第159話 お仕置きされました

~~アイ~~



「はうっ!?」


「ど、どうしたの、アイ」


「い、今、悪寒が…」


 思わず辺りを見回したけれど…ジュンはいないわね、うん。


 まだお茶会をしてる時間の筈だし、探していたとしてもそう簡単には見つからない筈。


 だって、此処に来るのは避けたいはずだもんね、ジュンは。


「どうして教会に?まさか神子に…」


「そんな訳ないでしょ。司祭様に聞きたい事があるのよ。それに此処って今、神子は不在なんでしょ」


 ウチは今、ユウと一緒に王都ノイスのエロース教教会に来てる。


 最初はユウに匿ってもらってたんだけど、司祭様に聞きたい事があったのを思い出して教会に来たってわけ。


「ところで何やって逃げて来たのか説明しなさいよ」


「………な、内緒」


 自分で描いたエロ本を見せた結果、父親を含む五人のおじさんの性癖を歪めたとか言えない…匿って貰えなくなる、絶対に。


「…じゃ、司祭様に聞きたい事って何?」


「それは…あっ」


「お待たせしました」


 と、司祭様が来たわね。ユウも知りたがってるし、早速本題に入りましょうか。


「アイシャ殿下だけじゃなくユウさんも一緒なのね。ちょっと意外な組み合わせ…それで今日はどのような?」


「単刀直入に聞くわね。エロース教教皇がジュンに何の用?」


「……」


「教皇がお兄ちゃんに?それって…」


 ウチは最初、ジュンを神子にするつもりかと思った。けど、それはもう出来ない。


 いくらエロース教でも侯爵本人を強引に神子になんて出来ない。


 平民の冒険者だった時ならまだしも、ね。


「ウチは最初、ジュンがドラゴンゾンビを討伐して凄く目立った事が切っ掛けで教皇の耳に入ってジュンに興味を持ったのかと思ったけど、そうじゃない。教皇がいるエロース教本部があるのはアインハルト王国から国を三つ越えた先にある。そこから手紙を送るだけでも数ヵ月はかかるもの。そこから逆算するとジュンが侯爵になるちょっと前に送って来た事になる――」


「そうでもありませんよ。エロース教の重要支部には小さな物なら距離に関係無く転送出来るアーティファクトがあります。此処、ノイス支部にも、ね」


 …転送のアーティファクト?任意の場所へ物体を転送出来るアーティファクトか…そんな物があったなんてね。


「でも、それって…」


「ええ、ユウさんの考える通り。教皇猊下からのお手紙を王城に届けたのは私です」


 そうなるわよね…でも、それならどうして?司祭様もジュンを護る会の人間の筈…なのに何故?


「誤解の無いように言っておきます。私は教皇猊下の手紙の内容は知りませんでした。宛先は女王陛下でしたし、封蝋が施された手紙を私が開けるわけにもいきませんから。決して、私から教皇猊下にジュン君の事を伝えたわけじゃありません」


 それもそうか…でも、それならそれで謎がまだ残る。


 司祭様がジュンの事を洩らしたわけじゃないなら、教皇はどうやってジュンの事を知った?ジュンの噂が伝わるにしても教皇に伝わるまでも時間が――


「…司祭様。その転送のアーティファクトって、本部から各支部に送るだけじゃなくて、各支部から本部に送る事も可能ですか?」


「ええ。ユウさんの言う通りの事が出来ますよ。転送には上質な魔石を必要としますので、そう気軽に使える物ではないですけどね」


 ああ、なるほど…ジュンの噂を聞いた何処かの支部の人が教皇に情報を送ったのか…でも、ジュンの情報を送るならノイス支部の人間が送るのが自然だと思うけど?


「実は…少し前にエロース教の全支部に向けて通達がありました。エロース様の使徒を探すように、と」


「エロース様の使徒?」


「それって…」


 ジュンの事だよね、どう考えても。つまり、ジュンが男だから接触を図ったのではなく、ジュンが使徒だと気付いたから接触しようと?


