第121話 またダメでした

「………」


「「「「「…………」」」」」


 結局、魔狼の群れ討伐依頼を受けた俺達は、王都を出てからは徒歩で目的地に向かっていた。


 いつもなら馬車で向かうのだが、王都から近いのと、魔狼は真っ先に馬を狙う為、馬車は止めて徒歩で向かう事に。


 徒歩なのは良い。それは良いんだ。


 しかしだな…


「大名行列か!」


「…なんだそれ?」


 冒険者ギルドに居た冒険者全員が付いて来た。そして人は人を呼び、どんどん増えて…冒険者でもなんでもない人まで来とる。


 中にはどっかの貴族令嬢や、どっかの貴族家の私兵まで…あんたら仕事はどうした?


「…貴女達、帰った方がいいですよ。冒険者や兵士っぽい人はともかく、丸腰の人だっているじゃないですか」


「わ、私達を心配してくださるんですか!」「尊い…尊い…」「マジ男神」「男の冒険者なんて伝説上の存在だと思ってた…」「素敵…」


 ダメだ。まともに会話が成立しない。帰ってくれそうにないなぁ…


「安心しな!」「これだけ冒険者が居るんだ!」「何が襲って来ても、護りきってやんよ!」「勿論大将もな!」


 なんか冒険者は冒険者でアピールして来るし。


 その筋肉アピールはイマイチなんで止めた方がいいですよ。


「…ふぅ。わかってはいたが、此処までになるとは」


「何がすげぇって、ジュンは別に何もしてないからすげぇんだよな」


「武装して歩いてるだけだよね」


「男が武装してるのが既に珍しい」


 そうなんだよ、ただ歩いてるだけなんだよ、俺は。


 女装って効果抜群だったんだなぁ…これじゃ大名行列というよりはハーメルンの笛吹きか?


 このまま全員消えたら伝承になっちゃいそうだな。


「てか、その前によ。このままじゃ魔狼も襲って来ないんじゃね?」


「魔狼の群れより多いもんね、これ」


「ん。魔狼は賢い」


 アム達の言う通りだろう。自分達よりも数の多い相手に襲いかかるほど、魔狼もバカではないだはず。


「…というわけで。俺達から離れてください。お願いします」


「し、しかし!」「それでは閣下を御守出来ません!」「魔狼退治など我らにお任せくだされば!」


 ……君ら冒険者だよね?何故、俺の部下であるかのように振る舞う?なにその騎士みたいなセリフ。


 さっきまでの粗野な冒険者っぽさは何処にやった。


「……魔狼程度なら傷一つ負わずになんとでも出来るから。護衛はちゃんと居るし、離れてください」


「くっ…畏まりました」「ご武運を…」


 ……最近の冒険者って演技派なのかな。どんどん騎士っぽくなってるぞ?


「で、離れたって言っても見える距離に居るし」


「ま、これだけ離れてりゃ平気なんじゃね?」


「もうすぐ目的地、魔狼がよく出る場所だよ」


「あの丘を越えたあたり」


 確か、今回の魔狼の群れは三十頭程度の群れ。群れだとソコソコの脅威だが単体ならちょっと強い狼程度。あの丘の向こうに小さな森があり、そこを塒にしてる可能性が高いとの事。


 森で狼と戦うのは面倒なので平原で戦えるなら、そうするのがセオリーだ。


「都合よく襲って来てくれたら楽だけどな」


「ん。平原なら魔法でドカンと一発」


「わたしの弓もあるしぃ」


 …なんか平原で襲って来たら俺の出番なさそ。いっそ単身で森に突撃してやっちまうか?


『それするとアム達だけやのうてギャラリーも突撃して来るやろ。んで、何人かは犠牲になるわけやけど…それでもやるん?』


 …やりません。魔狼の群れ討伐程度じゃ俺Tueeeeeは出来ないし、いいさ。


 いや、本当にそうかなぁ…魔狼の群れ瞬殺なら俺Tueeeeeと言えなくもないような…うう~む。


「見えた。あの森だな」


「アレか。しかし、魔狼の群れは見えないな。どうする?ジュン」


「もうちょっと近付いてみる?」


 …ギャラリーは帰ってないな。しっかり付いて来てる。 


 俺達が森に入ると、森の近くまでは来そうだなぁ。


「…仕方ない。もう少しだけ近付いて、肉を焼こう」


「…肉?腹減ったのか?」


「昼食には少し早くないか?」


 昼食の為に焼くんじゃない。幸い、森は風下だ。


 魔狼は普通の狼よりも鼻がいい。肉を焼いて匂いを森に届けてやれば…ほら来た。


「おっほ!来た来た!」


「大漁だな!」


「よっし!やっちゃえファウ!」


「ん。ドッカーン」


 ファウだけにやらせず俺も魔法を放つ。


 距離がある内に魔法を撃ち込めば…距離を詰める間に大多数を減らせる。


「おっし!近付いて来た奴はあたいに任せろ!」


「アム、私にもやらせてくれ」


「お願いだから俺にも回して!」


 此処まで辿り着いた魔狼は…五頭。内一匹はカウラが弓で仕留めてしまったので残り四頭。


「ふん!」


「ガウッ!?」「ギャイウ!?」


 …相変わらずカタリナの殺り方はアイアンクロー。

 

 両手で狼の頭を握り潰してしまった。


「ほーらよ!」


「キャイン!」


 アムも槍で一頭仕留めた。残り一頭。


 お願いだから俺に!俺にやらせて!


「お。もしかしてお前が群れのボスか」


「グルルルゥ」


 他と比べて一回り大きい個体。毛並も毛色も違う。明らかに強さの桁が違う個体。変異体か何かか。


 いいね!思いがけない形で俺Tueeeeeのチャンス到来!


「こいつは俺がやる!絶対に俺がやる!誰も手出しは………おい?」


「クウゥゥン」


 こ、こいつ…戦わずして降伏だとぅ!?あっさり服従のポーズをとりやがった!


「お、お前…狼の誇りはどうした!群れのボスの矜持は!お前の群れ、仲間を皆殺しにした俺達に服従するとは何事か!」


「いや、ジュン…狼だからこそじゃね?」


「強き者に従うのが彼らのルールなんだろう。良かったじゃないか」


「狼型の魔獣は一度従えれば絶対服従らしいし」


「ジュンの従魔にしちゃえ」


 いや俺は従魔が欲しいわけじゃないんだが?!俺が欲しいのは俺Tueeeee展開なんだが!?


「う、うおお!すげぇ!」


「あんな数の魔狼をアッサリ仕留めたぞ!」


「流石侯爵閣下!」


「護衛の連中も大したもんだぜ!」


 いや俺、魔法を二発撃っただけですけど?!群れのボスに至ってはホントに何もしてませんけど?! 


「「「「「ノワール侯爵閣下万歳!」」」」」


「「「「「ジュン様素敵ー!」」」」」


 止めて!こんなんで救国の英雄が如き扱いは止めて!


 なんか凄くハートが痛いし哀しい気持ちで溢れちゃうから!


『えー?結果だけ見れば、これがマスターの言ってた俺Tueeeeeなんちゃうの?過程が全然ちゃうとは思うけど』


 過程が大事なんだよ過程が!こんなん俺Tueeeeeじゃないわ!断じて!


 んもぉぉぉ!どうしてこうなるかなぁ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る