第120話 一新しました

 叙爵の儀を終えて一週間が過ぎた。


 あの日、屋敷に帰って予定通りにパーティーを開いた。


 ジーク殿下とベルナデッタ殿下の飛び入り参加で場は一時騒然となり、更に其処へレッドフィールド公爵一行も飛び入り参加したりで混乱を極めたが、なんとか無事に終わった。


 ミスリル鉱山の件は名目上は俺…ノワール侯爵家の物だが、ローエングリーン伯爵家を始め、各婚約者候補達の家から人材を出向という形で借り受け、運営する事に。


 前任者からの引き継ぎはしたのだが…正直わからない事だらけだ。


 どうせ部下に丸投げするのだから、聞かなくても良いとは言われたが、一応は当主なのて引き継ぎに立ち会って…ちんぷんかんぷんのまま終わった。


 俺は大まかな流れだけわかっていればいいとの事なので、素直に御言葉に甘えようと思う。


 それから、屋敷の中が一気に賑やかになった。


 宿舎暮らしだった白薔薇騎士団員の殆どが移って来たし、門番や使用人も増えた。


 正式に、この屋敷はノワール侯爵邸になったし住人も増えた。故に、それに相応しいだけの使用人や兵も雇わないとダメ…という事らしい。


 そこら辺の貴族のアレコレは全くわからないし、人材に関してはアニエスさんやソフィアさん任せ。


 他家からのスパイ防止の為、自分の家から派遣してるらしいし、変な人は来ないだろう…と思いたい。


 そう、人材と言えばレッドフィールド公爵がやたらと人材面で協力しようとしてくる。


 ノワール侯爵家を再興、という形ではあるがほぼ新たに立ち上げた新興貴族と変わらないのが現状。


 更にミスリル鉱山なんて物を与えられたならば人材は不足しているだろう、と。


 まぁ、その辺りから俺に取り入ろうとする貴族家が出て来るのは想定内だったので、アニエスさん達の迅速な対応もあって余計な人間が来るのは防げてる。


 だがレッドフィールド公爵はそれで諦める事は無く、パーティー後も、よく訪ねて来るようになった。


 公爵本人は昨日、自領に帰ったようだが三つ子の娘は王都に残ったまま。


 公爵の代わりに三つ子達が手土産を持って訪ねて来るようになった。


 彼女達はジーク殿下の婚約者候補兼教育係の筈なのに、何を考えているんだか。


 …ジーク殿下が男色家になりつつある事で、見切りをつけたのだろうか。


 アレから何度か会ってるけど…日に日にスキンシップが過剰になってるからな。


 お忍びで出掛けるのにもハマったらしく、三日に一度は来るんだよな。


 勇者と聖女の件は未だ進展無し。


 書物からは大した情報は得られなかったし、情報漏洩を防ぐ為にも他国、他家に頼る事は出来ない。


 現状では完全なる手詰まり、保留にするしかなかった。


 そんな感じの一週間。今日は久々に冒険者活動の日だ。


 実はランクが一つ上がってEランクになったし。


 女のフリを止めて、侯爵兼冒険者になった事で装備も一新。


 軽鎧とサーコート。全身黒で統一した、実に男心をくすぐる装備。


 ノワール侯爵だし、黒がいいよね。うんうん。


 武器はショートソードからミスリルの宝剣に。


 装備だけは一流冒険者のような、金のかかった装備になった。


 てなわけで。


 新装備に身を包み、冒険者ギルドへ。


 アム達は当然の如く一緒で、カタリナも一緒に来ている。白薔薇騎士団からも護衛が付くのもいつも通り。


 違うのは冒険者ギルドに入ってからだ。


「来たな、ジュン―――」


「「「「「きゃああああ!」」」」」


 ギルドマスター・ステラさんがいつものように俺にセクハラしようと近付いて来たのと同時に。


 中に居たギルド職員、冒険者達から挙がる悲鳴。


 いや悲鳴では無く…歓喜の声?


「ちょ、えっ、ま?」「誰だよ、アレ、誰だよ!」「アム達と一緒に居るって事は…あの美人か?!」「マジかよ!男だったのか!」「もっと早くに気付いてれば…!」


 …この一瞬で俺がアム達と一緒に居た奴だと気付くのは流石冒険者というべきなのか。


 俺達を囲んでジリジリとにじり寄って来るのは怖いから止めて欲しいのですが。


 アム達も、煽るように俺に引っ付くのは止めなさい。


「あの、依頼を見たいんで通してもらえますか?」


「は、はひ!」


「ど、どどど、どぞ!」


 …貴女達、冒険者でしょ?男に声かけられたくらいで動揺せんでも。


 依頼を見てる間も背後から感じる視線の圧力が凄い。


 そんな一挙手一投足に注目せんでも。


 …依頼に集中出来ないな、これ。


「てか、ステラさん。離れてくださいよ」 


「なにぃ!アム達は良くて何故私はダメなんだ!」


「セクハラするからです」


 いつの間にか自然にアム達に混じって立ってるあたり、能力の無駄遣いが凄い。


 Sランク冒険者として培って来た能力を尻を撫でるのに使わんでも。


「お前達、もっと下がれ」


「このお方はジュン・レイ・ノワール侯爵閣下、御本人である。無礼の無いように」


 あ。護衛の白薔薇騎士団員が侯爵だってバラしちゃった。


 大丈夫なのか?バラしても。


「こ、侯爵様?」「マジかよ…あんな美形で侯爵なんて…」「逆玉のチャンス?」「あんたが狙ってるのは腰の玉だろ!」「おんなじことでしょうが!」


 ……うん。ダメだったな。サッサと依頼受けて出よう。

 

「えっと、何かめぼしい依頼はっと…」


「これなんかどうよ。南の平原に出る魔狼の群れ討伐。Dランクの依頼だけど、あたいらと一緒なら受けれるぜ」


 ふむ、魔狼の群れ討伐。魔獣化した野生の狼の群れか…悪くはないけど、一応他には……お?


「ブルーリンク辺境伯の依頼…ドライデンとの国境警備の応援?」


「ああ、それか。お前達はよく知ってるだろうがドライデンの動きが活発だからな。国境警備を強化するにあたって冒険者を雇って補強するんだ。臨時徴兵みたいなものだが、報酬はちゃんと出るぞ」


 ああ…そう言えばドライデンの問題もあったか。


 俺が解決しなきゃいけない問題というわけじゃないが、また関わって来そうで…やぁだなぁ…

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