第119話 押し付けられました
「へ、陛下!ミ、ミスリルドラゴンが棲むミスリル鉱山とは一体!?」
「少なくとも私は初耳なのですが!」
陛下からのミスリル鉱山を俺に譲渡するという話に驚く貴族達。
そう言えば緘口令が布かれていたんだっけか。確かに知っているのは一部だけだったのは確からしい。
この場に居る貴族の大多数が初耳のようだ。
「うむ。説明しよう。緘口令を布いていたので一部の者にしか報せてなかったが、先に挙がったノワール侯爵が立てた功績の一件。魔草の栽培に使われた廃鉱山にミスリルドラゴンが現れ棲み付いた。ミスリルドラゴンは人語を解する知能があり、交渉の結果、そのまま鉱山に棲んでもらう事となった。そしてミスリルドラゴンが棲む場所はミスリルの鉱床となる。そうだったな宰相」
「はっ。ミスリルドラゴンが放つ魔力の影響を受けて石が変質しミスリルとなる…詳しい原理はわかりませんが、確かにミスリルが採れています。
「「「「………」」」」
……宰相のおばさん、意外とお茶目さんな一面もあるんだな。周りの反応は非常に冷ややかだが。陛下を含め。
「…んんっ。今までは盗掘やミスリルドラゴンへちょっかいを出す愚か者が出ないように緘口令を布き、重要機密事項としておりましたが必要な手配は全て完了。問題無くノワール侯爵へ引き渡せます」
それ絶対嘘!面倒な事が残ってるから、或いは管理が面倒だから俺に押し付けようって魂胆が見え見えだぞ!
だって旨味しかないなら王家で確保してた方がいいに決まってるし!
『ま、そんなとこやろな。周知しても問題無い環境くらいは作ってるんやろけど、マスターの…ノワール侯爵家の物になったら余計なちょっかい出す奴出て来そうやし…面倒臭い事になるかもやな』
そうだろうな!そうだと思ってたよ!
「うむ。ノワール侯爵には大勢の妻が出来るが領地が無い。武官・文官としての仕事も無い。収入源となる物が無ければ辛いだろう。ミスリル鉱山を上手く運営すればかなりの収入源となる筈だ。妻…いや、婚約者達と協力して上手くやるように」
「……はい」
正直言うと返したい!
ただの鉱山ならまだしも…番となる雄を探してるミスリルドラゴンがいる鉱山なんて、面倒臭い事になるに決まってるもの!
下手すれば最終的に俺が娶る事になる予感がビンビンするし!
だってこれ、アレだろ?女王陛下から下賜されたからにはミスリル鉱山としてちゃんと運営しないと、それはそれで周りから叩かれるんだろ?
俺じゃなくて婚約者達が!
『そうなるやろな。で、ノワール侯爵の妻に相応しくないとかなんとかイチャモンつけて新たな婚約者を捻じ込もうとするんやろな』
だよな!そうだよな!絶対に安定して運営しないとダメなヤツだよな!
「では、これで終わりだ。皆、解散…いや、アイシャとノワール侯爵は先に退がれ」
「「はい」」
これは純粋に陛下の気遣いだと思う。今、この場で全員同時に解散されたら…俺は身動きとれなくなるだろうから。
この場にいる貴族達に詰め寄られてもみくちゃにされるの間違いなしだろう。
有難いけど…ミスリル鉱山なんて爆弾を押し付けられた身としては素直に感謝出来ない。
「ジュン、ウチの部屋に行こ。そこで暫くやり過ごしてから帰った方がいいと思うから。ローエングリーン伯爵達も呼び行かせるからさ。安心して」
「…頼む」
謁見の間を出た後、アイの部屋でアニエスさん達を待つ。
カタリナとイーナも合流して少しの時間、ここで過ごす事に。
ミスリル鉱山の件を話たかったし、それはいいのだが…
「何故、ジーク殿下にベルナデッタ殿下まで此処に?」
「僕が居ては邪魔だとでも?ローエングリーン伯爵」
「いえ、決してそんな事は…」
「私もお兄ちゃん達と御話しした~い」
…いいけどね。今から話す内容は真面目な内容なのでつまらないと思いますよ、ベルナデッタ殿下。
あと、相変わらず近いですジーク殿下。手を握らないでください、お願いします。
「…コホン。しかし、面倒な事になったな」
「…ええ。まさか私達にミスリル鉱山を渡すなんて思いもよりませんでした。やっとミスリル鉱山に関するアレコレが終わって、王家に任せる事が出来たと思っていたのですが」