 でも、ジュンが使徒だと知ってるのは同じ転生者であるウチとユウくらいの筈。


 ジュンが男だって情報以上に秘密にされてた事なのに…どうして遠く離れた教皇が気付ける?


「ですので、男なのに類まれな力を持つジュン君の噂を聞いた誰かが教皇猊下にお伝えしたのでしょうね。例え使徒でなくとも、美形の男というだけで教皇猊下にお伝えすべき事ですし」


 …それだけで教皇に伝えるとか…いや教義とか考えるとわからなくはないんだけどさ。


「……司祭様はどう思ってるの?ジュンが使徒だと本気で思ってる?」


「可能性はあると思っています。他に可能性がある人物、となると…目の前の二人以外に居ませんし」


 …!この人…鋭い。元Sランク冒険者の肩書は伊達じゃないってわけね…ただエロい事だけ考えてる人じゃなかったのね。


「アイ、それってブーメランって言うのよ」


「……ウグッ!心の声にツッコミいれないでくれる?」


 そりゃウチはエロ漫画家だから、エロい事ばっかり考えてると言えばその通りなんだけど…って、なんでウチが考えてる事がわかったの?


「で、なぜウチとユウに使徒の可能性があるなんて?いえ、使徒じゃないんだけどね?」


「……エロース様の使徒…いえ、使徒様ならは他の人間とは大きく違う何かを持っているでしょうから。アイシャ殿下は漫画を作りだし、ユウさんは類まれなる智謀。他の人には無い才能を御持ちです。可能性はあると思ってますよ。あくまで私が知る人物の中では、の話ですが」


 …これ以上は使徒に関して話すのは止めた方が良さそうね。墓穴を掘りかねないわ。


 ああ、でもこれは聞かなきゃ。


「…話が少しズレたわね。じゃあ教皇はジュンがエロース様の使徒かもしれないと思って会おうとしてるってのね?」


「ええ。教皇猊下のお手紙の内容がジュン君に会いたいとあるならば、それしかないかと」


「なら何故、教皇は使徒を探せ、なんて?最近言ったんでしょ?」


 理由も無く言った、なんて事はないでしょ。そうでないと余りに唐突だし突拍子も無さすぎる。


 使徒を探す必要、理由が必ずあるはず…


「…恐らく、神託があったのでしょう」


「…神託?」


「エロース教の教皇は例外なく、神の声を聞く才能がある者が選ばれます。昨年亡くなられたヨハンネ教皇猊下は勿論、新教皇猊下であるエル様も同じく神の声を聞く事が出来る…と、されています」


 …本当に神の声を聞く事が出来るのかは知らないけど、思い当たる理由としてはそれしかないって事ね。


 ていうか、現教皇の名前、初めて聞いたわ。代替わりしてたのも知らなかったし。


「教皇猊下のお手紙にはジュン君と会いたいと書いてあったのですか?」


「ウチはジュンから聞いただけで手紙は読んでないんだけどね。ママを招待するついでにジュンを招待って形にしてるみたいね」


「…それは完全にジュン君が目当てですね。わかりました。私の方でも教皇猊下の動きには注意します。可能なら真意を探って…あら?」


「ん?どったの…はっ!?」


「みーつーけーたー」


 ひぃ!?ジュ、ジュン!?な、何故此処に!?どうやってウチが此処にいるって解ったの!?


「お、お兄ちゃん…怒ってる?」


「だいじょーぶ。ゆうにはおこってないからね。ゆうにはね」


「あばばばばば!」


 なんかジュンが平仮名しか喋ってない気がするぅ!これ激オコじゃない?


 に、逃げないと…なんとかして!


「はっはっはっ。どこへいこうというのかね」


「パ、パ○ー!」


「…○ズーってどなた?」


 ム、ム○カの真似するなら歩いてよ!何、その動き!あっという間に捕まっちゃったんだけど!?


「さぁ…おしおきのじかんだ」


「ぴ、ぴぎゃあああああ!!!」


 だ、誰かたしゅけてー!

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