第116話 正解しました
「うんうん。素晴らしいね、美しいね」
「おおぅ…ジュンは何でも似合うな!」
明日はいよいよ叙爵の儀当日。仕立てていた上級貴族用の服が届いたので試着。皆の感想を聞いている所だ。
今日までに聖女や勇者について調べを進めていたが殆ど成果なし。
王室書庫でも大した情報はなかった。
精々、勇者と聖女は確かに存在していた、という事がわかったくらい。そしてメーティスが言っていたように聖女は予言者とも呼ばれていた事がわかったくらいだ。
ベルナデッタ殿下が聖女(になる)の可能性が高い、という話はアイから女王陛下に伝えたらしい。
話を聞いた女王陛下は直ぐ様俺達に箝口令を敷いた。
知っているのは俺達五人だけ…いや、メイドさんも一人いたな。
ベルナデッタ殿下付のメイドさん…大丈夫かな。消されたりしてないだろうか。
「ふふふ…明日の叙爵の儀には私も付いていくからな。エスコートは任せてくれ」
「ずるいわよカタリナ!わたくしだってエスコートしたいわ!」
「二人共何を言っとるか…お前達に任せる筈がないだろう」
「叙爵の儀に参加出来るのは貴族家当主のみよ。流石に王国の貴族家全当主が参加する事はないけど…それでも公爵家や大臣、宰相と言った重鎮が集まるのよ。そんな中でエスコートなんて…出来るの?」
「「うぅ…」」
ま、流石に叙爵の儀そのものではエスコートなんていないだろうが。
有ったとしても、カタリナとイーナの出番では無い、という事だ。
「本当に明日、ジュンは侯爵になるんだねぇ…えっと、なんだっけファウ」
「ノワール侯爵。ジュン・レイ・ノワール侯爵」
「そうそう!レイは院長先生に付けて貰ったんだよね?」
「…うん」
ミドルネームを付けるにあたって、育ての親である院長先生に考えて欲しいとお願いしたのだが…ベルナデッタ殿下の予言通り、ジュン・レイ・ノワールで決まった。
由来を聞いてみたが「内緒よ」と言って教えてくれなかった。
「お待たせっスよ!おっ!ジュン君が王子様みたいな格好してるっス!」
「素敵ですよ、ジュン君」
「ありがとうございます」
今日は俺が侯爵になる前祝いと称してパーティーだ。
何の為に用意したのかと思う程に広い部屋があったのだがパーティー会場だったらしい。
ローエングリーン家の使用人も応援に来て、パーティー会場の準備をしていた。
何せ白薔薇騎士団も参加するので大人数なのだ。
それ相応の広さと準備がいる。屋敷に居る使用人だけじゃ回らないのだ。
「それも2日続けてとか…一日でよくない?」
「駄目っス。明日はあたしらの家族も呼んでジュン君を紹介するんスっから」
「わたくしのお母様も参加は明日になるのですわ!明日も開いてくれなくては困りますわ!」
そうなんだ…明日は皆の家族も参加して更に大人数でやるのね……やっは中止しない?