「事はそう単純な事ではないぞ、レーンベルク伯爵」
「どういう事かな?ローエングリーン伯爵はまるで母上が厄介事を押し付けたような物言いだけど」
「殿下の前でこんな事を言うのはなんですが…王家…いえ、陛下にとっていつ無くなるかわからないミスリル鉱山など、魅力のない物だったのでしょう」
どういう事なのか話すアニエスさん。
ミスリルドラゴンが居なくなればすぐさま廃坑になるミスリル鉱山。意思疎通が出来るとはいえ、相手は人ではなくドラゴン。
棲んでる間に上手く運営出来ている間はいいが突然居なくなれば、その責は管理してる者に行く。
ドラゴンの行動の管理なんて出来ようはずもないのに、そこを責めて来るのが貴族らしい。
その責を負うのを嫌った陛下は俺に渡す事を決めた。
「上手く運営出来て、ミスリルが供給され続ければ王家、王国の益となる。失敗しても特に王家の痛手となる事もない。そう陛下はお考えになられたのでしょう。…いえ、宰相の入れ知恵かもしれませんね」
「…なるほど。確かに母上は僕の親友に厄介事を押し付けたみたいだね。よし、母上に文句を言ってやろう」
「「絶対に止めてくださいね!」」
「……何故かな?」
それはそれで問題になるに決まってる。「陛下が下賜してくださった物に文句を言うとは何事か!」的な反応してアレコレと言って来るに違いない。
「そんなものなのかい?」
「そういうものだと思いますよ。…そう言えばベルナデッタ殿下が聖…ベルナデッタ殿下の夢について、陛下はなんと仰っているのですか?」
危なかった。カタリナとイーナはベルナデッタ殿下の未来視や聖女になる可能性については知らないんだった。
「…ああ、その件もあったね。母上も協力してくれるそうだよ。ただし、不必要に他言するな、とも言っていたよ。ベルもわかったね?」
「…?他の人に言わない方がいいの?」
「うん。そうだよ。ベルが将来何になりたいのかは秘密だよ」
「…うん。わかった、誰にも言わない」
何の事だかわからないカタリナとイーナは何か言いたそうだったが、アニエスさんが眼で制していたし、空気を読んで何も言わないようにしたようだ。
「…ふぅ。まだまだジュンとのイチャラブ新婚生活は送れそうにないな」
「…ですね。ジュン君に面会させろ、自分も婚約させろ、という者達も…陛下の牽制の御蔭でかなり減るでしょうけど…それでも何人かは来るでしょうから。それも潰さないとですし」
「…ああ、それもあったな。まぁ、有象無象の木っ端貴族は相手にせずに追い帰すだけでいいが…レッドフィールド公爵辺りは面倒だな」
「レッドフィールド公爵なら僕に任せてくれていい。ジュンの為だ。僕がガツンと言ってやるから!」
「…ありがとうございます。ですが殿下、御願いしますから、それ以上顔を近づけないでくださいね。あと、アイもスケッチするな」
「照れる事ないよ、ジュン」
「ウチの事は気にしないでいいから」
照れてません。そしてアイは兄を止めろ。自分の兄だろうが。
「…ず、随分と仲が良いのですね、御二人は…」
「で、ですが、ジュン様?そろそろ屋敷に戻りませんと。皆、パーティーの用意をしてお待ちですわよ。お母様も向かってる筈ですし」
と、イーナの進言もあって王城から出て屋敷に帰る事に。
パーティーと聞いて準備が終わり次第、自分も行くと言ってジーク殿下とベルナデッタ殿下も自室に戻って行った。
…御二人が来るとなると、余計な面倒が増えるんで自粛して欲しい…などと言えるはずもなく。
お忍びで城を出る事に慣れてるアイに二人の事は任せて城を出た。
城内では俺の事を探してる貴族達が大勢居たが、念の為に借りていた変装用の魔法道具で事なきを得た。
ミスリル鉱山の件、ベルナデッタ殿下の聖女問題。勇者と敵対するかもしれない件。
それからレッドフィールド公爵が絡んで来る件。ジーク殿下が俺と結婚出来ると思ってる件。
何より未だ俺Tueeeee出来てないという大問題。
大小様々な問題がまだまだ他にもあるけど…取り合えず俺Tueeeee出来ていないという大問題を早急になんとかしたい今日この頃である。
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