてない。


「あぁ…」


「ん?な、なんです?」


「やっばり良い男…」


 …急になんだ。なんか懐から取り出した…収納スキル持ちか。


 取り出したのは…金貨袋?金貨袋を近くのテーブルに積み上げていく…どんだけ出すん?


「あの…これは?」


「回りくどいのは嫌いだから、はっきり言うわね。いくら払えば貴方と結婚出来る?」


「…は?」


「貴方と結婚する権利を買うわ。いくら出せば良い?」


 ……凄い事言うな、おい。金で俺の心を買おうってか?


「…巫山戯てるの?財務大臣。今取り消すなら、ジョークで済ませてあげるわよ」


「至って真面目、大真面目ですアイシャ殿下。私はノワール侯爵との結婚を金で買います」


 ………これは怒って良いんじゃないだろうか?

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