「中止すると恨まれるわよ、きっと。諦めなさい」
「ジュンお兄ちゃん、お待た、ぶっ!」
「ジュンお姉ちゃん!」
「お姉ちゃん、髪切った?」
「なんか凄い服着てるー」
「カッコいい~」
院長先生達も到着だ。今回はパーティーという事もあって子供達も含めて全員参加。
孤児院の子供達は俺が男だというのはまだ教えられていないのか、お姉ちゃんと呼んで来た。
その子供達に押しのけられたユウは転んで鼻を押さえてる。
鼻を擦りむいて鼻血も流していたので魔法で治しておいた。
「うぅ…ありがと、お兄ちゃん」
「うん。それにしても、皆随分とおめかししてきたね」
院長先生はいつも通りだがピオラもジェーン先生もドレスを着てるし、子供達もドレス姿だ。
「貴方やクリスチーナ達が定期的に寄付してくれる御蔭よ。特許の収入もあるし」
「私達のドレスは自前だけど、子供達のドレスはクリスチーナからの贈り物よ」
「私達のドレスもかなり安くしてくれたしね」
ジェーン先生とピオラのドレス姿は初めて見たけれど…二人共に美人だし、よく似合ってる。
特にジェーン先生は胸元が大きく開き、背中も見えてる。かなり大胆なドレスだが…誰に見せるつもりで来たんだか。
「どうしたの、ジュン。先生に見惚れちゃった?」
「いや、馬子にも衣装だとおもっ、いふぁいいふぁい」
「相変わらず悪い事言う口はこれかな?このこの」
先生も変わらないな。見た目も中身も。相変わらず子供っぽい。
「んんっ。ジュン、お姉ちゃんはどう?何か言う事があるんじゃないかなぁ」
「……」
何を求めてるのかは判る。判るが…正直勘弁して欲しい。
一人褒めたら全員を…この人数全員を褒めなきゃいけなくなるのに。
どうしてこういう所は男女逆転していないのか。
「…うん。似合ってるよ」
「そ、そう?えへへ」
かと言って褒めないわけにもいかず。出来るだけ小声で伝えた。
しかし、子供達は目敏かった。
「あー!ピオラ先生だけズルいー!」
「お姉ちゃん、わたしも褒めてー!」
「あたしもー!」
勘弁してください子供達。せめてボリュームを下げて。
「あー…はいはい。ちょっと待って、一人ずつ順番に…あっ」
「ジュン君、今日はお招きありがとう」
「「「ありがとうございます!」」」
孤児院のお隣さん、エロース教ノイス支部の皆さんだ。
司祭様はいつも通りの司祭服で、シスター達もいつもはのシスター服だ。
ただし、そのシスター服がエロいのだが。
「ジュン君、本当に侯爵様になるんですね」
「これからはジュン様って呼べますね」
「いやいや。お世話になった皆さんは今までと変わらず…あれ?」
なんかジュン様って呼びたいように聞こえたけど、気のせいか?
…詮索はしないでおこう。藪蛇になりそうだ。
「私達で最後かしら」
「いえ、ギルドマスターがまだですね」
「あら、ステラも呼んだのね」
「呼ばないと拗ねるでしょうし。呼んで正解よ…あら」
「全く…人を子供みたいに言うな」
っと、いつの間にか俺の背後に立って俺の尻を撫でるギルドマスター、ステラさんがいた。
早く止めないと裁かれますよ。白薔薇騎士団にじゃなくて、ピオラに。
「髪型を変えたのか。素敵じゃないかって、イタタタ!」
「何してるんです…?死にたいんですか?」
「い、いや、おい、何処へ行く!引っ張るな!」
遅かった。ピオラに引っ張られギルドマスターは…姿を消した。
死にはしないだろうが…パーティーが終わるまでに戻って来るかな。
「全員揃ったか?ならパーティーを始めようか。ジュン、挨拶を…ん?」
「失礼します。ジュン様、お客様がお見えです」
「客?」
誰だ?もう招待した人は揃ってるが…アイか?
いや、今日は締め切りが近くて来れないって言ってたし…むさかジーク殿下か?
「悩むより、聞いた方が早いだろ。誰が来たんだ?」
「それが…レッドフィールド公爵と名乗っておられます。間違い無く、御本人かと」
「何…?」
今、客が来た事を伝えに来たのはローエングリーン家から手伝いに来てる執事の女性た。
その女性が言うからには間違い無いだろう。
…何しに来たのかは知らないが、追い返すわけにも行かないだろう。
「アニエスさん、此処は…」
「…ああ。此処へ通せ」
「よろしいのですか?応接室ではなくて」
「構わん。事前に前触れもなく来たんだ。無礼なのは向こうも同じだ」
「畏まりました」
執事さんが下がって、直ぐ様レッドフィールド公爵は来た。
共に来ているのはジーク殿下の教師役をしているという公爵の娘。三つ子と聞いていたが…なるほど、そっくりな、いや全く同じ顔が三人並んでる。初見で見分けはつかない程にそっくりだ。
それと護衛の騎士が五人。計九人でレッドフィールド公爵御一行はやって来た。
「突然すまないな、ジュン殿。公爵領からとんぼ返りで明日の叙爵の儀に参加する為に王都帰って来たのだ。それで屋敷に帰る前に挨拶だけでも、と思ったんだが…パーティーの最中だったとはな。大変失礼した」
「…いえ。構いませんよ。気にしないでください」
嘘つきだな。だって娘達は王都に居たんだろ?
明らかに娘を俺に紹介するのが目的じゃん。
「そう言って貰えると助かる。だが手ぶらで来たわけじゃないぞ?我が領地で作られているワインに果物だ。特にブドウは王国一と自負してる。そのブドウで作られたワインも絶品だぞ。是非納めてくれ」
「…ありがとうございます」
やっぱり急に来たわけじゃなく、事前に考えて来てるんじゃん。
しかも高価な贈り物じゃなく、ワインやら果物という…孤児院出身で庶民派の俺が受け取りやすい物を選んでるし。
その辺りの機微がわかるのは流石は公爵家の当主と言ったとこか。
「そして紹介させて欲しい。私の三人の娘達だ」
「長女のイザベラ・ラナ・レッドフィールドです」
「次女のイザベリ・リナ・レッドフィールドです」
「三女のイザベル・ルナ・レッドフィールドです」
「「「よろしくお願いいたします」」」
「「「「「……」」」」」
はい!もう誰が誰なのかわかりませーん!
同じ顔なんだから名前くらいわかりやすくしろよ!何で名前も似せて来るかな!ご丁寧にミドルネームまで似てるし!
『確かにな。デウス・エクス・マキナに登録する?』
デウス・エクス・マキナに登録?なにそれ。
『生体情報を可能な限りデウス・エクス・マキナにデータ収集させてな、マップを出して現在地を表示したり、視覚に名前とか立場とか簡単な相手の情報を表示させる事が出来るんや』
なにそれ、そんな事出来たの?聞いてないんだけど!
『言うて無かった?すまんすまん。で、どうする?』
軽いな…まぁいい。便利そうだし、試してみようか。
「さ、挨拶もすんだし帰るか」
「え?もう帰られるのですか?」
「招待もされていないパーティーに押しかけて、長居するほど礼儀知らずではないぞ、ローエングリーン伯爵。ではな」
「お待ちを、お母様」
「いつものアレをやりたいのです」
「構いませんでしょう?」
「…またか。手早く、一度だけな」
「「「はい」」」
いつものアレ?アレって何…あれ?出て行った…で、戻って来た。
「皆様、私達の名前を外さずに言えますか?」
「一度で正解された方には御褒美があります」
「このミスリルで作られた宝剣を差し上げますよ」
「「「さぁ、私は誰でしょう」」」
「左からイザベラさん、イザベルさん、イザベリさんですね」
「「「え」」」
「「「「「え」」」」」
早速デウス・エクス・マキナに登録した事が役に立っちゃったよ。
便利だなぁ、これ。名前覚える必要ないじゃん。
「「「せ、正解です…」」」
「ほう…母親である私でも間違えるというのに。よくわかったな、ジュン殿」
「…本当なのか?よくわかったな…」
「ジュン君…凄い…」
周りに誰もが驚いている。俺以外は誰もわからなかったらしい。
ま、俺もズルをしなきゃわからないんだけど。
「「「何故わかったのか、お聞きしても?」」」
「秘密です。教えるわけにはいきませんね」
「…なるほど。何らかのスキルかギフトだな。面白い…」
小声で呟くレッドフィールド公爵の解答は…まるっきり的外れでもないな。
そう考えてくれているなら、それで構わない。正解は言えないんだしな。
それにしても見事なユニゾンだな。流石は三つ子。
「良い物が見れた。いや知れた。お前達、帰るぞ」
「「「はい、お母様」」」
「おっと、その前に約束の宝剣だ。受け取ってくれ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「うむ。では明日また会おう。失礼する」
「「「さようなら、皆様」」」
そう言って本当に帰って行った。
マジでミスリルの宝剣を置いて帰ったよ。
これ、かなりの業物だろ?こんな簡単に渡せるなんて…凄いなレッドフィールド公爵家。
「すっげぇなジュン!あたいには全然わかんなかったぞ!」
「私もだ。一体何処で見分けたんだ?」
「秘密だってば」
予定外の来客だったけど宝剣なんて貰えたし、良しとするか。
なんてこの時は考えていたのだが…
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